阪神戦を支える駅長の裏側に密着しました。阪神の試合開催日には1試合で約3万人の観客が利用する阪神電車『甲子園駅』。その駅長は通常業務とは別に試合の内容と深くかかわる特別なミッションをこなしています。取材した日、試合結果を確信した駅長が下した決断とは。
駅長のミッションは『臨時列車の本数』『ベストな出発時間』の決定
6月28日(水)午後3時半。試合開催日の阪神電車・甲子園駅。
(阪神電鉄甲子園駅管区 福崎信次駅長)
「すごい雨ですね。だいぶホームが濡れてしまいました」
試合を前に強い雨が降る甲子園。このままでは開催が危ぶまれますが、まったく動じることのない福崎信次駅長。
(阪神電鉄甲子園駅管区 福崎信次駅長)
「たぶん4時すぎくらいにやむのかなと思いますので、それであれば水はけのよい甲子園球場ですから大丈夫だと思います」
(濡れたホームの水切りをする福崎駅長)
「(Q駅長自ら作業を?)誰がやっても一緒です。いる者がやったらいいと思っています」
駅長の予想通りすぐに雨が上がりました。球場へ向かう人たちを乗せた電車が次々と到着。扉が開くと人が一気に改札口に流れます。駅長もホームに立ち誘導。どこまでも現場主義です。
(誘導する福崎駅長)
「前の球場出口にお進みください」
(阪神電鉄甲子園駅管区 福崎信次駅長)
「お客さまの安全もよく見ないといけないのはもちろんですけど、やっぱりどれくらいのお客さまが来られているのか」
球場の観客数を予測する駅長。重要なミッションがあるからです。
午後6時、プレイボール。この日は阪神対中日。駅長はテレビ中継で観客数を確認。阪神の攻撃になると試合の行方が気になります。
(阪神電鉄甲子園駅管区 福崎信次駅長)
「いま試合の展開がどれくらいの進捗具合かなと」
駅長のミッションは、試合終了後に『観客輸送の臨時列車を何本走らせるのか』ということと『ベストな出発時間のタイミングを決める』ということ。なのでテレビから目を離せないのです。
2回表、中日が2点先制。交流戦から調子がいまひとつな阪神ですが…。
(阪神電鉄甲子園駅管区 福崎信次駅長)
「でもプロ野球の解説者は『まだまだ心配に及ばない』と言っていますよね」
あくまでも阪神の快進撃を信じる駅長はもちろんタイガースファンです。
球場にも入って「観客数」を把握
午後7時、それまでテレビを見ていた駅長が突然動き出しました。駅長室を出てどこに向かうのでしょうか?
(阪神電鉄甲子園駅管区 福崎信次駅長)
「甲子園球場の中に向かいます。甲子園球場に今お客さまがどれくらいいるかとか」
チケットの販売数と実際の観客数は違うため、球場の中に入ってその数を確かめます。これまでの経験で、スタンドの空席を見るとおおよその観客数がわかるそうで、臨時列車の運行計画に役立てます。
(阪神電鉄甲子園駅管区 福崎信次駅長)
「(Qお客さんの入りは?)案外入っていまして。3万4000人かな」
首位争いをしている阪神。試合前に雨が降ったとはいえ、ライト側はほぼ満席で3万4000人と見積もりました。ですが中日にリードを許して阪神は6回まで得点することができません。阪神ファンの駅長は…。
(阪神電鉄甲子園駅管区 福崎信次駅長)
「最後まで期待しています。サヨナラを期待しています」
試合中に雨!…しかし駅長は試合続行を確信
そして7回、甲子園球場に突然の雨が。
(阪神電鉄甲子園駅管区 福崎信次駅長)
「すごい雨やな。どんなもんやろう、見てみます」
外に出て確認すると…。
(阪神電鉄甲子園駅管区 福崎信次駅長)
「全然というとあれですが、まだ知れてますよね」
雨の降り方を見て試合は続行すると確信。冷静な駅長です。この雨が幸いしたのかラッキーセブンに試合が動きました。2アウト、ランナー1、2塁でバッターは近本選手。打球はレフト線へ。同点タイムリーに。
