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"片方だけの手袋"を研究して15年『軽作業類』『放置型』『駐車場系』...片手袋研究家が見つめる深淵

2020年02月20日(木)放送

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道を歩いていると、時々目にする片方だけの手袋。横断歩道の上にポツンと残されていたり、ガードレールにそっとかけられていたりするが、多くの人はそのまま素通りしてしまうのではないだろうか。そんな手袋を「片手袋」と名付け、研究対象にしてしまった人物がいる。「片手袋」の世界に迫った。

研究歴15年…5000枚を撮影

自ら「片手袋研究家」を名乗るのは、自営業の石井公二さん(39)だ。街に落ちていた手袋を撮影している石井さんに取材班が話しかけてみると…

「分類でいえば『軽作業類』の『放置型』の『駐車場系』に入るのかなという感じで、今(手袋を)見ていました。」(石井公二さん)
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なにやら分類があるらしい。片手袋研究歴約15年の石井さんがこれまでに撮影・記録した片手袋は5000枚を超える。きっかけは「初めて買ったカメラ付き携帯電話」だったという。
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「別に撮るようなものもなく日々を過ごしていたんですけど、家のドアを開けて外に出た1歩目に片手袋があって、何の気なしに撮ったんです。その瞬間に分かっちゃったというか。俺がやることってこれなんだなって、ぴーんと来て。」(石井公二さん)

「ぴーん」と来てしまった石井さんは、片手袋を見つけては写真を撮り続けた。そして1年ほど経った頃、あることに気付く。

「『あっ、これ同じような場所にもあったな』とか、もしくは『同じような片手袋なのに、全然違う場所にあるな』とか。これはちゃんと分類というか研究のテーマとして、深く取り組めるものなのかもしれないとだんだん気付き始めた。」(石井公二さん)
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石井さんがまとめた「月別の片手袋発見枚数(2018年)」のグラフを見てみると、夏場も軍手などが落ちていることが分かるが、発見した手袋の数はやはり圧倒的に冬場に偏っている。

「路肩」や「バス停」は要チェック

とはいえ、冬でもそうそう毎日お目にかかるものでもない片手袋。一体どのような場所に出現するのか、街に出て案内してもらった。

「冬場だとガードレールとか、車道側の路肩とかも重点的に見ていますね。車から落ちるというのが予想以上に多いので。」(石井公二さん)

他にも…

「『バス停』というのは代表的な場所です。バスってお金のやり取りと乗車や降車が同時に行われる場所なので、そういうところで人間は手袋を落としてしまいがちなんですよね。」(石井公二さん)
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冬場は横断歩道もチェックすべきポイントだといい、歩いていると…

「あっ、ありましたね。」(石井公二さん)

なんと本当に片手袋を発見、すかさず写真を撮る石井さん。

「横断歩道は信号待ちの間にスマホをいじるとか、めちゃくちゃ(片手袋が)発生しやすい場所です。」(石井公二さん)

15年経った今でも片手袋を発見した時は心が躍るという。

『放置型』『介入型』分類図作って見つけやすく

撮影した片手袋は、石井さんが長い年月をかけて編み出した『分類図』に添って整理される。発見した手袋の使用目的や発見場所、状況などで分類。研究を始めてからすでに8回改訂されている。

「『放置型』と呼んでいる片手袋は、落ちたまんま人に踏まれたり車にひかれたりしていくようなものですね。もう一種類は、かわいそうだなと思った通りすがりの誰かが拾って、ガードレールとか目立つ場所に置いてあげる、その片手袋を『介入型』と呼んでいる。ここが一番大きく分かれる分類だなと。」(石井公二さん)
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分類図を作ったことで片手袋は格段に見つけやすくなったという。

Q見つけやすくなった以外のメリットは?
「何もないですね。見つけやすいというのもメリットなのかどうか分からないですけれど、自分の中ではメリットです。」(石井公二さん)

石井さんは研究結果をまとめたレポートも作成したが…

「僕しか読む人いませんでしたから、読み手は僕だけ。本当に1人だけでやっていたんですよ。」(石井公二さん)

新展開…深海数千mにまで

ところが、ここ数年で大きな変化が起きた。「SNSの台頭」である。石井さんの研究が多くの人に知られることになり、思いもよらない情報も寄せられた。

「深海の研究をされている研究者の方が『深海数千mの海の底に片手袋が沈んでいるんですよ』とメールで教えてくれて。」(石井公二さん)

今、問題となっている「海洋ゴミ」の中に、多くの片手袋があることが判明。研究が少し社会性を帯びた。
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去年12月には、これまでの研究をまとめた本「片手袋研究入門 小さな落としものから読み解く都市と人」を出版。苦節15年、地道すぎる研究にようやくスポットライトが当たった。家族で出かける時も片手袋を探してしまうという石井さんを家族はどう見ているのだろうか?

「妻には結婚前には言ってなかったんですよ。嫌われたくなかったというか。」(石井公二さん)
Q今、片手袋を見つけて写真を撮るとかは?
「もう普通にやっています。家族はそこで待つでもなく先にパーッと歩いていきますね。つかず離れず『あぁまたやってらー』みたいな感じで。」

「マニア界の神的な存在」

2月上旬、東京で開催された「マニアフェスタ」。100を超えるジャンルのマニア・研究者が集まって自身の活動成果を披露し、石井さんも「片手袋マニア」として出展した。イベントに参加した人達に石井さんのことを聞いてみると…

「(石井さんは)視野も凄く広くて知識も豊富なので、色んな発信されるものを見てハッという発見も凄く多くて。」(路上園芸学会 村田あやこさん)
「石井さんは本当にマニア界の神的な存在で、別格だと思っています。一番尊敬しています。」(街角狸愛好家 村田哲郎さん)

新境地「片手袋が無くても片手袋」って?

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マニアからも一目置かれる石井さんの「片手袋研究」は、今、新たな段階を迎えている。街中を歩いていた石井さんは突然、フェンスに向かって写真を撮り始めた。そこに片手袋は無い。どういうことなのだろうか?

「かつて片手袋があった場所をもう一度訪ねて、『無い風景』を撮るというのを重点的にやっています。(今は)片手袋が無く、かつて無かった消火用スタンドパイプの箱ができているという、変化そのものを片手袋だととらえているので。」(石井公二さん)
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これまで「点」でとらえていた片手袋を、時間の経過「線」で表現したいというのだ。石井さんはこの取り組みを「お片路(へんろ)」と呼んでいる。

「もはや(片手袋が)あっても無くてもいいというのが、今の僕の考え方なので。」(石井公二さん)

「片手袋」が無くても「片手袋」…。もはや常人には理解不能である。今年は暖冬で片手袋不作の年だが、石井さんは意に介さない。15年間1人で片手袋を研究してきた石井さんは、今、仲間を募集中だ。
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「僕が活動を紹介して広めていくことによって、僕だけのものじゃなくなってほしいんですよ。色んな研究者が『石井さんの分類図は全然甘いよ』とか。今はもっともっと広まっていかないかなというのを期待しているんです。」(石井公二さん)

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