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【特集】中国の高速鉄道事故から10年...「世界一の高速鉄道網」に "新幹線技術の提供"に関わった川崎重工の元社長が初証言

2021年01月26日(火)放送

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2011年、中国で高速鉄道の衝突事故が起き、その直後に車両を地中に埋めるなどの行動をとったことで世界中を驚かせました。当時、日本の新幹線技術を中国に提供するプロジェクトに関わっていた川崎重工の元社長が初めてカメラ取材に応じました。

中国の衝突脱線事故から10年

今や世界一の高速鉄道網を誇る中国。武漢にある中部地区最大の高速鉄道の車両基地には、約100編成が整然と並び、早朝の出発に備えます。

そんな中国の高速鉄道にも苦い歴史があります。2011年、中国・浙江省で起きた衝突脱線事故。4両が高架橋から転落する大惨事でした。死者40人、負傷者172人に上りました。

さらに中国鉄道省が行った事故処理が世界を驚かせます。原因究明などお構いなしに、車両を解体して、地中に埋めたのです。追突した車両は、日本の川崎重工が新幹線技術を提供して中国企業が製造したものでした。

あれから10年、プロジェクトに関わった川崎重工の元社長・田崎雅元さん(※「崎」は正しくはたつさき)が、初めてカメラ取材に応じました。

(川崎重工業・元社長 田崎雅元さん)
「落雷があったと、通信回路が破損して列車が止まったと、運行できなくなったと。そこに止まれという指令がなかったから行ったと、こんな話です。」

中国鉄道省は事故原因を「車両トラブルではなく信号設備の欠陥と現場の人為的ミス」と発表。信号設備など運行管理システムは、外国メーカーの技術をもとに、中国が独自開発したものでした。

中国の“したたか”な戦略

中国における高速鉄道の歴史は1995年にさかのぼります。北京-上海間1300kmを、それまでの14時間から5時間に短縮する計画でした。

新幹線の輸出に意欲を燃やしていた日本は1998年に元首相やJR各社の社長ら80人のチームを組織します。江沢民国家主席来日の際は、日本の新幹線が誇るスピード・安全性・車内の静かさなどを直接アピールしたのです。小泉純一郎元首相も胡錦涛国家主席に訴えました。

日本の狙いは「北京-上海プロジェクト」の受注でしたが、中国は別の計画を発表します。全国にある「既存の鉄道網を高速化する」というのです。入札を希望する外国メーカーには条件を突きつけました。それは“車両を輸出する”のではなく“車両製造の技術を移転する”ということでした。この条件に反対の声が上がりました。

(JR東海 葛西敬之社長)
『技術移転して向こうが自分で作る。日本の企業が儲からない。そんなものに対して我々が支援することは、考え方からしてあり得ない。』

一方で、条件をのんで入札に参加すれば、本命の「北京-上海プロジェクト」の受注にもつながるのではないか、という考えもありました。川崎重工は前向きに技術移転を検討します。

(川崎重工業・元社長 田崎雅元さん)
「ほっておいたら全部欧州スペックになってしまうので、これは日本のスペックも入れておかないとね。『技術の流出』という声もあったんですけれどね。これはもう進出しておかなければ締め出されてしまう。」

2004年の入札には、川崎重工の他に、フランスとカナダのメーカーが参加。しかし、蓋を開ければなんと3社が同時受注の運びになりました。中国は世界最先端の車両製造技術を丸々手に入れるというしたたかな交渉力を見せたのです。

3年後の2007年、川崎重工が技術提供した車両が完成、既存の鉄道網で高速運行が始まります。

一方、日本が目指した「北京-上海プロジェクト」は2011年に中国が自力で達成します。驚いたことにそこを走っていたのは日本の新幹線によく似た車両でした。新型車両は、日本や欧米の技術をベースに改良を加えたとみられますが、中国は『独自に開発した』と主張し始めます。

さらに車両技術をアメリカで特許申請する動きを見せます。2011年の新聞の見出しには“中国コピー鉄道”とも。それでも中国は言い放ちます。

(中国・鉄道省 王勇平報道官)
『中国高速鉄道の多くの技術はすでに日本の新幹線をはるかに上回った。鍵となる技術の知的財産権は完全に我が国の手にある。』

川崎重工業の元社長「古い技術から売っていくべき」

この頃、川崎重工には「日本の宝を中国に売り渡してしまった」などとする批判が集中したといいます。

(川崎重工業・元社長 田崎雅元さん)
「日本は技術が売れたらものすごく利益率が高いんです。既存の技術だったらコストがほとんど無いんですね。次の技術を持っていれば、古い技術から売っていくべきなんです。」

中国が「車両技術を独自で開発した」という主張に対しては…。

(川崎重工業・元社長 田崎雅元さん)
「(中国は)ものすごくお金を使っていますからね。だから『我々の技術だ』『独自で開発した』というPRがないと、あの国では国民が納得しない。『日本から技術をいただきました』とは言えない雰囲気もあるんですね。」

こうした動きにアメリカ議会の諮問委員会は「中国の高速鉄道は外国の技術を流用した最もひどい実例である」と報告。これまで中国が日本の新幹線と関係する技術を特許申請した事実は確認されていません。しかし川崎重工は中国の特許申請の動きを今も警戒しています。

川崎重工は、中国で高速鉄道の車両を製造する仕事は無くなりましたが、「日本企業への波及効果は今もある」と車両部門の責任者だった元副社長の松岡京平さんは言います。

(川崎重工業・元副社長 松岡京平さん)
「部品メーカーの出荷規模とか売り上げの伸びとか、中国のプロジェクトのお陰で、すごい規模になっていて。いまだに続いているはずですよ。」

日本の車両メーカーの生き残りは

あの衝突脱線事故も乗り越え、中国の高速鉄道網は日本の新幹線の10倍に当たる総延長3万5000kmに達しました。最近はその技術を積極的に外国へ売り込んでいます。インドネシアでは価格の安さで日本を抑えて中国が高速鉄道計画を受注。日本はインドに安倍晋三前首相が自らアピール。鉄道軌道などの契約を勝ち取り、激しい攻防が続いています。

(川崎重工業・元社長 田崎雅元さん)
「やがてはブーメランで強力なライバルになることはわかっていたんですけれどもね。結果的に中国があんなに強くなるとは思わないものだから。私の想定の倍ぐらいの勢いでは行っています。」

中国に負けない高度な技術を開発することしか日本の車両メーカーが生き残る道は無いと田崎さんは言います。川崎重工は2021年10月、車両部門を分社化し、より機動的な経営を目指します。

(1月26日放送 MBSテレビ「Newsミント!」内『特集』より)

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