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『混ぜてくれないと腐っちゃうよ』世話を促す"ぬか床ロボット" 持ち主と"会話"し味の好みも学ぶ

2019年11月21日(木)放送

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今、ぬかで漬けた野菜や果物の写真がSNSで人気を集めている。しかし、実際にぬか床を始めても味がうまく決まらなかったり、カビが生えてしまったりで失敗した経験をお持ちの方も多いのではないだろうか。そんなぬか床を失敗知らずで楽しく作れる“ぬか漬けロボット”が開発された。開発者に作ったきっかけやぬか漬けに対する思いを取材した。

“ぬか床の気持ちが分かる”ロボット

一見、普通の木製の樽。しかし、正面から見ると“一つ目小僧”のような顔をしている。中に何が入っているのか…ふたをあけると、更に小さなふた。そして、その中にあったものは…「ぬか床」だ。ぬか漬けを作るためのちょっと可愛らしい樽なのか?と思ったその時!

『今の僕は良い感じに発酵出来てるよ。ペーハー(pH)も4.5でちょうど良いし、ORPもマイナス50くらいで悪くない。ちょっと暑くてジメジメしてるのが気になるけどね。』

樽がしゃべった!?しかも、何だか専門用語だらけの難しい内容だ…。きみは一体、何者なんだ?

「これはぬか床ロボット。略して『ヌカボット』です。」(早稲田大学准教授 ドミニク・チェンさん)

そう説明してくれたのは、この“ぬか床ロボット”を作った早稲田大学准教授でフランス国籍のドミニク・チェンさんだ。“ぬか床の気持ちがわかる”というこのロボットの中はどうなっているのか聞いた。
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「この(小さな)ふたの裏側にセンサーが2つ付いているんですけど、これは『ガスセンサー』といって、8種類のガスを検知するので、良い香りや悪い香りの元というのをこれで検知しています。」(ドミニク・チェンさん)

更に容器の底では「ぬか」に数本のセンサーが直接刺してあり、塩分濃度などが計測されている。

そして、これらの値はヌカボットに内臓されたWi‐Fiを経由して、データベース化されているという。

「二酸化窒素が増えすぎると危険信号なんです。この子(ヌカボット)が『今、ヤバいかも』とSOSを出してくる為に、そのデータを使う。」(ドミニク・チェンさん)

「今ピンチ…」そんな時、ヌカボットはこう叫ぶ。

『混ぜてくれないと、腐っちゃうよ。』(ヌカボット)

美味しいぬか漬けを作るための大事なやり取りがあるという。ドミニクさんがヌカボットに話しかけた。

(ドミニクさん)「きょうの漬物、最高に美味しかったよ。」
 (ヌカボット)『それは良かった。また美味しい野菜を漬けてね。記録しといたよ。』

実はヌカボットは、感想を元にぬか床のデータを記録し、持ち主の“好み”を学習していってくれるのだ。
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「僕のヌカボットにとっての“美味しい”と、友だちの家に置いてあるヌカボットの“美味しい”は結構違いが出る可能性が高い。」(ドミニク・チェンさん)

7時間ほど漬けたキュウリを食べてもらうと…

「酸っぱくなってますね。あと3時間くらい漬けたら良い感じですかね。温度もこの桶の中は温かめなので、早く漬かる傾向がありますね。」(ドミニク・チェンさん)

シンプルなのに難しい「ぬか床」

世間では失敗する人も多いという「ぬか床」。大阪・港区で70年以上ぬか漬けを作り続ける店「坂東漬物」で、作り方を聞いた。

「昆布をちょっと入れて、水を加えて練ったら『ぬか床』が出来ます。」(坂東漬物 坂東清次代表取締役)

この店では、米ぬかに塩と水、そして昆布などを入れている。店の味を守り続けるには、毎日手が抜けないのだという。
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「放っておいたらあきません。1日1回は手を加えてもわないとあかん。やっぱり酸い味きたり、カビがくるから管理が(難しい)…」(坂東漬物 坂東清次代表取締役)

