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【特集】京都で「100年続く小劇場」を 1000人以上の支援で受け継がれる思い

2019年07月30日(火)放送

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学生演劇を中心に舞台芸術が盛んな街、京都。その京都で新しく完成した劇場があります。それは「若手の登竜門」とも言われ、30年以上にも渡って京都の舞台芸術文化を支えてきた、ある劇場の生まれ変わりともいえる場所でした。

「THEATRE E9 KYOTO」誕生

6月22日、こけら落としを迎えた劇場の「THEATRE E9 KYOTO(シアターE9京都)」。初めて演じられた舞台作品は「三本柱」という狂言でした。
京都市南区にあるこの劇場は、1階には舞台とカフェ、2階には会員制のシェアオフィスが入るという変わった造りになっています。

ロビーには、多くの名前が刻まれた壁が。これらの名前の主は劇場の建設費をクラウドファンディングで支援した人たちなのです。

「THEATRE E9 KYOTO」誕生の物語は2年前に遡ります。

2017年8月、ある劇場が閉館しました。

「アトリエ劇研」です。客席数は60ほど、壁や天井が黒く塗られたブラックボックス※と呼ばれるタイプで、芝居を作る者の創造力を最大限に活かすことができる劇場でした。京都の地で“若手の登竜門”として、30年以上にわたり舞台芸術文化を支えてきました。その歴史の中では、今も第一線で活躍する演劇人を輩出してきました。

女優のキムラ緑子さんも、その1人です。

「舞台をやったのは4回で、あとは10年間ぐらいは稽古場で使わせてもらいましたね。あそこは今思っても独特ですし、私の30年前なので思いっきり青春時代。狭くて、ちっちゃくて、みんなが一緒になって汗を流したら劇場中が熱くなるみたいな。そういうものすごく密に人とものが作れる場所だったなという気がします。」(女優 キムラ緑子さん)

「アトリエ劇研」はオーナーが私財を投じて運営してきましたが、高齢化のため維持が難しくなり、惜しまれつつもその舞台に幕を下ろすこととなったのです。

劇場+オフィスができるまで

「アトリエ劇研」最後の運営責任者になったのは演出家のあごうさとしさんです。

「(アトリエ劇研は)本当に美しい劇場だなって思います。照明も美しいですし、照明が当たってない闇の部分もどこまでも闇があるような。」(劇作家・演出家 あごうさとしさん)

あごうさんは京都の舞台芸術文化の火を絶やさないため、新劇場建設を決意します。

不動産会社の倉庫だった建物を劇場に改築しようという計画で、当初予定されていた予算は約8500万円。あごうさんらはクラウドファンディングや寄付などで約9500万円を集めました。

ところが…資材費の高騰などで当初の想定の倍以上の経費、総額1億9450万円がかかってしまったのです。一時は2階部分を諦め、1階の劇場だけの改装に留めることも考えたといいます。

そんな時に手を差し伸べたのがシェアオフィスを運営する会社「La Himawari」でした。鴨川沿いの立地に惹かれて目を付けましたが、アートとビジネスに思わぬ共通点を見出したと会社の代表はいいます。

「アーティストって全然違うことを考えていると思っていたら、実は起業家とかビジネスしている人たちと考え方はすごく似ているんだと思っていて、正直めっちゃ楽しいですね。」(「La Himawari」 高坂尚平さん)
「劇場とオフィスが一緒にやることで、いろんなコラボやつながりが生まれるのが楽しみだなと思います。」(「La Himawari」 高野安代さん)

シェアオフィスの会社が「THEATRE E9 KYOTO」の2階部分の改装費を負担し、晴れて2フロアでのオープンが実現したのです。

「100年続く小劇場を」

こけら落としから1か月が経った7月24日、「THEATRE E9 KYOTO」には、リハーサルをするあごうさんの姿がありました。

「息の使い方が全然ピントが合ってこないね。なんかまとまらない。」(あごうさとしさん)

この翌日から4日間に渡って、あごうさん演出の舞台が上演されるのです。6月のこけら落としで上演された「三本柱」は、クラウドファンディングの支援者に限って公開されたものだったため、今回のあごうさんの作品がこの劇場で一般にチケットを販売して行う最初の公演になるのです。リハーサルでは出演者の影の入り方や照明、音響など細かな部分も丁寧に調整していきます。

そして、あごうさんがこの地に呼び寄せた劇場で、劇作家あごうさとし作・演出の音楽舞台劇「触覚の宮殿」上演されました。3人の役者と3人の音楽家で構成される音楽劇。役者の動きやその体に塗られていく白い塗料を際立たせるのは、劇研と同じブラックボックスの空間です。

「アトリエ劇研の館主はフランス文学者だったんですけれども、私たちの大恩人で当時90歳をまもなく迎えるというような方だったんですね。その大先生が私のような若輩に頭を下げて『本当に申し訳ない』とおっしゃられて、本当に先生は辛そうにしておられたんです。なので私たちも辛かったですけれども、そういうことじゃないなと思いました。」(あごうさとしさん)

1000人以上の支援に支えられて

ひとりの力で支えられていたという「アトリエ劇研」。

「いかに崇高な志であっても個人と言う単位では、どのようにしたって続けていくことが困難になるっていうことを改めてそこで思いました。私たちが『100年続く小劇場を』というキャッチコピーでこのプロジェクトを立ち上げたのは、そういう思いがあってそのようにいたしました。実際それがどこまでできるのかということはこれからのチャレンジになります。」(あごうさとしさん)

「劇研」の灯は1000人以上の支援に支えられ、「THEATRE E9 KYOTO」へと受け継がれたのです。

初回の上演を終えてあごうさんは…
「めっちゃ緊張しましたね、本当に緊張した。今でも緊張が解けない。ようやく始まったという実感が出ただけで、本当のスタートのスタート。とにかく一歩一歩です。一歩一歩思う方向に進めたいなと思います。」(あごうさとしさん)

※ブラックボックス形式。壁や床など、全てが黒い平面のみで構成されるシンプルな舞台の形式。

(「Newsミント!」内『特集』より)

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