かつて都として1000年以上栄えた京都。近年、発掘される出土品が急増して、それを保管するスペースが足りなくなるなど、出土品の管理方法が課題になっているということです。現状を取材しました。

「もう限界を超えている。これ以上置けない」

古都・京都。歴史を刻み続けてきたこの街の地中には、いまも多くの文化財が眠っています。
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京都市の出土品を収蔵する「伏見水垂収蔵庫」(京都・伏見区)には、明智光秀が主君の織田信長を討った『本能寺の変』の際に焼けたとされる貴重な瓦がいまも残されています。
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ほかにも古墳時代後期の須恵器など、ここに保管されているのはすべて京都市内で発掘された出土品で、博物館などで展示されたり研究に使われたりする重要なものばかりです。しかし近年その保管方法に悩まされているといいます。
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(京都市埋蔵文化財研究所 内田好昭管理課長)
「置き場所がなくなって通路にまで置いてある状態になっています。もう限界を超えていますから、もう厳しくなっています。ここはこれ以上入らないということなので、ここにはこれ以上置けない」
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棚に入りきらず、通路にずらりと並んだ出土品。
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大きな甕(かめ)も無造作に置かれています。
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窓際には大量のケースが積まれ、人が通るのもやっとの状態です。なぜ今これほど多くの出土品が見つかっているのでしょうか。

(京都市埋蔵文化財研究所 内田好昭管理課長)
「ホテルの建設ラッシュがありまして、それに伴って発掘調査の件数も増えている」

つなぎ合わせた出土品を“割って収納”という選択も

新型コロナウイルスの感染が広がる前、京都を訪れる観光客の急増に比例してホテルの建設が相次ぎ、それに伴って発掘調査も年々増加。1年間で出土品を保管するケースで2000箱分ほどだった出土品の発掘量が、2018年のピーク時には約2倍となる4000箱分以上にまで増えていました。
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そのため展示などができるようにつなぎ合わせた出土品でも…。

(京都市埋蔵文化財研究所 内田好昭管理課長)
「1つのやり方として、もう1回割ってしまうと、箱には入るんですけどね。元々割れているものですから、壊すわけではないので、もう1回分割して箱に収めていくやり方はできるかもしれませんけど。(Qもったいない?)そうですね。博物館で展示したいときにもう1回くっつけるのも手間ですので、この状態で置いておくのが一番いいかなとは思います」

“本格的な設備”がなく業務用の除湿器や防湿剤で対応

京都市の別の収蔵庫「下鳥羽収蔵庫」(京都・伏見区)ではほかの問題も起きているということで案内してもらいました。

(京都市埋蔵文化財研究所 内田好昭管理課長)
「こちらは金属製品や木製品のほか、骨や貝など自然の遺物で、収蔵環境を整えないといけないものを置いています」
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ここには特に乾燥や湿気に弱い出土品が中心に置かれているだけに温度や湿度に厳重な注意が必要です。例えば、木製と金属製の出土品では保存する際の湿度や温度が異なり、別々に管理するように推奨されています。

しかし、業務用の除湿器は置かれているものの、出土品別に管理できる本格的な設備がないため、ケースに防湿剤を入れるなどして対応せざるをえません。
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(京都市埋蔵文化財研究所 内田好昭管理課長)
「きちっとした処置はできているのと、ちゃんと箱に入れてあまり光に当てないようにしていますので、その辺では大丈夫だと思うんですけども。木の保管環境として最良かどうかというと問題があるかなと思います。専門の施設がほしいですね」

市内には出土品を保管する施設が8か所ありますが、4~5年後には全ての施設で収容能力の限界を迎えるといいます。

神戸市では素材別に温度&湿度を自動管理

では、ほかの自治体ではどうなのでしょうか。京都市の4分の1ほどの出土品がある神戸市の「神戸市埋蔵文化財センター」を取材しました。ここでは木製や金属製といった種類に合わせた収蔵庫を整備しているといいます。
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扉だけで800kgあるという重厚な扉の先には金属製の出土品専用の部屋がありました。
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神戸市は、30年前に埋蔵文化財センターを設立し、木製と金属製の出土品で部屋を分けるようにしています。
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また、収蔵庫の温度と湿度を自動で管理でき、異常があれば学芸員らが待機する事務室に警告音が鳴るようになっています。このような施設は大阪市や奈良市にも整備されています。
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(神戸市文化財課 中村大介学芸員)
「24時間空調しないといけないので、オートメーション(自動)のシステムがないとスイッチを入れたり切ったりは人為的にはちょっと難しいと思うので、まずはそれがあった上で安全な管理ができるかなと思います」

京都市の課題は財政状況と増加量

ではなぜ京都市では本格的な施設が整えられていないのでしょうか。京都市の担当者に話を聞きました。

(京都市文化市民局文化財保護課 馬瀬智光課長補佐)
「京都市の財政が以前から厳しい状況が続いているというのが1つ。あとは出土品が増えすぎるというのがあると思います。(毎年)何千箱も増えていきますから、その増えていく量に対してどうやって施設を準備するのかというのが問題になっていると思います」
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埋蔵文化財に詳しい同志社大学の水ノ江和同教授は、貴重な出土品を生かしきれていないと指摘します。

(同志社大学文化財保護研究センター 水ノ江和同センター長)
「早くしないとどんどん劣化していきます。圧倒的にほかの地方公共団体より間違いなく文化財のクオリティが高くて量も多いわけですから、保存と活用の理念と手法を考えていただいて、人とお金を計画的にぜひ進めていただければいいんじゃないかなと」

増える一方の歴史的遺産。古都ならではの問題に関係者は頭を悩ませています。