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【特集】「京アニ放火殺人事件」救護者、住職、警察...そして遺族の『言葉』 消えぬ傷とそれぞれの1年

2020年07月17日(金)放送

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36人が死亡、33人が重軽傷を負った京都アニメーションの放火殺人事件の発生から、7月18日で1年が経ちます。ガソリンをまいて火をつけたなどとして青葉真司容疑者が5月に逮捕されましたが、事件の真相解明には至っていません。事件では、日本のアニメ界の第一線で活躍していた才能あるクリエイターたちが犠牲となりました。遺族をはじめ、多くの人が今も深い心の傷に苦しんでいます。それぞれの歳月を取材しました。

「着物が汚れてるなんて気にしてるどころでは」

「火柱が窓からぼーっと、煙と大きな火の粉が出てきました。走ってこられましたね、7~8人くらいが走ってこられました。」

こう話すのは、事件当日、現場から約50mの場所で日本舞踊の稽古をしていた前田靖子さん(80)です。外に出ると、燃え盛る第1スタジオから命からがら逃げてきた従業員たちが路上に座り込んでいたといいます。

「1人はぺたーっと寝転んでしまって歩けなかったと思います。顔からいっぱい血が流れていましたので、もってきたタオルで顔をふきました。」(前田靖子さん)
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前田さんは水や濡れたタオルで火傷をした人の手当てを続けました。あの日、前田さんが着ていた着物を見せていただきました。

「これはもう着ませんので。去年、洗って仕舞ったきりですよ。左袖と裾が血だらけになっていました。着物が汚れてるなんて気にしてるどころではなかったです。」(前田靖子さん)
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これまで前田さんは取材に応じることはありませんでしたが、今は事件について自ら語らなければならないと考えています。

「どんな時でも命を大切にっていうことですよね。伝えていかなければいけないですしね。気にかけてくださる方が大勢いらっしゃるとわかっていますので。」(前田靖子さん)

「突き動かすのは遺族の声」

まさに事件が起きていた時間帯にバスで現場周辺を通った興禅寺・藤澤めぐみ住職(52)は、強い自責の念に駆られています。

「たくさんの消防車やパトカーとすれ違ったんですけど、なんだろうなと思うぐらいで私はそのまますれ違って。私の法話はいつもどこかに笑いが入っている形で、皆さんが苦しんでらっしゃる時間帯に私は笑っていたわけじゃないですか。すごくいたたまれない気分になったんです。」(興禅寺 藤澤めぐみ住職)
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犠牲者の月命日には必ず法要を行っている藤澤住職。法要を始めてからしばらくたった後、遺族の1人から電話がかかってきたといいます。

「『実は私の息子が亡くなったんです。今遺骨を抱えながら電話をしています』と。『悲しくていずれ納骨もしないといけないんだけど』と言われるんですよ。『でもこの遺骨を手放すことができなくて』と涙ながらにおっしゃるんですね。」(藤澤めぐみ住職)
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住職は遺族の心の傷が少しでも癒えるよう法要を続けるつもりです。

「お母さんが『あそこには行けないんだけど行きたい』と言われた切実な思いを聞いたときに、私やったらできる。何が私を突き動かすのかといったら、やっぱりご遺族の方の声かなと思うんです。」(藤澤めぐみ住職)

「何しても充実感がない」

事件発生から1年。京都アニメーションを代表する作品の監督を務めた武本康弘さん(当時47)を失った父・保夫さん(77)は、今も喪失感を埋めることができないと話します。

「やっぱりね、何してても心の中で大きな穴が開いたというか空洞ができたというかね。何しても充実感というのがないね。どこかでね、そうだね…何してもそういうものがね、充実感がないね。なんとなく。」(武本保夫さん)

