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【特集】すい臓がんの新治療のための臨床試験費用を何とかしたい...教授の選択は「クラウドファンディング」

2019年06月11日(火)放送

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いまや日本人の2人に1人が生涯1度はなるとされる「がん」。その中でも特に余命が短いのが、すい臓のがん「膵がん」です。その膵がん患者の余命を大幅に伸ばすことができる可能性がある治療法の開発が、いま窮地に立たされています。

すい臓がんの進行のひとつ「腹膜転移」とは

膵がん患者の井上奮起男さん(74)。「腹腔内投与」と呼ばれる抗がん剤を用いた治療法の臨床研究に参加し、今も関西医科大学病院で治療を受けています。

「体重はどうなりました?」(関西医科大学 里井壯平教授)
「今は55キロです」(井上奮起男さん)
「前回に比べると3キロアップですね。非常に安定してきたと思います」

すい臓にできるがんの膵がんは、患者数にするとすべてのがん患者の4%ほどと決してメジャーながんではありませんが、5年生存率は7.7%とすべてのがんの中でも圧倒的に余命が短いのが特徴です。

さらに膵がんはお腹の中で臓器を包んでいる膜、腹膜に飛び火のように転移する「腹膜転移」という状態になる傾向があります。

「腹膜に転移を持っておられる患者さんは、痛みがあってごはんが食べられない。だんだんやせ衰えてきて、その生存期間っていうのが約2か月から8か月と報告されているんですね」(里井壯平教授)

膵がんの場合、血液内に抗がん剤を投与する治療が標準的ですが、小さながんが点々とできる腹膜転移が起きると、効果が下がってしまうといいます。

「腹膜転移はおなかの中でがんが広がっているわけで、血管の中に抗がん剤が入ったとしても腹膜に到達するまでに非常に時間がかかり、濃度が低いということが報告されています」(里井壯平教授)

お腹の中に直接抗がん剤を投与する新治療法

そこで考案されたのが腹膜、つまりお腹の中に直接抗がん剤を投与する「腹腔内投与」という治療法です。

(医師)「じゃあ針入れますので、ちょっとチクッとします」

抗がん剤が入った生理食塩水1リットルを腹膜の中に入れます。この点滴を週1回、2週間続けて1週休むというサイクルで繰り返します。

(看護師)「痛みないですか?」
(井上さん)「大丈夫」
(看護師)「続けるよ。あと30分で終わりますのでね」

点滴は約2時間。これまでの研究で生存期間が大幅に伸びたほか(2~8か月→16か月(中央値))、がんが広がりすぎて手術ができないと言われていた33人中8人の患者が、手術ができる状態にまで回復したといいます。

しかも、使われている抗がん剤は肺がんや乳がんなどで一般的に使われているもので、ジェネリック医薬品のため価格も1本数千円程度と比較的安いものです。

症状が劇的に回復した患者の1年

井上さんはこの治療により、症状が劇的に回復した1人です。ご自宅にお邪魔しました。

「(病気になってから)お客さんがものすごい増えたと思うわ。なんかあったら来てって言って」(井上奮起男さん)
「多い時はここ(リビング)に17~18人。机2つ並べて」(妻・福美さん)
「ほんで、いっしょにごはん食べてね」(井上奮起男さん)

現在、井上さんは妻と2人で暮らしています。食事もいまは普通に食べられるようになりましたが、膵がんがわかったときは腫瘍が十二指腸をふさいだため、体重は1年で20キロ減ったといいます。

Q.この1年で生活に変化は…
「1年間っていうか、去年の1年間はなんにもできなかった」(福美さん)
「してないな。時間の経過だけやな」(奮起男さん)
「私と長男で先生に聞きに行ったんですよ。その時に、あと3か月かなって。長く持っても6か月か1年かなって言われたんですよ。それを聞いたときは、やっぱりショックでした」(福美さん)
「僕がドクターから聞いた時は、夏越せるかなって言われた」(奮起男さん)

そして、余命いくばくもない切迫した状況のなかで、あることを思いつきました。

「最初は生前葬をしようと思ったんですよ。せやけど友達に『そんなん生前葬してすぐ死なんかったらどうすんねん』って言われて。ほんで『みんなに感謝してお礼を言って死にたい』って言って、ほんで(去年の)夏にね、感謝状を親しい人だけに送ったんです」(福美さん)

親しい友人に感謝状を出してから間もなく一年になりますが、一度は断念した腫瘍を除去する手術も無事終えることができました。

クラウドファンディングで治験の費用を募る

ところがいま、この新しい治療法が窮地に陥っています。

「ジェネリック医薬品がこの新規治療法を構成していますので、メーカーからの支援が得られない。政府・企業ともに新しい薬、新規の薬の開発が極めて重要だという施策もありますので、今回の試験で使うようなジェネリック医薬品を新たに組み合わせた治療法は、なかなか資金の提供が受けづらい状況にあるのが現実です」(関西医科大学 里井壯平教授)

ジェネリック医薬品を使用しているため、国の承認を得て保険適用されるために必要な臨床試験にかかる費用が集まらないというのです。そこで里井教授は6月10日、インターネットを通じた寄付=クラウドファンディングで治験の費用を募ると発表しました。目標金額1000万円を集めることができれば、この治療法が一般的となる道が開けるといいます。

「すい臓がんで腹膜転移が消えるっていうのは、非常に衝撃的だったんですね。そして26%の患者さんに手術ができたっていうのも、非常に衝撃的な結果で。なによりもこの治療をすると元気になっていく人が多いんですね。ごはんが食べられて体重が増えてくる、こういう患者さんを今まで見たことがありませんでしたので、非常にいい治療だなと」(里井壯平教授・10日)

新しい治療法の実用化に立ちはだかった思わぬ壁。クラウドファンディングは打開策となるのでしょうか。

(「Newsミント!」内『特集』より)

※実施していたクラウドファンディングは、発表から1日半で目標金額の1000万円を達成しました。里井教授らによりますと、臨床試験の費用は総額で3000万円前後にのぼり、今後も募集を継続するということです。

◆クラウドファンディング【膵がん腹膜転移の患者さんに希望の光を。新しい治療法の挑戦へ】のサイト
https://readyfor.jp/projects/suigan

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