妊娠した女性が新型コロナウイルスに感染するケースが「第4波」で急増しています。陽性のまま出産する女性や陰性になってから出産する女性。赤ちゃんへの感染や後遺症を防ぐために、難しい判断を強いられる医療現場を取材しました。

出産直前に「陰性」 自然分娩で赤ちゃんを生むことができた女性

大阪・泉佐野市にあるりんくう総合医療センター。新型コロナウイルスの患者受け入れを早くから積極的に行ってきた医療機関のひとつです。
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2021年6月、元気な赤ちゃんがこの世に生まれました。
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(古谷医師)「抱っこできるのが本当によかった」
  (女性)「よかった」
(古谷医師)「陽性だったらこの時点でもうバイバイ(隔離)だったからね」

女性は新型コロナウイルスに感染し、入院していた患者です。出産直前に受けたPCR検査で陰性とわかり、何とか自然分娩で赤ちゃんを授かることができました。

(古谷医師)「これも陰性までがんばってくれたご褒美」
  (女性)「よかった…」
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看護師が女性の胸元へ赤ちゃんを運びます。

 (看護師)「おめでとう~!!」
  (女性)「重たい」

女性の主治医で産婦人科の古谷毅一郎医師。女性が自然分娩できたことに安堵しています。

(産婦人科 古谷毅一郎医師)
「新型コロナウイルスにかかった段階では赤ちゃんがまだ小さくて、入院時はせきもひどく症状も強かったので、そういう状況がましになってお産できる体力、状態になってから幸い産気づいてくれた」

女性は自宅近くに住んでいた両親が新型コロナウイルスに感染、念のため受けたPCR検査で陽性とわかりました。すでに臨月を迎えていましたがせきなどの症状もあったため、りんくう総合医療センターに救急搬送されました。
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入院直後に撮影されたレントゲン画像です。肺は白くなっていました。

(産婦人科 古谷毅一郎医師)
「入院中、肺が真っ白になっている。出産2日後はだいぶきれいになっている」

女性はせきがひどく酸素吸入が必要な状態で、感染者専用の病棟で症状が治まるのを待ちました。コロナ陽性のまま産気づいた場合でも、病院は万全の体制を整えていたのです。

「陽性」のまま出産だと母親と赤ちゃんの最初のタッチができない

コロナ陽性のまま、お産を迎えた別の女性の映像。病室はいわゆる「レッドゾーン」で、ビニールシートに覆われ物々しい雰囲気です。医師や看護師らは全員防護服に身を包み、患者との間にもう1枚、飛まつ防止のためのシートがあるのがわかります。
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生まれたばかりの我が子を触ることはできません。写真を1枚だけ撮ると、赤ちゃんはすぐに保育器へ。赤ちゃんへの感染を防ぐためにやむをえない措置ですが、医師らも苦渋の判断を迫られています。

(産婦人科 古谷毅一郎医師)
「出産してまず顔を見てもらう。ただ最初のタッチができない。お母さんと赤ちゃんの愛着形成では、生まれてすぐに赤ちゃんにタッチしてもらうのは非常に大事なことなんですね。それが(感染していると)残念ながらできない。診ていてつらいところかなと思います」

新型コロナウイルスに感染した妊婦は医療従事者への感染を避けるため、1年前は帝王切開に踏み切る医療機関がほとんどでした。しかし、医学的に自然分娩ができるのであればその方が望ましい。りんくう総合医療センターでは感染症の専門医や助産師、小児科の医師と連携しながら、出産に踏み切ってきました。

(感染症センター長 倭正也医師)
「自然分娩が母体にかかる負担もいろんなことを考えると、一番自然な形かと思いますので。我々がきちんと感染対策を取って行えば、スタッフへの感染もないことが確認されているので、りんくう総合医療センターではそのようにしている」

羊水などの「陰性」を確認 母乳による育児認められる

陽性から陰性とわかった直後に出産した女性が、退院して2週間後の検診で病院を訪れました。赤ちゃんは順調に成長していました。
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今のところ妊娠中の赤ちゃんへの感染は確認されていないとされていますが、病院では羊水、へその緒、胎盤(裏表)、分泌物、母乳、全ての陰性を確認。そのうえで母乳による育児を認めています。しかし、気がかりなのは新型コロナウイルスによる後遺症です。

  (女性)「元気は元気だけれども、あと咳が…たまに頭痛くらい」
(古谷医師)「コロナにかかって産んで、それで終わりじゃないところがね…。いろんな苦労がね、後遺症があったりね。データを積み重ねていかないといけない。体力も奪われるからしんどいよね」
  (女性)「でも前向きにいかないと、落ち込んじゃうから…」

大阪産婦人科医会は去年3月~今年4月までで、新型コロナウイルスに感染した妊婦は168人にのぼり、妊娠後期の妊婦ほど症状が出たという調査結果を発表しています。また今年3月以降の第4波では、妊婦の感染も急増しことを明らかにしています。

付き添ってくれた医療チームに感謝

第4波の最中に新型コロナウイルスに感染し出産した女性、ぎりぎりまで付き添ってくれた医療チームに感謝の言葉を口にします。

(女性)
「医療従事者の方がよくしてくれて、こっちもイライラしていたから、話も聞いてくれて…。コロナ病棟に助産師さんもいて、優しく気長に接してくれて、赤ちゃんのことも『大丈夫』と励ましてくれたので、何とか私も」

コロナ患者の妊婦の出産は決して数は多くはないですが、叶うならば母子共に安心して出産してほしい、医療現場の取り組みは続きます。

(7月8日放送 MBSテレビ「よんチャンTV」内『コダワリ』より)