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【特集】「エコノミークラス症候群」で男性死亡 過重労働で長時間座ったまま...『労災』認められない"壁"とは?

2019年12月10日(火)放送

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2013年、海外出張先である男性が亡くなりました。原因は『エコノミークラス症候群』。背景には過重労働があったとして男性の遺族らは労災を申請しましたが、認められませんでした。そこには過労死の“対象疾病外”という壁が立ちはだかっていました。

「エコノミークラス症候群」で男性死亡 時間外労働は2か月で計240時間超

電池メーカーで営業の仕事をしていた男性、当時36歳。2013年、中国と香港への出張中に宿泊先のホテルのトイレで死亡しているのが見つかりました。6日間の出張の最終日、日本に帰る日の朝でした。

死因は肺塞栓(はいそくせん)症、いわゆる「エコノミークラス症候群」でした。エコノミークラス症候群は長時間座り続けることが原因で足の血管に「血栓」、つまり血液の塊ができ、動いたときにその血栓が血流に乗って肺にたどり着き、血管につまることでおきます。呼吸困難を引き起こし死にいたることもあります。知らぬ間に徐々に進行して突然重篤な症状を発症することから「サイレントキラー」と呼ばれています。

男性の母、和子さん(71)。特に持病がなかった息子の“突然死”を受け入れられませんでした。

「息子が年末に帰ってきて。『中国出張があるから今年はあんまりおれん、すぐ帰る』と言っていました。みんなでわいわい言って…うそみたいです。本当に。」(亡くなった男性の母 和子さん)

和子さんが最後に息子に会ったのは亡くなる3週間ほど前。我が子を守れなかった深い後悔の念にさいなまれています。

「まじめすぎたんじゃないかな…ストレスが多すぎて。(会社を)辞めるという選択肢も言ってやったらよかったんと違うかなと思ったりとか…あの子の中ではなかったんでしょうけどね。」(亡くなった男性の母 和子さん)

男性は大学卒業後、電機メーカーに就職。技術者として充電池の開発に携わってきましたが、会社の都合で別会社の営業職に転籍。英語が苦手でしたが、外国人の顧客向けのプレゼンの資料作成に追われ、深夜まで残業し休日も自宅で仕事をする日々が続いていたようです。

和子さんらが労働実態を調べた結果、死亡する直前の2か月間の時間外労働は合計240時間以上に及んでいました。これは時間外労働が月80時間以上、いわゆる「過労死ライン」を大幅に超えるものでした。

「親には心配かけまいとして、あんまりマイナスなことは話しをしなかったですね。むしろ私らの、『年やから体に気を付けて』とか気遣ってくれる子だったので。『自分は若いから』といつも言っていました。しんどかったんだろうと思うんですけど。」(亡くなった男性の母 和子さん)

通常では考えられない「パソコン起動時間」座った姿勢が長く続いた

ではなぜ、「エコノミークラス症候群」で亡くなったのか。遺族の代理人弁護士は出張先での男性が座っていた時間に着目。パソコンのログ記録などから徹底的に調べ上げました。

「通常では考えられないくらいパソコンが起動されていまして。パソコンで作業をしているときは座位姿勢、座ったままで、プレゼンをするときも会議室に座ったまま。座位姿勢があまりにも長く続いたことが今回のエコノミークラス症候群の発症につながったというふうに考えております。」(遺族の代理人 李暎浩弁護士)

弁護団の調べでは、男性は打ち合わせや会議、長時間のタクシー移動などほとんどの時間を座って過ごしていたことがわかりました。そして、ホテルに帰っても徹夜でパソコンを使って仕事をしている日もありました。

結局、出張中の6日間で座っていた時間は約90時間にものぼりました。遺族らは男性は「過労死だった」として、淀川労働基準監督署に労災認定を求めました。淀川労働基準監督署は死亡直前の4か月連続で過労死ラインを超える時間外労働があったことを認定。ところが結果は、『発症した肺塞栓症と業務との間に相当因果関係が認められない』として労災とは認められなかったのです。一体、なぜなのでしょうか。

国は「対象疾病の8つ以外は過重労働では発症しない」

国は過労死との関連が強い病気として、「脳出血、くも膜下出血、脳梗塞、高血圧性脳症、心筋梗塞、狭心症、心停止、解離性大動脈瘤」の8つを労災認定の「対象疾病」としています。「対象疾病を発症」し「業務による過重負荷があった」、この2つが揃うと労基署は『労災』と認めます。

国は「対象疾病の8つ以外は過重労働では発症しない」としていて、エコノミークラス症候群のように対象疾病に入っていないと、労災認定されないのです。

「(過労死ラインの)月80時間、100時間の時間外労働時間があった。それによって半ば自動的に労災認定がされるのではなくて、労働時間・労働内容を立証した上で、さらに個別に医学的な因果関係を立証しない限り、労災認定はされないということで非常に厳しい状況になってまいります。」(遺族の代理人 李暎浩弁護士)

エコノミークラス症候群に詳しいNPO法人「日本血栓症協会」理事長の保田知生医師は「長時間のデスクワークでも発症する可能性は十分にある」と話します。

「我々も臨床でデスクワークが関与したと思われる例は何度も経験があります。職種や業務の内容によっては、やはり肺塞栓症(エコノミークラス症候群)が起こりやすい状況は考えられるので、やはり本当に命にかかわるような血栓症に関しては、せめて労災認定の道があってもいいのかなと。」(NPO法人「日本血栓症協会」理事長・がん研有明病院 保田知生医師)

公務員の“労災”では「エコノミークラス症候群」が対象疾病に

「過労死の対象疾病」は2001年に医師などの専門家によって決められました。その際、エコノミークラス症候群は「発症は一般的には考えにくく、特殊である」として対象疾病から除外されました。

一方、公務員の労災である「公務災害」の認定基準についての通知書ではエコノミークラス症候群は「職務上の要因が作用して発症する」として、対象疾病に入っているのです。

なぜ、「民間企業」と「公務員」で認定判断が変わるのか。遺族らは2016年、労災認定を求めて大阪地裁に提訴しました。しかし、2019年5月の判決で、遺族側の訴えは棄却されました。出張前の長時間労働には言及せず、「出張先で連続で座っていたのは最長でも3時間程度で途中に歩くなどしていた」と指摘し、「発症は業務が原因ではない」と結論付けました。この判決に対して保田医師は…

「『肺塞栓症(エコノミークラス症候群)』自身がまだまだ理解されていない。いったん血栓が起こりやすい状況になると、それを運動だけで消失させることはできない。」(保田知生医師)

遺族側は控訴「労災対象疾病を見直すきっかけに」

遺族側は控訴し、2019年10月に二審が始まりました。「この裁判が労災の対象疾病を見直すきっかけになってほしい」と訴えています。

「仕事で亡くなっているのに、それがわかってもらえないことが歯がゆくて歯がゆくて…もっと実態を見てほしいという感じですね。」(亡くなった男性の母 和子さん)

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