MBS 毎日放送

2019年12月14日 10時00分 公開

「ヒレ肉」と「ヘレ肉」...どっち? なぜ2通りの呼び方が存在するのか徹底調査!

「私、今までの人生で、『ヒレ肉が食べたい!』なんて口に出したこと一度もないわ!」と言い切ったのは、12月8日(日)に放送された「コトノハ図鑑」(MBS)に出演していたMBSの松井愛アナウンサー。これは、彼女が「ヒレ肉」が嫌いということ…ではない。さまざまな“コトノハ”について興味深く掘り下げるこの番組が、今回は「ヒレ」と「ヘレ」のふた通りの呼び方があることに着目し、徹底調査した。

「"ヘレ"なんて聞いたことがない!」

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"ヒレ"と"ヘレ"について調査するのは、「関西人歴49年でございます」と挨拶した松井アナと、入社2年目「関西歴1年半」の東京出身・三ツ廣政輝アナウンサー。
「ヒレ・ヘレ」の語源は、フランス語「フィレ」から。牛肉・豚肉の柔らかく脂肪が少ない希少部位で最高級肉といわれる。そこで、2人は大阪市内のスーパーマーケットを訪れ、「精肉コーナー」で、「ヒレ・ヘレ」の調査を開始した。
早速、商品の「特選豚ヘレブロック」と書かれた値札を見た三ツ廣アナ。「えっ!?"ヘレ"ブロックですか!」と驚き、「今まで、人生で"ヘレ"なんて聞いたことがないですよ!」というと、「私、今までの人生の中で"ヒレ"肉なんて一度も聞いたことないわ!」と素早く反応した松井アナ。レストランのメニューで「ヒレカツ」などと書かれていたら「間違ってはるわ!」と思っているそうだ。おそらく関西人は、松井アナの言葉に深くうなずいているだろう。

「大阪の老舗洋食店は...ヒレ?ヘレ?」

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次の調査場所は、昭和元年創業の大阪の昔ながらの洋食店「明治軒」。
そこで、「ビフカツ」をオーダーすると、「特上ビフカツの"ヘレ肉"でございます」と店員。松井アナが「ヘレ肉ですよね!ヘレ!」というと、店員は「"ヒレ"って聞いた時、『何それ?』と思いました」と真顔でこう答えた。
このほか、大阪の老舗洋食店をリサーチすると...
「ヘレ」は、自由軒(1910年創業)/北極星(1922年創業)/グリル梵(1961年創業)で、1928年創業のアラスカは、昔は「ヘレ」、現在は「フィレ」。1933年創業のガスビル食堂は「フィレ」。
しかし、大阪の老舗洋食店「欧風料理 重亭(1946年創業)」だけは、「ヒレ」だった。その理由を三代目 吉原政志さんに聞くと、「初代が富山県の人間でして、関東で下積み修業しました。大阪に出てきてそのまま(ヒレを)使っています」とのことだ。

「ヒレ」と「ヘレ」には日本語の壮大な歴史が...!

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広辞苑で「ヒレ/ヘレ」を調べると、「ヒレ」の掲載のみ。「ヘレ」は関西限定の呼び方のようだ。つまり、方言なのか。日本語の語源に詳しい京都先端科学大学・丸田博之教授に話を聞くことに。
丸田教授は、明治時代の日本人は"フィレ"と言えなかったと言う。例えば、「フィリピン」は「フイリピン」、「フィルム」は「フイルム」と言っていた。そこで、「フィレ」が発音しやすいように関西では「ヘレ」、関東では「ヒレ」に変化したという。
 さらに、「here(ヘレ)」の「e」と、「hire(ヒレ)」の「i」には、日本語の歴史が詰まっているのだとか。「江戸は元々『エ』が強いんです。例えば、いばるは『えばる』、イギリスは『エゲレス』と言い、江戸の方が独自性を発揮し、大阪の方が規範的な意識が高かったのです」と解説。明治時代までは京都に都(首都)があったため、関西は日本の中心として規範的な言葉を話していたが、明治維新で都が東京へ変更されると言葉も逆転。東京が規範性を重んじ、関西が独自性を発揮するようになったという。日本語の法則の1つとして、規範性を重視すれば「イ」が強くなり、独自性を重んじれば「エ」の発音を多用するということがあるのだそうだ。

「できない/でけへん」

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ここで、突然だが「大阪弁クイズ」。
大阪弁で「できない」という言葉は、どう言うのかわかるだろうか。
正解は「でけ(エ)へん」。「ヒレ・ヘレ」と同じく"エ"が関係する。これで、「関東ではヒレ・関西ではヘレ」と思いきや...
「京都は、『ヒレ』なんですよ」と丸田教授はいうのだ。そこで、京都「錦市場」で取材すると、市場の店員ほとんどが「ヒレカツ」と言っていた。
中国から最初に言葉が伝わった京都は、当時から変わらず日本語の規範となる場所だった。「江戸よりも東京よりも京都は規範性を重視しています」と丸田教授。
前述した「でけへん」という大阪弁は、京都では「できひん」。京都の街行く人々のインタビューでもほとんどのひとが「できひん」だった。
また、東京では「見ない」という言葉も、京都は「見(イ)ひん」、大阪は「見(エ)へん」。さらに、東京で「しない」は、京都は「し(イ)ひん」、大阪は「せ(エ)へん」。さらに決定的なのは「来ない」。これは大阪では「け(エ)へん」だが、京都では「き(い)ひん」となり、非常にはっきりしている。これらは、文字にするとさっぱり「???」になりそうだが、一度口に出して言ってみると違いがわかりやすいだろう。

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「大阪人はとにかくおしゃべり。早口でたくさんしゃべりたい」ということで、口の形をあまり変えなくてもいい「でけへん」などの言葉に変化。「ヘレ」という呼び方もそこにつながる。
 そこで大阪の老舗洋食店と同じく、京都の老舗店でも「ヒレ」「ヘレ」を調査すると、ほとんどの店が規範性を重視し「フィレ」だった。
大阪が「ヒレ」のことを「ヘレ」と言うのは、大阪の独自性を表す貴重な言葉なのだが、それが近頃は消えて行ってるのだとか。その名残として貴重となっているのが「き(イ)つねうどん」のことを表す「け(エ)つねうどん」。実際に「けつねうどん」と看板を出しているお店もある。「けつねうどんって何のこと?」と聞かれることもあるらしいが、大阪の言葉の独自性を残す言葉として、ぜひ大切にしていきたい。

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「コトノハ図鑑」(MBS 毎週日 あさ5時45分放送)は、MBSのアナウンサーが「コトノハ図鑑」の編集者として様々な分野の"言葉(コトノハ)"の世界を取材。「アナウンサーが言葉を学ぶこと」を通して、視聴者にも発見を届ける。"コトノハ"を深く知れば、『人生が少し豊かになる』をコンセプトに知的好奇心をくすぐる番組。

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