京都市にある市営保育所が今年度の入所者の募集を一旦は受け付けたにもかかわらず、突然保護者らに「1歳と3歳児以外の受け入れを中止」とする通知が届き、混乱が広がっているという問題を今年4月にMBSで放送しました。その後、今度は保護者らに「保育所を廃止する方針」という通知が京都市から突然届きました。一体、保育所を巡って何が起きているのかを取材しました。

「保育所を廃止する」京都市から届いた突然の通知

京都市中京区にある「市営聚楽保育所」。現在82人の園児が在籍する市営の保育所です。4歳の長女を通わせている橋本さん。自宅は保育所から近く徒歩5分ほどです。今年5月、橋本さんのもとに京都市から突然「約5年後に聚楽保育所を廃止する」と書かれた通知が届きました。
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【京都市の通知より(一部抜粋)】
『地域の保育ニーズ等を踏まえ、聚楽保育所については令和8年度末をもって廃止する方針』

(橋本さん)
「すごくびっくりしたし、そこまで公立で保育所をやりたくないんやなと。『地域の保育ニーズがないから』ってプリントにも書いてあって、そういう印象はないんですけれども。『もう要らない保育所なんだ』みたいに言われたのかなと思って、それもすごく悲しかった」

京都市からの突然の通知。こうした事態は初めてではありませんでした。

過去にも突然の「入所枠制限」の通知

京都市では例年秋に翌年度の新規入所の募集を行い、聚楽保育所にも入所枠を設けていました。しかし、申し込みを締め切った後の去年12月、市から保護者らに次のような通知が届きました。

【京都市の通知より (一部抜粋)】
『1歳児及び3歳児についてのみ、受け入れ枠を設定します』

突然、入所枠を「2つの学年のみに限定する」という通知でした。聚楽保育所を巡っては、来年度から京都市から民間の事業者に運営が移管されることが決まっていました。しかし、去年10月に事業者側が突如辞退したことで、『移管』から『廃止』に事実上方針転換したのです。
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橋本さんには0歳の次女がいますが、長女と同じ聚楽保育所に入れることができなくなり、自宅から離れた別の保育所を探さざるを得なくなりました。

(橋本さん)
「子どもを保育所に入れる時って本人も緊張してずっと泣くんですけれども、お姉ちゃんがいて毎日送り迎えしている保育所だから、安心して過ごせるかなと思っていたんですけれども…」
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夫婦共働きのAさんも次男を聚楽保育所に通わせようと申し込み、何度も京都市と交渉しましたが拒否されました。

(Aさん 今年3月)
「絶望しかなかったです。私の家庭は夫と私の両方が早出があったり残業があったりするので、聚楽保育所でなければフルタイムでの復職はできないことがわかっていたので」

聚楽保育所であれば徒歩10分ほどでしたが、別の保育所へは路線バスもなく徒歩20分以上かけて送り迎えをする事態となりました。

(Aさん)
「時間もかかるし体力的にもかなりきついなと。これを仕事前に毎日しないといけないのかと思うと、本当に大丈夫なのかなと、不安しかないです」

最後は1人ぼっちに…通っている園児も不安

聚楽保育所に現在通っている園児も不安な日々を送っています。1歳の女の子・結生ちゃん。保育所最年少で同学年の園児はいません。

市は結生ちゃんが卒園する5年後の2026年度末まで廃止しないとしていますが、新たな園児は受け入れない方針です。だんだん園児が減っていく中、最後はひとりぼっちになる可能性も…。

(山口茜さん)
「結生ちゃんが1人で最後の学年を過ごすのはやっぱりよろしくないなと思うし、本人もいやがるだろうなと。まあまあシュールですよね。やっぱり転園も視野に入れて検討していくしかないと思います、現実的には」

廃止方針の決定について京都市は?

本当に聚楽保育所にニーズはないのでしょうか?そもそも廃止方針の決定について保護者らへの事前連絡はなく、今年5月に市が急きょ開いた説明会は紛糾しました。

【今年5月に行われた説明会の音声】
(保護者)「なぜ、一番意見を聞かないといけない、この保育所を利用している僕らに何も聞かなかったのかなと。ちょっと不思議に思ったんですけれども」
(京都市の担当者)「こんな言い方するとあれですけど、たぶん誰も廃止に賛成される方なんておられないと思います。だから保護者さんの要望というよりも、基本的にこちらが想定するニーズを主に今回検討した」
(保護者)「だったら説明会をする意味が、はっきり言ってないかなと思うんです。一緒に考えてください、モヤモヤしているのを何とかしてよと思うので。それを『決まったことなので』と言われても、ただただ苦しくなるだけなので」

京都市は今年6月、保護者らに廃止方針を通知した直後に議会にも条例案を提出。その後、条例案は可決されました。

廃止を急ぐのは『市の財政難』が影響

なぜ、市は廃止を急ぐのでしょうか?取材班が話を聞くと…。

(京都市幼保総合支援室 村上文彦課長)
「京都市の財政が厳しいという状況で、年明けてから、行財政改革の視点も含め、あらゆる検討を行っていくという中で、民間移管という選択肢が現実的には実現できない、見込みがないということで、最終的には(次の)方針を出さなければいけないところがあるので」

京都市は今、深刻な財政難に陥っています。借金返済に充てる基金をすでに800億円以上取り崩すなど、財政再生団体への転落も危惧されていて、財政再建の一環として保育サービスにもメスを入れる構えです。

(京都市幼保総合支援室 村上文彦課長)
「保護者の方からすれば納得はなかなかできないと思いますよ、そりゃ廃止と言われて。基本的に我々の考えについてはお伝えできますけれども、それについて“納得して下さい”ということではないと思います」

保護者らから反発の声が上がる中、一方的に廃止を決めるやり方に問題はないのでしょうか?保育行政に詳しい専門家は。

(関西大学人間健康学部 山縣文治教授)
「当初『民間移管』という方針だったものを突然『廃止』という方針にすると。その『廃止』決定までの期間が非常に短いという意味では、手続きが適正であったかどうか若干疑問があると。“ニーズがない”という言い方で切り捨てるには、80(人以上の園児)というのは十分あるよと」
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財政難を理由にした市営保育所の廃止。「子育て環境日本一」を掲げる京都市の判断としては、あまりに拙速ではないでしょうか。

(8月23日放送 MBSテレビ「よんチャンTV」内『憤マン』より)