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【特集】ALSのダンサーが行う「生前葬」 新たな人生のスタート

2019年07月02日(火)放送

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全身の筋肉が少しずつ動かせなくなっていく進行性の難病「ALS=筋萎縮性側索硬化症」、治療法はまだ確立していません。この難病を患い死と向き合った男性が自分を見つめ直すために行ったのは、生きているうちに執り行う葬儀「生前葬」でした。

突然襲い掛かった難病

大勢の人の前で、軽快な音楽に乗り、踊る藤井幹明さん(78)。実は、難病を患っています。藤井さんは去年7月、ろれつがまわりにくいなど喉に違和感を感じました。いくつか病院を回り、今年2月に判明した病名はALS=筋萎縮性側索硬化症でした。ALSとは、体を動かすために必要な筋肉が痩せていく進行性の難病です。患者は3~4年くらいで次第に体の自由が奪われ、最後は呼吸ができなくなって死に至ります。発症から1年、藤井さんは右手や喉に症状が出始めていて、リハビリなどのため入退院を続けています。

Q.右手の方が細いですよね?
「ここ(親指と人差し指の間)がぺらぺら。指のつまむ力も…こんなつまみ方じゃなかった。」(藤井幹明さん)

藤井さんは会社を退職後、ダンスを始めました。10年以上、京都のダンスグループで「マイク」という名前で活躍。トライアスロンにも出場するなど健康には人一倍自信がありました。そんな藤井さんに突然襲い掛かったALS。根治する治療法がまだなく、いつ事態が急変するかわかりません。じわじわと忍び寄る死に藤井さんは心を乱されました。

「安楽死は日本では私はしたくてもできない。だけど自死は世間体を考えると家族のためにはできないので。自分の死に方がわからないという不安はあった。」(藤井幹明さん)

ダンス仲間からの提案

そんな藤井さんに“ある提案”をした人がいます。ダンスグループ「KDE」の代表・市川まやさん(36)です。藤井さんとは10年以上、ともにダンスをしてきた仲間です。そんな市川さんが藤井さんを励ますために思いついたのが「生前葬」でした。

「(藤井さんは)ずっと深い闇にはまっていくというか…。どうにかしないとなと思っていたときに、マイクさんの生前葬はKDEの公演でワンシーンとして行ったことがあるが、それだけをフォーカスをあててマイクさんの生前葬をきちんとやってみたらどうだろうと」(市川まやさん)

「生前葬」とは、生きているうちにお世話になった人たちに感謝の気持ちを伝えるもの。市川さんはそれに藤井さんらしさを加えようと考えました。

「ダンスでつながったからには、最後まで彼をダンサーとして踊らせることが私たちにできる精一杯の気持ちかなと思って。絶望で終わってほしくないので、(生前葬では)ここからがマイクの第2の人生なのか第3の人生かわからないけど、ここからがスタートだと絶対に伝えるべきじゃないかと思っている。」(市川まやさん)

“死を意識”の2人が往復書簡

作家の清水哲男さん(65)も藤井さんの生前葬を支える1人です。清水さん自身も1年半前に大腸がんの手術をしています。死を意識した2人はブログでつながりました。

「死にたい死にたいと言っている話を聞いて、2回目に会ったときに社会とのパイプを閉ざさないでと話したんですよね。」(清水哲男さん)

清水さんは、ALSを患いふさぎこんでいた藤井さんが世間との関わりを絶たないようにとブログの往復書簡を提案しました。名前は「ENJOY DEATH 死を楽しむ毎日。」です。

【往復書簡の内容】
3月29日投稿:清水さん「もう少し生きてみませんか」
3月29日投稿:藤井さん「今日は一日中気力なく寝込んでいます」
4月1日 投稿:清水さん「京都に参ります。ご心中たっぷりお聞かせください」

病に苦しむ心境をさらけ出すうちに、藤井さんは前向きな気持ちを取り戻すようになりました。

一方、清水さんはALS患者が人生最後に直面する問題を考えるようになりました。

「家族に負担をかけなければならない、迷惑をかけることになるので、ALSの患者さんは7割から8割が人工呼吸器をつけない選択をする。まだ生きられるという可能性があるのに、その思いを断って呼吸器をつけない選択をする人がものすごく多い。そういう状況に追い込まれているということですよ。」(清水哲男さん)

藤井さんもいつか筋肉が痩せて呼吸が難しくなり気管切開をするかの決断を迫られる時がきます。

「(決断をするまでの)1年間だけでも濃く生きてみなさいと(神様に)言われた幸せを感じています。それでも生き地獄になるのは間違いない。乗り越えられないけど意識できるだけこんな幸せはないと思っています。」(藤井幹明さん)

「ENJOY DEATH」

生前葬当日(6月29日)、会場の京都芸術センターには藤井さんのダンス仲間や長年のボランティアでつながった人たちなど約250人が集まりました。生前葬のテーマはもちろん「ENJOY DEATH」。病の宣告後は1人で閉じこもろうとしていた藤井さん、いまは自分が思っているより大勢の人に支えられていることを感じ、踊ります。藤井さんはこの日、人との絆を大切に、生きていく決意をしました。

「私のことをこれだけ思ってくれる人がこんなに多くいるとは思っていなかった。」(藤井幹明さん)
Q.藤井さんは“ENJOY DEATH”できましたか?
「もう恥ずかしいくらいできた。」

「ちょっと悔しいけどめっちゃかっこよかったです!すごく温かい優しい時間だなと感じて、このまま時間が止まったらいいのになと思いました。」(市川まやさん)

生前葬は終わりではなくスタート。これから藤井さんの新しい人生がまた始まります。

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