新幹線で人だけではなく荷物も運ぶ「貨客混載」。2021年ごろからJR各社で取り組みが始まりました。そして去年、新大阪と東京を結ぶJR東海もこの取り組みに参加したことで、新幹線輸送の全国ネットワークが完成。2月7日に大阪で初めて開催された、全国の味覚を楽しめるフェアに密着しました。
新幹線が運ぶのは全国各地の新鮮な『特産品』
2月7日、大阪駅直結の商業ビル「KITTE大阪」で開かれたJRの物産フェア。その日、水揚げされた山口県のクルマエビや、愛媛県のカワハギ、鹿児島県の畑で朝収穫したばかりのそら豆など、新幹線を使って全国から運ばれた特産品が並びます。
(買い物客)「海産物の鮮度がいいやつがくると聞いたので。サザエです。晩ごはんに刺身で」
JRグループ6社は、新幹線で人とともに食材などを運ぶプロジェクトを進めていて、その一環として開催されました。
JR西日本で現場を任される西紗都子さん。全国を飛び回り新たな輸送の可能性を探ってきました。
(JR西日本・地域共生部 西紗都子さん)「その地域だけでしか使われていないものを各地に持っていく。新幹線輸送の強みをしっかりアプローチしたいと思っています」
新幹線で運ぶメリット『揺れが少ない』『大都市に直接乗り入れ』
1月、西さんたちはフェアに向け、JRグループ各社とのオンライン会議に参加していました。
【オンライン会議の様子】
(西紗都子さん)「商品確定しつつあるんですけども、JR九州の商品がまだ確定できていないところがあるかなと思うので、すり合わせたいと思います」
エリアをまたいだ輸送となるため連携は不可欠です。新幹線の到着時刻や品目について入念に確認を重ねます。
【オンライン会議の様子】
(JR東海担当者)「東海道新幹線でくる荷物としては最初かと思っています。ぴよりんと一緒にJR東日本の駅弁も一緒に届くと思います」
(JR九州担当者)「明太フランスと梅ヶ枝餅は整理券対応した方が良いのではないかと」
(西紗都子さん)「梅ヶ枝餅は焼きたてで初めて大阪に届けられるんですよね」
(JR九州担当者)「もっていきます」
(西紗都子さん)「受験シーズンにいい商品ですね」
速さという点では飛行機に及びませんが、新幹線はほとんど揺れがなく、大都市の駅に直接乗り入れています。この優位性をいかし、これまで産地でしか手に入らなかったような品を、多くの消費者に届けるのが使命です。
県外にほぼ出回らない「極限まで熟したあまおう」を目玉に
1月下旬、西さんの姿は九州にありました。やってきたのは福岡・久留米市の農園。今回の目玉にしたいものがあるといいます。
福岡県のブランドイチゴ『あまおう』です。関西のスーパーなどでもよく見かけますが、西さんが挑戦しようとしているのは、極限まで熟した状態で収穫した“朝どれ”あまおうの新幹線輸送です。
(西紗都子さん)「みずみずしい。ハリというか、ふっくらしている感じが全然違う。ちょっとすっぱい気もする」
あまおうの特長とされる、ほどよい酸味は、収穫から時間が経つと薄れてしまいます。よく熟したものを収穫し、すぐ運ぶことで、産地と同じ本来の風味が楽しめるはずと考えたのです。
(よっちゃんファーム 下坂よしきさん)「甘いだけのイチゴはいっぱいあるので、あまおうはそうじゃないんだよと伝えることも大事」
しかし、熟せば熟すほど衝撃などには弱くなるため、これまで県外にはほぼ出回っていませんでした。揺れが少ない新幹線輸送のメリットを最大限に生かします。さらに…
(よっちゃんファーム 下坂よしきさん)「ひとつひとつが独立しているので、果実どうしが当たってつぶれる心配もない」
普通の容器ではイチゴ同士が接触し、そこから傷んでしまう恐れがあるため、新しい包み方を試します。
その日のうちに、実際の輸送と同じ手順で運んでみることに。JR九州と連携し、久留米駅で新幹線に積み込みます。
(西紗都子さん)「もともと車内販売していたのがなくなったので、その空きスペースを活用しています」
ここに各地の停車駅から特産品が集まり、一気に輸送されることになります。揺れはほとんど気になりません。約3時間で新大阪に無事到着しました。
運んだあまおうをホテルで?将来を見据えたもうひとつの仕掛け
実は西さん、将来的な販路の拡大を見据え、もうひとつ仕掛けていました。新幹線で運んだあまおうを、ホテルのレストランで使ってもらおうというのです。
大阪に戻ったその足ですぐに商談。福岡県の担当者と一緒に熟れ具合が異なるあまおうをいくつか持ち込み、試食してもらいます。
(福岡県職員 田中有理さん)「新幹線の輸送に耐える熟度、おいしい熟度の合うポイントはどこか。召し上がっていただいて、意見を頂戴できればと思いまして」
(大阪ステーションホテル 吉田修シェフ)「個体差はあるけど、使うとしたらこれ(完熟から1日後収穫)かな」
(大阪ステーションホテル 松森康記総料理長)「僕もこれ(完熟から1日後収穫)です。あまおうの良さが出ている。完熟から2日たつと酸味がなくなってしまって、ただの甘い大きなイチゴになってしまうので。これ(完熟から1日後収穫)が一番いいのかなと」
このイチゴを使ったデザートを試作してくれることになりました。
フェア当日 試食した人も思わず「これおいしい!」と興奮
2月7日。物産フェアの当日です。新大阪駅で新幹線から次々と降ろされる荷物。そのなかに福岡から届いたあまおうもありました。
会場のKITTE大阪は、午前11時のオープンとともに、ひと味違う特産品を買い求める人たちで大にぎわい。大阪初開催とあって、JR西日本の社長も…
(JR西日本 長谷川一明社長)「ブリのたたきと、からし蓮根(を購入)。帰ってからおつまみにしようと。こういった事業も新しい可能性を探っていきたい」
そして…
(会場アナウンス)「あまおうが届きました。久留米から届いております」
その日の朝に収穫したばかりの、よく熟したあまおうです。
(西紗都子さん)「(Q傷は大丈夫?)大丈夫です。問題ないです。(Q福岡で見たものと比べてどう?)全然遜色ないくらい。とれたてが新幹線で届けられてうれしいです」
値段は1粒550円(税込み)。1日90個限定です。試食した人たちに話を聞くと…
「これおいしい!酸味が来て甘味が来るからイチゴとしては最高にいいと思う」
「イチゴ狩りに行って、もいだくらいのフレッシュさは感じますね」
「旅行気分ですね。なかなか旅行に行けないので。来られて良かったなと思います」
「各地の名物がすぐに売れる反響が見えた」
(西紗都子さん)「JR各社が同じ気持ちで寄り添ってくれたのが心強くて、改めてチームでやってるなという気持ちになりました。各地の名物がすぐに売れるという反響が見えたのもうれしかったです」
日本を縦断する新幹線網を使った輸送手段。JR西日本は今後グループ各社と連携し、幅広い分野に活用していく方針です。