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【特集】「息子の顔が見たい」出産前に視力を失った女性 世界初のiPS網膜細胞移植手術は「希望」

2020年10月21日(水)放送

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治療法がなかった重い目の難病の患者に対しiPS細胞を使った世界初の移植手術が2020年10月、神戸市の病院で実施されました。この研究の行方を特別な思いで見守る1人の女性がいます。女性はまだ息子の顔を見たことがありません。

息子の成長を「声」で感じる音楽家の女性

ピアノを弾きながら歌う女性。彼女は7年前に視力を失いました。目が見えていたときの記憶を辿りながら、ピアノを弾いています。

(音楽家 前川裕美さん)
「毎回ドキドキしながら弾いておりまして、見えていたときのほうがアレンジを加えられたり、華やかな演奏ができましたね。」

兵庫県宝塚市の音楽家・前川裕美さん(42)。目の難病「網膜色素変性症」を患っています。

(前川裕美さん)
「(Qどのくらい見えている?)お顔は全く見えなくて。部屋の明かりもついているのかついていないのか、わからない。」
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前川さんは家族3人で暮らしています。夫の雅亮さん(40)。そして、1人息子で小学1年の奏羽君です。前川さんは奏羽君の声を聞いて成長を感じています。

『いつか失明するかもしれない』音楽を支えに…出産時には完全に視力失う

5歳でピアノを始めた当時から目が悪かったという前川さん。小学5年生のとき、「網膜色素変性症」と診断されました。
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(前川裕美さん)
「『あなたの目は網膜色素変性症という病気で、この病気は今のところ治療法がないです』と言われて。とどめと言ったらいいのか、『いつか失明するかもしれない。そういう場合もありますよ。』と言われて。とにかく言われたこと、ひとつひとつが大きすぎて。」

網膜色素変性症は、光を感じる網膜の視細胞が徐々に失われる遺伝性の難病です。視野が次第に狭まり、前川さんのように失明することもあります。国内に3万人前後の患者がいるとされていますが、今は根本的な治療法がありません。
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歳を重ねるにつれて、病気が進行し、人や物が見えにくくなっても、音楽を支えにしてきました。大学はアメリカの名門「バークリー音楽大学」に進み、作曲や声楽を学びました。
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2006年に結婚。このとき、夫の顔はわずかに見えていました。しかし、その7年後の2013年、奏羽君を出産したときには完全に視力を失っていました。

「どんな顔なのかな」夢に出てくる息子は声だけ

前川さん、奏羽君の顔を触ります。

(前川裕美さん)
「どんな顔なのかな。こうやって毎日のように触っているけどね。」

一度も見たことがない奏羽君の顔。想像はしますが、答えは出ません。

(前川裕美さん)
「夫の顔は1回見ているから、自分の中で思い出せる。夢に出てくるんですけど、息子は顔がないんですよね、息子は声だけなんですよ。他の人は結構顔も出てくるんですよ。この人こんな顔していたよねって、夢を見ながら思っているんですよ、私。でも息子の顔は出てこないです。」

iPS細胞を使った世界初の網膜シート移植手術実施「将来の治療法確立に向けた第一歩」

そんな前川さんに、2020年10月、一筋の光が見えてきました。

(神戸アイセンター病院 栗本康夫院長 10月16日の会見)
「多くの医療従事者の長年の夢でありました。その第一歩を無事に踏み出せたということで、非常に感慨深い。」

神戸市立神戸アイセンター病院は、網膜色素変性症の患者に対してiPS細胞を使った世界初の移植手術を実施したと発表しました。
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手術は健康な人から作ったiPS細胞を使い、視細胞のもとになる網膜のシートを作製します。そのシートを「網膜色素変性症」の患者の網膜に移植するというものです。
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研究の責任者・平見恭彦医師は「将来の治療法確立に向けた第一歩となる」と話します。

(神戸アイセンター病院 平見恭彦副院長)
「まずは今まで光を感じることができなかった網膜が光を感じることができるようになる。将来的には物の形が少しわかるようになったりとか、視野が広がったりという効果も目指していくことができる、というふうに考えています。」

「網膜シート」製造する製薬会社研究施設を初取材 現場の思い

患者に移植された網膜のシートとはどのようなものなのでしょうか。シートを製造している「大日本住友製薬」の研究施設内の取材が初めて許されました。

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(大日本住友製薬・視機能再生グループマネージャー 桑原篤さん)
「これが培養中の網膜になります。」

見せて頂いたものが、iPS細胞から作った網膜です。そして、この網膜をシート状にして患者の目に移植されます。

(桑原篤さん)
「(シートは)直径1mm程度の細胞のかたまりになります。この中に視細胞のもとになる細胞が豊富に含まれています。今まで作れなかったこの網膜を安定して作れるようになりました。今後、臨床に向けて、さらに高い品質の網膜を作るべく、研究を続けていきたいという風に考えています。」

人に移植できるシートを作りあげるまで、約9年かかったといいます。今回の移植手術で安全性や有効性が確認されれば、実用化される予定です。
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(桑原篤さん)
「こちらで治療するための技術を育てていくことで、いつか網膜色素変性が治るような疾患にできるように頑張りたい。」

「息子の顔を見たい」移植手術に希望

移植手術に期待を寄せる前川さん。これまでも、そしてこれからも、奏羽君の成長の記録を残してもらうようにしています。10月18日は公園で奏羽君の遊ぶ様子を夫の雅亮さんが撮影していました。
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(前川裕美さん)
「本当に何の希望も抱けなかった頃に比べたら、今は本当に天国のようというか夢のようだなと思いますね。(Qもし目が見えるようになったら一番何を見たいですか?)もちろん、まずは息子の顔を見たい。ほんのちょっと見えるようになっただけでも、めちゃくちゃうれしいと思います。」

公園で遊んでいた奏羽君。前川さんのもとへ駆け寄ります。
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 (奏羽君)「ママー」
(前川さん)「遊んできた?暑くなっちゃった?大丈夫?」
 (奏羽君)「大丈夫だよ。」
(前川さん)「何で遊んできたの?遊具?」
 (奏羽君)「遊具。」
(前川さん)「滑り台?」
 (奏羽君)「うん。」

前川さんの瞳は希望に輝いています。

(10月21日放送 MBSテレビ「Newsミント!」内『特集』より)

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