「悲しみが和らぐわけでもない」

長女の津田幸恵さん(当時41)を亡くした伸一さん(70)は今年3月、36年続けてきた電気設計業の仕事をやめました。もう気力が続かなくなったといいます。

「1年経ったからといって変わるものなんてないですよ。そないに悲しみが和らぐわけでもない。ただ変わったのは、死んだことと、もうここへ帰ってこないということやね。それ以外に変わったことはないしね。」(津田伸一さん)

「一ファンとしての気持ちも…なんとか力になりたい。」

かけがえのない家族を失った遺族らを支えるため、京都府警は事件発生直後、約100人態勢の「被害者支援班」を立ち上げました。メンバーの1人で臨床心理士の資格を持つ保崎恵理子さんは、自身も京都アニメーション作品のファンだったといいます。

「こんな形で関わることになるなんて思ってもみなかったので、非常に戸惑うところがあって。支援者としての気持ちと、一ファンとしての気持ちがどこかにあって、なんとか力になりたいという思いがもしかしたらいつもよりは顔を出しやすかったかもしれないなと。」(京都府警被害者支援室 保崎恵理子室長補佐)
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主に被害者や遺族の精神的なケアを担当する保崎さんは、取材日の日、共同で支援にあたっている民間の「京都犯罪被害者支援センター」へ向かいました。

【センターでの話し合いの様子】
「従来のカウンセリングのように相談室で待っていたらどんどん相談者が来てくれるスタイルは通用しないなとすごく思っていて。」(保崎恵理子室長補佐)
「こちらからアプローチをかけるのが大事なことでしょうね。変わらない気持ちと変わっていく気持ちと両方ありますもんね、時間が経つとね。」(京都犯罪被害者支援センター 冨名腰由美子事務局長)
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癒えない悲しみを抱え、深い心の傷を負った遺族らとどう向き合うのか、今も手さぐりの毎日です。

「事件のあった日、そこに近づいていく感じはきっとみなさん落ち着かない思いで。困ったときには誰かに相談したら力になってもらえることがあるんだというふうに思ってもらえるような関わり方ができるといいなと思っています。」(保崎恵理子室長補佐)

「事件とは無関係に作品としてみてほしい」

こうした被害者支援に救われたと話すのは、京都アニメーション作品の美術監督を務めていた渡邊美希子さん(当時35)の母親です。事件後、初めて取材に応じました。

「京都府警の人に『遺体を本当に見ますか?』って何度も確認されたけど、『見ます』と言いました。美希子がどんな状態か考える余裕もなく、やっと会えるとしか考えられませんでした。」(渡邊美希子さんの母)
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美希子さんは幼いころから絵を描くことが好きで、アニメ界でもデジタル化が進む中、手書きにこだわる職人気質なクリエイターでした。

【プロ養成塾での渡邊美希子さんのメッセージ】
「手描きはデジタルより手間がかかります。それでも手描きの背景画を教えているのは、その先に誰かを感動させる背景画があることを知っているからです。アニメーション背景ならではの感動がそこにあり、学ぶ価値が必ずあると信じているからです。」
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今年、美希子さんは生前の高い技術が評価され、東京アニメアワードフェスティバルで美術・色彩・映像部門の個人賞を受賞しました。そして、美術監督を担当していた映画「劇場版ヴァイオレット・エヴァーガーデン」が9月に公開されることが決まりました。この映画の制作に携わった現役の京都アニメーションの社員はこう語ります。

「アニメーションの中でも特に繊細で手が込んでいる作品で、早く公開させようとみんなが頑張っていた。」(京都アニメーションの現役社員)

美希子さんの母親は今、映画が公開されるのを楽しみにしています。

「事件とは無関係に作品として見て欲しいです。美希子の絵も採用されるのかもしれないけど、残された方たちのほうがしんどい中で頑張られたはずです。京アニから頂いた絵の中に見たことがないものが入っていて、公開される映画のものかもしれないと思いました。なぜなら、美希子のファンだから。」(渡邊美希子さんの母)

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