シンプルなのに、手間がかかる。しかしそれが、ぬか漬けの味を豊かにしているのだ。

「こんなに漬物って美味しいんだ」ヌカボットを開発

それにしても、ドミニクさんはなぜ『ヌカボット』の開発に乗り出したのだろうか。それは今から10年ほど前の、ある出来事に端を発する。

「一緒に会社を興した共同創業者の人が会社設立の日に、いきなり密閉容器を持ってきて『今から君とは一緒に会社を作るという大業を成すから、今日という日にこの記念のために、このぬか床をあげる』と言われ、密閉容器に200gぐらいの彼の家に50年ほど受け継がれてきた『ぬか床』をもらって、それを手渡されて。漬け上がったキュウリを食べてみた時に『こんなに漬物って美味しいんだ』と驚きを感じた。」(ドミニク・チェンさん)
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50年もの間受け継がれてきたぬか床。その歴史の重みと美味しさに虜になってしまったドミニクさんだったが、半年後、悲劇が訪れる。

「真夏の日に、当時僕はオフィスにぬか床を持って行って、仕事の合間にかき混ぜていた。ある日、オフィスのベランダにぬか床を置いてしまった。それを忘れて帰宅してしまって。」(ドミニク・チェンさん)

「ぬか床を炎天下に放置」という痛恨のミス。以来10年間、ドミニクさんは何とかあの味を再現しようと、ぬか床作りに挑戦しては失敗を重ねた。

「ぬか床に対する思いも10年の間でどんどん“発酵”し続て、ある日『ロボットにしちゃえば良いんだ』と。最初に思い付いたのが“足の生えているぬか床のようなもの”で。自分で高温とか高湿度とか、危険な環境から自分で逃げて安全な環境に移る、という。」(ドミニク・チェンさん)

そこで、まず手掛けたのがデータ収集。ぬか床にセンサーを直接刺して、自分が美味しいと思うぬか漬けができた時とそうでない時のデータを集め、分析し続けたという。ヌカボットの共同開発者で、発酵のメカニズムや微生物を研究する、「発酵デザイナー」の小倉ヒラクさんはこの構想を聞いて『楽しそうだ』と思ったという。

「例えば、ヨーグルトを研究すると乳酸菌だけの働きになるんですけど、全く異なる微生物たちが(ぬか床の中で)ある種のチーム戦をしたときに、どういう働きが起こるのかに興味があって。今までアプローチ出来なかった微生物の働きが可視化出来るんじゃないかとワクワクした。」(発酵デザイナー 小倉ヒラクさん)
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こうして、1年をかけて生まれた「ヌカボット」。誰でも失敗せずに作れるように、約30種類の言葉を発して“世話するよう”促してくれる。例えば…

『きょうはカラっとしてて気持ちいいな。』
『そろそろかき混ぜたら?』
『良かった~、また頑張って美味しい漬物を作るね。』

といったように話すのだ。

「自動でかき混ぜる機能」をあえてつけないわけは?

この「ヌカボット」、ヌカボット自身で自動でかき回してくれない。どうしてなのだろうか。

「『自動でかき回してくれないの?』と聞かれる。技術的には簡単だが、それは絶対にやらないと決めている。ぬか床は“人間が手で混ぜることによって風味が豊かになって美味しくなる”と言われている。自分で漬けているという感覚が『面白味』『醍醐味』に繋がると考えている。その部分は機械化しない。」(ドミニク・チェンさん)

製作費は1台15万円ほど。自ら動き回る機能は…まだついていない。

「いつか見てみたい風景が、日本津々浦々ヌカボットがたくさん生息していて、各地方の好みの味がヌカボットによって可視化できる。そうすると、口伝えで聞かされてきた、おじいちゃんやおばあちゃんの秘訣が社会的に共有できる。文化的資産にまで成長させられるのでは。」(ドミニク・チェンさん)

(11月21日放送 MBSテレビ「ミント!」内『辻憲のBuzzリポ』より)

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