MBS 毎日放送

2021年08月20日 09時30分 公開

宮前 徳弘のスポーツコラム Vol.53笑顔と涙と「感謝」の心  

オリンピックでの栄誉を目指す過程は、つらく厳しい。そこには選手一人一人、周囲も含めて、必ずドラマがある。夢は、実現できないことがほとんどだが、一つだけ、共通していることがある。TOKYO2020女子レスリング川井梨紗子・友香子選手の”姉妹での金メダル”という夢を実現することができたこととは・・・。

 「こんないい日があっていいのか・・・。本当に幸せです。」
TOKYO2020女子レスリング、57キロ級、リオ五輪の63キロ級に続いてオリンピック2連覇を果たした、川井梨紗子選手は、戴冠後のインタビューでこう答えた。前日、62キロ級で念願のオリンピック初制覇を果たした妹・川井友香子選手との"姉妹での金メダル"という夢をついに実現することができたからだ。

 姉妹で誓い合った夢、しかし、その道のりは決して平坦ではなかった。自らのプライドと夢の実現のためにチャレンジを決めた57キロ級(リオ五輪は58キロ級)は、オリンピック4連覇のレジェンド伊調馨選手が君臨していた階級。待ち受けていたのは、壮絶な代表争いだった。プレーオフまでもつれ込む激戦を制して手にした代表の座だけに、絶対に負けることは許されない。計り知れない重圧が、彼女にのしかかっていたのだ。
それでも、自らを鼓舞することができたのは、妹と誓い合った夢があったからに他ならない。

 一方、2019年の世界選手権銅メダル、ぎりぎりのところで代表の座をつかんだ妹は、周囲も驚くほどの成長をみせる。この1年半、来る日も来る日も、限界までトレーニングを積み重ねて、徹底的にフィジカルを強化。強靭な肉体と強いハートをつくりあげて栄冠にたどり着いた。
「何度も何度もくじけそうになった。そのたびに姉との約束があったので、やるしかないという気持ちになることができた。」

 オリンピックでの栄誉を目指す過程は、つらく厳しい。そこには選手一人一人、周囲も含めて、必ずドラマがある。夢は、実現できないことがほとんどだが、一つだけ、共通していることがある。

 サッカーの3位決定戦、敗北を喫して、あふれ出る涙を止めることができなかった久保建英選手を前に、森保監督の語った言葉が、教えてくれる。
「メダルに導けなかったのは、われわれ指導者の責任。ただこれだけは、伝えたい。選手たちは、この五輪のために、全身全霊で準備して、すべての情熱を傾けてくれた。」

 オリンピックでメダリストの称号を手にできるのは、ほんのわずかしかいない。しかし、決して、勝者は一人ではない。戦いを終えた後、アスリートたちが、全力を出し尽くしたお互いを称えあう姿、涙や笑顔をとともに、周囲への「感謝」の気持ちを忘れないアスリートたちの思い。その憧憬に心を動かされる事実が、雄弁に物語っている。

MBS制作スポーツ局 宮前 徳弘

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