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【特集】「来年、再来年が不安。安定がほしい」宝塚市の"就職氷河期世代"採用試験...受験者が語る実情

2019年11月13日(水)放送

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今年9月から行われていた「就職氷河期世代」を対象とした兵庫県宝塚市の採用試験は11月13日、4人が合格したと発表されました。この試験をめぐっては、競争倍率が600倍となるなど氷河期世代の不安な思いが浮き彫りとなりました。今回受験したある男性を取材しました。

「“細い糸”でも飛びついて…」

今年9月、宝塚市はある特徴的な採用試験を行いました。その応募資格は、いわゆる「就職氷河期世代」であること。1993年から2005年までに大学や高校を卒業し、就職活動を行った人たちです。採用枠わずか3人程度に全国から1800人以上が応募し、その倍率は600倍を超えました。

「僕たちの世代を気にかけて実行してくれることに感謝を伝えてきました。就職が本当になかったので、チャンスがほしかったなと。」(受験者の男性)

そんな中、特別な思いでこの試験を受けた男性がいました。

「私は昭和49年(1974年)生まれで氷河期の走りなんですけど、これだけ多くの人が受験していて、みんなどうしようもなく安定というものがほしいんだなと、それだけですね。」(Aさん)

神戸市に住むAさん(45)は、今は製薬会社に勤めていますが、会社の先行きに不安を感じて今回受験したと言います。

「製薬会社というと安定したイメージがあるんですけど、いつ何時会社から『君はもう居場所がないのでやってもらう仕事がない』と言われる日が来るのを待っているのであれば、こういう細い糸でも飛びついてみないと仕方がなかったですね。」(Aさん)

試験から1週間後、Aさんに届いたのは不合格の知らせでした。記者は再び会いに行きました。

「これまで受けてきた面接の雰囲気と対比して厳しいなと思っていたので、蓋を開けてみたら案の定という感じですかね。落ちることに関してはかなり慣れてしまっていると言いますか…ショックを受けてふさぎ込むこともなくなりました。」(Aさん)

求人倍率は過去最悪の水準…バブル崩壊で氷河期に

Aさんが就職活動をしたのは1996年、ちょうどバブル経済が崩壊した後でした。当時の求人倍率は1%を切る過去最悪の水準で、大学生の就職内定率(1996年10月1日時点)は70%を割る「就職氷河期」真っ只中。この頃から派遣や契約社員など非正規雇用が増えた時代でした。

【1997年に行われたインタビュー】
「4月には決めたいという気が動転してしまって焦りも出てきます。」(就職活動中の女性)
「たくさんあるけど自分が思うようなところは少なくて、面接に進めたのはまだ1つだけ。」(就職活動中の女性)

「就職氷河期世代」の特徴について、専門家はこう話します。
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「“日本という国は立派なものだ”という刷り込みの元で育ってきた。先輩たちの話を聞いていると、内定を断らないようにディズニーランドに連れて行ってもらうとかハワイに連れて行ってもらう話がたくさんあるわけですよ。その中で突如バブル崩壊した。親みたいになれない感覚を味わった戦後で初めての世代だと思います。社会への鬱積した感情が特に沈殿している。」(甲南大学文学部 阿部真大教授)

Aさんは大学3年から4年の2年間にわたり就職活動をしました。受けた企業数は約150社、しかし内定はゼロ。公務員試験も受けましたが、全て不合格でした。

「それほど悪くない一生食べていける会社に入れるだろうなという期待を持っていましたね。大学の3年生になるころから先輩が内定取り消しなったという話を聞いて『あれ?おかしい』という感じで。思ったほど簡単ではないなと。」(Aさん)

「一度も安心して働いた記憶はない」

Aさんは大学を卒業後もバイトをしながらハローワークに通いつめました。同級生が社会人として働く中、日に日に不安や焦りが募りました。そして約10か月後、ようやく1つの会社から初めて内定をもらいました。

「先の見えない状況が終わってくれたんだと、ただただそれだけでしたね。『まさか大学を卒業してもアルバイトで食べていくつもりか』と親から真顔で言われてこともありましたし。ホームレスの人や廃品回収のリヤカーを引いたおじさんを見るたびに、ひょっとしたらあのような世界に陥るのではないかと、そこまで思い詰めていました。」(Aさん)

しかし、バブル崩壊後の日本経済はどん底。やっと入社した会社は不況で傾きかけ、Aさんは2年で転職しました。次の会社も景気のあおりを受けリストラ寸前に。現在は製薬会社で働いていますが、これまでの人生で一度も安心して働いた記憶はないと話します。

「(Qご家族は?)残念ながら独身のままで。若いころは生活が安定したら結婚もしたいし子どももほしいと思ったんですけど、安定が結局来なかった。結婚相手や子どもを抱えて転落してしまったら本当にどうしようもないという不安感や恐怖心が付きまとって…結婚できる身分かというと諦めるしかない感じですね。」(Aさん)

先行きが見えない未来…「我々は現在進行形で氷河期」

今回の採用試験を実施した宝塚市の中川市長は、「就職氷河期世代」の安定的な雇用を維持することの重要性を訴えます。

「(就職氷河期の)12、3年間のその世代、今結婚して子どもを産む世代が働くことがきっちりまっとうにできていない。1人2人でも氷河期世代の人を採用して頑張ろうと思える社会にしてほしいと思います。」(宝塚市 中川智子市長)

政府も今年6月、「就職氷河期世代」から正規雇用で働く人を3年間で30万人増やす政策を打ち出しました。専門家はこうした採用の動きは雇用の数を増やすだけでは十分ではないと指摘します。

「(今回は)3人程度って少ないですけど社会的認知が広がったのはいいとして、企業のこともわかって求職者のこともわかる『就労支援員』の方を手厚く配置して、その間のマッチングを上手にしていくことがパイを増やすこと以上に必要なことだと思います。」(甲南大学文学部 阿部真大教授)

Aさんが最近心配なのは、今の会社で自分が早期退職の対象になるのではないかということです。いつまでたっても先行きが見えない未来に不安はつきません。

「今はもう安定だけがほしいです。来年、再来年がどうなるのだろうかという不安ですね。5年後、10年後が見えてこない生活から抜け出したい、それだけですね。氷河期というと過去のことみたいに思われるけど、我々は現在進行形で氷河期をしているわけですよ。」(Aさん)

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