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【コロナと弱者(1)】日雇い労働者の街「釜ヶ崎」では"缶の奪い合い"も...新たな支援に参加者は笑顔「何か役に立つことはないかと思って僕も生きている」

2020年12月25日(金)放送

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新型コロナウイルスの影響は、日雇い労働者の街「釜ヶ崎」(大阪市西成区)でも広がっています。今回、大阪市立大学の准教授・斎藤幸平さん(33)と共にこの街を取材しました。仕事を求める人が増える一方で求人は減少するなど、困窮する人たちが増す釜ヶ崎ですが、斎藤さんは釜ヶ崎で芽吹いた新たな支援の形に注目されたようです。

大学の准教授が見る“日雇い労働者の街”

斎藤さんは、経済思想などを専門に教鞭をとりながら研究を続けています。経済成長ばかりを追及する資本主義の貧しさを暴き出した著書『人新世の「資本論」』は8万部を超え、経済書としては異例のベストセラーとなりました。そんな斎藤さんは、釜ヶ崎を訪れた理由について、次のように話します。

(大阪市立大学・准教授 斎藤幸平さん)
「ここで働かれている方の多くは日雇いであったりして、企業の景気の調整弁という意味でいうと、資本主義の中で働いている労働者たちの中でも一番影響にさらされやすいような人たちだと思うんですよね。そういう人たちが今どういう生活をしているのかは、自分の研究内容からしてもすごく興味があります。」
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釜ヶ崎はかつて、日本の高度経済成長を支えた労働者たちで街は活気に溢れていました。しかし、今はかつての活気を失い、労働者の高齢化が進んでいます。

休業要請でネットカフェ難民が釜ヶ崎に

斎藤さんがまず訪ねたのは、NPO法人「釜ヶ崎支援機構」の職員・小林大悟さん(34)です。小林さんは、仕事や住まいを失った人たちの支援をしています。高齢化が進んでいた釜ヶ崎が今、変わり始めていると小林さんは言います。

(小林さん)「春先にインターネットカフェが休業要請かかったじゃないですか。あれもすごく大きかったんです。ネットカフェ難民が一定数、こちらに流れてきたんです。こっちの方が過ごしやすいやんということで、そのままネットカフェが復活した後も居座っている人も結構いらっしゃる。そういう変化もありましたね。」
(斎藤さん)「ちょっと街の構成がまた変わったかなと?」
(小林さん)「そうですね。」
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路上で暮らす人への支援の形もこれまで通りとはいきません。斎藤さんと小林さんが向かったのは、寝る場所がない人が無償で宿泊できるシェルターです。

(NPO法人釜ヶ崎支援機構 小林大悟さん)
「中は2段ベッドになっています。寝具は銀マットと毛布。」
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このシェルターでは最大450人を収容できますが、現在の利用者はこれまでより2割ほど減りました。シェルターの中にはテレビを見ながら休憩できる部屋もありますが、共同生活に慣れない若者への支援が課題となっています。

(NPO法人釜ヶ崎支援機構 小林大悟さん)
「今の若い人は、共同生活への抵抗感や苦手意識がすごく高いので、次のステップとして若い人たちに向けた居住支援とかにも力を入れていこうとしていて。10室ほどワンルームマンションを借り上げるなどを今はしています。」

廃品回収で生計を立てていた人が…

釜ヶ崎には今でも仕事を求めて全国から労働者が集まってきます。しかし、仕事を紹介している労働福祉センターでは、今年4月~11月の日雇い労働の求人数は前年比で3割以上減りました。

(小林さん)「日雇いがなくなったことによって、アルミ缶集めをする人がすごく増えたらしいです。取り合いになってしまって、アルミ缶の廃品回収で生計を立てていた人たちが、立ち行かなくなってしまった。コロナ禍によってアルミ缶集めとかにも、色々なところに影響が出ています。」
(斎藤さん)「もうちょっと安定していた日雇いのしっかりしたのがなくなって、もっと別のところでの奪い合いが…みたいな。本当にいつまで続くかわからないですからね。」

そんな釜ヶ崎で、就労支援とは違った形で貧困問題を解決しようという取り組みが始まっています。

農園で野菜をつくる釜ヶ崎の人々

12月12日午前8時、大阪市西成区で、路上に停まった車に乗り込む人たちの姿がありました。釜ヶ崎を出発した車は、大阪府柏原市内のひとけがない場所に到着。車を降り、長靴に履き替えて向かった先は「農園」でした。ここでは参加者みんなで野菜を育てているのです。
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9年前、大阪市立大学の特任講師・綱島洋之さん(45)が、不安定な日雇い労働者らを農業で支援しようと、長年放棄されていた棚田を活用して、誰でも利用できる農園を作りました。

(大阪市立大学・特任講師 綱島洋之さん)
「ちょっと仕事を首になったくらいじゃ何ともないぞみたいな。だって土地があって、色々なもの育っているんだし、だから条件の悪い仕事は全部蹴ったるでって。そういうふうに言えるようになればいいなと思っています。」
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参加者は、ここで初めて野菜を育て、お金では買えない喜びを知ったといいます。今年9月から参加している井上登さん(69)は、笑顔で次のように話します。

(井上登さん)
「芽が出た瞬間はうれしいよ、やっぱり。めっちゃね。この前、ほうれん草の種をまいてな、ほうれん草なかなか芽が出んのやわ。10日目でやっと出てな、うれしかったわ。」
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取材した日は、ネギ・水菜・芋を収穫し、釜ヶ崎に持ち帰りました。

収穫された野菜はカフェで調理 料理を作るのにも参加

農園で収穫された野菜は、釜ヶ崎にあるカフェで調理されます。収穫翌日12月13日、その様子を取材しました。

ここでも、近くに住む人たちが誰でも料理に参加することできます。清掃の仕事をしている松井さんは、同僚のマエダさんを誘って参加したといいます。
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 (松井さん)「マエダさんは野菜切るのが好きだから。付き合いで一緒に手伝いに来ました。」
 (斎藤さん)「マエダさん、野菜切るの得意なんですか?」
(マエダさん)「得意な方やな。」

身寄りがない人たちがこの場所に集まり、料理を通していろんな人たちとつながっています。
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そして、正午前、「おとな食堂」が開店しました。みんなで作った料理は地域の人たちに100円で販売されます。農園で収穫された新鮮な野菜を使った芋煮やおにぎりを求めて大勢の人たちが列を作りました。こうした取り組みは月に1回行われています。

(斎藤さん)「これからどこで食べるんですか?」
 (購入者)「どこかで食べる。」
(斎藤さん)「お友達と?1人で食べるんですか?」
 (購入者)「友達と。」
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収穫や料理に参加した井上登さんに感想を聞きました。

(井上さん)「おいしいですよ、めちゃめちゃ。とったやつ食べたらね。」
(斎藤さん)「食べてもらえることはどう思いますか?」
(井上さん)「めちゃめちゃうれしいですよ。やりがいがあるね、やっぱりね。何か役に立つことはないかと思って僕も生きているから、めちゃめちゃ生きがいは感じていますよ。」
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(大阪市立大学・准教授 斎藤幸平さん)
「貧困問題ってしばしば、例えば炊き出しとかもそうですけれど、自分は助けてもらっているという意識がどうしてもあると思うんです。ここはそれが違うなと思ったのが、ちゃんと自分も野菜を作っているし、あるいは料理を作っているし、そのコミュニティの一因として自分も不可欠な役割をしている。普通の貧困支援とは違って、むしろある種のオープンで、みんなが入りやすい形になっているかなと思いました。」

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