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【特集】"木"から車ができた!?環境に優しい『セルロースナノファイバー』がすごい 鉄の5倍の強度で重さは5分の1

2019年11月15日(金)放送

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2019年の東京モーターショーに出展され注目を集めたあるスーパーカー。実はこの車のボディは“木”でできています。といっても、木材をそのまま使ったわけではなく、木を使った「新素材」で、その強度は鉄の5倍以上とも言われていて、しかも5分の1の軽さです。この素材が我々の生活を大きく変えるかもしれません。

“木”でできた「スーパーカー」

2019年の10月24日~11月4日まで東京ビッグサイトで開催されていた「東京モーターショー」。自動車メーカーなどが車の可能性を感じさせる近未来的な数々のコンセプトカーを出展する中、ひと際異彩を放ち大勢の来場者の目を引いていたのは、環境省のブースにあったスーパーカーでした。この自動車を視察に訪れた小泉進次郎環境相も驚きと期待を口にしました。

「実際にボンネット持ちましたけど、片手で持てるボンネットを持ったのは初めてです。木の国日本ですから、そこに向けても大きな希望になると思います。」(小泉進次郎環境大臣)
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小泉環境大臣が口にした“木”というキーワード。スーパーカーの内装には一部木材が使われていますが、それだけではないといいます。一体どういうことなのでしょうか?
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「このスーパーカーは木から造った車なんですね。より正確に言うと木材の半分を占める『セルロースナノファイバー』という材料を使って“硬い軽い材料”を作る。これでボンネットだとかバックウインドウといったところも、全部、植物由来のセルロースナノファイバーという材料で作っています。」(製造に携わった京都大学 矢野浩之教授)

「セルロースナノファイバー」とは、樹木などの植物に含まれる非常に細い繊維のことです。その単位は数10nm(ナノメートル)、髪の毛の数万分の1という細さです。

セルロースナノファイバー材料の作成工程はこうです。木材のチップを加工し、紙の原料となるパルプを作成。このままだと、強度はほとんどありません。このパルプをさらに特殊な薬品でほぐし、セルロースナノファイバーの密度を上げることで、鉄の5倍の強度を持ちながら、5分の1の軽さの材料となるのです。

「セルロースナノファイバーを使った材料を使うことで、この車にして2割くらい軽量化ができている。それで燃費が1割くらい向上する。その分CO2の排出が減る。だから“環境省の造る”スーパーカーなんです。」(京都大学 矢野浩之教授)

生産から利用、廃棄まで…環境に「すごく優しい素材」

京都大学の矢野浩之教授は、京都大学・宇治キャンパスの木に囲まれた穏やかな雰囲気の研究室で約40年間、セルロースナノファイバーの研究を続けています。軽くて頑丈、原材料も植物でリサイクルも可能と、理想的な素材とも思えるセルロースナノファイバー。
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MBSが2005年に取材した際には、セルロースナノファイバーを透明にする加工技術を用いて、紙のように薄いディスプレイを研究。大手メーカーとも協力して、発光するところまで開発を進めるなど、長年、この素材の活用方法を模索してきました。

「一番資源として豊富なのは木ですが、竹や稲わら、あるいは水草、キュウリやレタス。植物は皆セルロースナノファイバーでできている。(植物の中で)作られるときは大気中の二酸化炭素を吸収してくれて、廃棄にあたっては、うまく分解してくれるし、燃やしてエネルギーとして使うこともできる。生産から利用、廃棄にわたってものすごく環境に対して優しい材料だろうと。」(京都大学 矢野浩之教授)

しかし、課題もあります。量産するのに莫大なコストがかかってしまうのです。

「プラスチックの中に混ぜて強度を上げたいというニーズが一番多いんですが、結構大変。」(京都大学 矢野浩之教授)

「京都プロセス」で製造コスト10分の1にカット

そこで矢野教授ら京都大学と京都市産業技術研究所などの研究で発見されたのが、「京都プロセス」と呼ばれる加工方法でした。

セルロースナノファイバーをプラスチックに混ぜて強化するには、紙の原料にもなるパルプを一度ほぐしてセルロースナノファイバーにしたあと、プラスチックに混ざるように加工する必要があります。そこで、矢野教授らはパルプ自体を加工し、プラスチックに混ぜたときにパルプがほぐれて均等に混ざるように改良。工程を2つ減らして製造コストを10分の1までカットしたのです。

「コストを大きく下げられるとわかったので、自動車関連の会社が興味を持ってくれて、実際にそれで車が造れるのかやってみよう、ということになった。」(京都大学 矢野浩之教授)
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矢野教授の研究は、教え子たちにも受け継がれています。セルロースナノファイバーの素材を使って、ハスの葉の表面の特性を再現しようとしている学生がいました。

「(水滴が)コロコロ転がっていくように水をはじくのがハスの葉なんですけど、それをナノファイバーならではの形を使って再現しようというのが私の研究。」(研究室の学生)
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ハスの葉の表面は水をはじく特徴があり、高い撥水性を持っています。実際に学生が再現した素材の表面を見せてもらうと…肉眼では見えない無数の突起が並んでいて、その表面はナノファイバーでおおわれています。これによって丈夫で撥水性が高くなっているというのです。

「傘に(ハスの葉の)構造を付けて雨が付かないような、ナノの構造ならではのものを材料に付けることで、新しい材料や今までになかった便利なものを作れるのが素敵だなと思った。」(研究室の学生)

ランニングシューズに「セルロースナノファイバー」

セルロースナノファイバー製の傘や自動車が街中に登場する日はまだまだ先になりそうですが、この素材を使った製品はすでに私たちの生活の中に浸透しつつあります。スポーツメーカーのアシックスは2018年、かかとのクッション部分にセルロースナノファイバーを使用し、軽くて耐久性の高いランニングシューズを発売しました。

「スポーツシューズにとっては『軽さ』というのが絶対的な製品としての設計条件のひとつ。セルロースナノファイバーを利用することで、軽くかつ強度や耐久性が上がる材料ができるので、それをかかとの部分に使用しようと思いました。人が走ったときにはかかとの外側から着地するので、そこに一番力がかかる。かかとに強度や耐久性の高いスポンジ材を利用する。」(アシックス工学研究所・フットウエア機能研究部 立石純一郎部長)

新素材によってソール部分は55%軽くなりましたが、強度は20%向上、耐久性は12%向上したといいます。

物づくりも“ベジタリアン”

さまざま可能性を感じさせる植物由来の新素材「セルロースナノファイバー」。その未来はどうなるのでしょうか。

「20世紀は化石資源依存、石油資源依存の物づくりをしてきた社会。21世紀は持続型の植物資源でいろんなものを造る時代になってくる。食べ物だけじゃなくて、生活の身の回りにある物づくりも“ベジタリアン”になっていく時代が21世紀だと思う。」(京都大学 矢野浩之教授)

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