(阪神電鉄甲子園駅管区 福崎信次駅長)
「同点になりましたね、すごいですね。このまま一気に逆転ですね。この回で一気にたたみかけてもらいましょうか」
まだまだ試合を楽しむ余裕のある駅長。逆転を期待しますが2対2の同点で7回は終了。
試合は同点で延長に…ベストタイミングで『臨時列車』を出せるか
残すところ、あと2回。臨時列車を決める時が迫ってきました。列車の運行を管理する社員が駅長をサポートします。
(阪神電鉄運輸部 高橋哲哉さん)
「臨時列車用のダイヤグラムを見ています。もし午後9時に試合が終わったらどの列車かなと予習しているところですね。だいたいあたりはつけておくんですけど、試合展開はその通りにいかないので、もしこうなったらどうかなというのを事前に考えておくという感じです」
試合は同点のまま9回に突入。サヨナラか延長か…展開が読めません。駅長室に緊張が走ります。
(阪神電鉄甲子園駅管区 福崎信次駅長)
「ラジオを持っています。いつでも聞けるように。(Q駅長室を離れる時は?)そうです。でないと試合展開がわかりませんからね。ラジオが一番早いですもんね」
午後9時前、平日は試合途中でも帰る観客が多いそうで、一度ホームに上がり様子を見にいきます。
(阪神電鉄甲子園駅管区 福崎信次駅長)
「まだ全然帰ってこないですね」
同点の好ゲーム。この日はまだ帰る人は少ないようです。
9回裏、阪神の攻撃。バッターは三振に倒れ延長戦に突入。
(福崎駅長)「延長になってしまった」
(高橋さん)「頑張りましょう」
(福崎駅長)「試合としてはいい試合でしょうけどね」
多くの観客をスムーズに輸送するベストなタイミングで『臨時』を出すのが腕の見せどころ。
臨時列車は甲子園駅や近くの駅・車庫で待機していて、いつでも発車できるようにしています。
試合はまだ終わっていないが…駅長が『決断』!
そして延長10回、中日の攻撃。ランナー2塁からライトへの勝ち越しタイムリースリーベースが出ました。
(阪神電鉄甲子園駅管区 福崎信次駅長)
「負け試合は負け試合で一気に帰ってきますので」
さらに1点とられたところで、駅長は決断。観客が球場から駅まで移動する時間を考慮します。
(阪神電鉄甲子園駅管区 福崎信次駅長)
「午後9時35分くらいに終わったとして…55分発でええか」
神戸三宮行きの臨時急行1本を午後9時55分発にしました。駅長は試合が終了していないにもかかわらず、阪神が負けると確信。ゲームは続いていますが、さらに大阪梅田行き3本の臨時特急の運行を決定しました。
(連絡する福崎駅長)
「それでは上り(大阪梅田行き)臨時特急3本です。下り(神戸三宮行き)は臨時急行1本です」
予想通りに試合終了…ベストタイミングで『臨時特急』が到着
そして午後9時半すぎ、駅長の予想通り試合終了。阪神の負けが決まると観客は一気に帰ってきました。改札やホームは大混雑です。
(阪神電鉄甲子園駅管区 福崎信次駅長)
「すごい人ですね。試合終了から1時間が勝負です。あとは臨時列車はこれでよかったのかとか自分の目で検証する」
試合終了から約15分。ホームが観客であふれる前に大阪梅田行きの臨時特急が到着しました。臨時の運行は分散乗車に効果を発揮。1時間で駅や列車の混雑を抑えることができました。
(阪神電鉄甲子園駅管区 福崎信次駅長)
「(Q今日の臨時列車を出すタイミングは良かった?)今日は十分だったと、ちょうどかなと思います。お客さまの安全と誘導には気を遣って。鉄道会社は安全が第一ですので。皆さんが来てよかったなと思えるような、また来たいなと思えるような駅を目指していますので、これからもしっかり取り組んでいきたいなと思います」