MBS 毎日放送

2019年09月04日 21時00分 公開

「豚」に「汁」と書いてなんて読む? 同じ料理なのに2つの読み方がある「豚汁」を調査

「豚汁 ←これはなんて読みますか?」。この質問、「とん汁」と読んだ?「ぶた汁」?全く同じ料理なのに「とん汁」と「ぶた汁」という違う読み方が存在する。この読みの違いはかなり地域性がありそうだが…?そこで、9月1日(日)に放送された「コトノハ図鑑」(MBS)では、「音読み訓読みのコトノハ」と題し、「豚汁」について大特集。「豚」に「汁」と書く料理の起源などを徹底調査した。

「とん汁」派「ぶた汁」派

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 取材担当は、MBSの宮崎県出身の福島暢啓アナウンサーと、兵庫県出身の豊崎由里絵アナウンサー。番組冒頭、福島アナは豊崎アナに「これ『豚汁』、なんと読みますか?」と聞くと、「とん汁!」と即答。しかし、福島アナは「地元宮崎県にいた時は『ぶた汁』と言っていました」と。さらに、「私は、『とん汁』に対する恨みがありますからね!こっち(関西)に来た時、『ぶた汁』と言ったらバカにされたので、そこから転向して『とん汁』に変えましたから!苦しみを味わった上での『とん汁』だからね!」と福島アナ。福島アナは何を言われてもブレずに「ぶた汁」と読んでいるイメージだが...。

「とん汁ください!」

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 豊崎アナは「とん汁」、福島アナは「ぶた汁」ということで調査を開始した2人。調査場所が関西・大阪なのでほとんどの人が「とん汁」と言っているはずだが...。
まずは、JR大阪駅にある飲食店「大坂豚汁・生姜焼きロマン亭」へ。ここで、豊崎アナが「大坂とん汁ください」と注文すると、店員は「はい、大坂とん汁ですね!」と復唱。そして、福島アナが「大坂ぶた汁ください」と言うと、店員は「はい!大坂・・汁ですね」とほとんど聞こえない小さな声で「ぶた汁ですね」と。

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この店ではどちらでも読めるようにフリガナを打たず、「大坂豚汁」と漢字のみで表記しているという。
このほか、大手食堂チェーン店でも、ほとんどが「とん汁」で統一されていて、「ぶた汁」だけの店はなかった。
「まいどおおきに食堂・すかいらーく」は、とん汁&ぶた汁
「吉野家・大戸屋・なか卯・すき家」はとん汁

九州は「ぶた汁」?

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 福島アナは「辞書好き」で知られている。デスクには何十冊もの辞書が並んでいた。そこから「とん汁」「ぶた汁」と引くと...
一番売れているという三省堂新明解国語辞典には「とんじる:豚肉の細切れを入れた味噌汁。ぶたじる。」とあったが、ぶた汁の項目はない。次に福島アナが「これはグルメな辞書」と呼ぶ三省堂国語辞典で「とんじる」をひくと、「豚肉の細切れを入れた味噌汁。ぶたじる。(北海道を除く東日本でよく言う)」。そして、「ぶた汁」を引くと「ぶたじる:西日本・北海道の方言」と記載されていたのだ。そう、実は西日本では「ぶた汁」だった?! この結果に福島アナは思わず「何が大阪ではとん汁です、ですか!」と叫んでしまう。
そして、アナウンス室でも調査すると、大阪出身の古川圭子アナは「とん汁」だったが、兵庫県出身の松川浩子アナウンサーは「ぶた汁」と読んだ。
「ウチは、両親が九州・福岡出身だから、ぶた汁です。ぶた汁で過ごしてきました。今は、子どもに向けては『とん汁』って言うようにしている。(ぶた汁は)恥ずかしい」と松川アナ。
宮崎県出身の福島アナと両親が九州出身の松川アナが「ぶた汁」と読んでいるということで、鹿児島出身のMBC南日本放送の豊平有香アナに話を聞くことに。

「ニュースでも『ぶた汁』です」

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 福島アナが「豚汁」と書かれたフリップを出し「これなんと読みますか?」と聞くと、豊平は「ぶた汁です!」。ニュース原稿に「豚汁」の文字が入っていた場合、豊平アナは「ローカル色が強い場合は『ぶた汁』でこだわって読みます。何があっても私の中では『ぶた汁』です」と答えた。
九州はほぼ「ぶた汁」と読んでいるようだ。関西では「とん汁」。そこで、どこかで「とん」「ぶた」の境界線があるのか調査したが、北海道と九州、滋賀と三重でも「ぶた汁」と読んでいた。東西できっちりとした境目はない。

「重箱読み」

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 そもそも、「豚汁」はなぜ、「とん汁」と「ぶた汁」の2つの読み方があるのか。
ここからは「国語の時間」。
「『とん汁』って、とんは音読みでしょ。汁(しる)は訓読みじゃないですか。ということは、これは『重箱読み』ですよね」と福島アナ。
音読み(中国語に近い読み方)/訓読み(日本語の意味に合う読み方)
基本的に音読みと訓読みを混ぜる読み方はないのだが、明治時代を境目に「重箱読み」と呼ばれる、「音+訓」を組み合わせた言葉や、「湯桶読み」という「訓+音」が生まれた。

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「あの重箱読みって(とん汁)、例外みたいな扱いじゃないですか。ぶた汁は訓+訓だからものすごく整合性がとれている!『とん汁』って!?」と福島アナ。「とん汁」と読んでいる人らを"ディスっている"ようで感じが悪い...。しかし、広辞苑で「とん汁」を引くと、「とん汁」の項目はなく、「ぶたじる」を引くよう記載されていた。もともとは「ぶた汁」と読んでいたのか。

「とん肉」

 日本語の語源に詳しい京都先端科学大学の丸田博之教授に「なぜ、『豚汁』には2つの読み方があるのか?」話を聞いた。
「日本には『豚』という肉食はありませんでしたが、明治4年頃から養豚が流行ります。その後、関東の方では"とん""とんにく"という言葉が定着します。永井荷風の小説でも『とんを食べた』と出てきます」と丸田教授。関東では豚肉をカレーや肉じゃがに使用するほど一般的に。ところが、関西では「肉」といえば牛肉だったため、豚はあまり一般的ではなく「とん」「とん肉」という言い方は全く普及しなかった。
さらに丸田教授は、「こういう『ぶたにく』という湯桶読みは、関西人は嫌った」と解説。つまり、中国から最初に文字が伝わった奈良や京都と中心に関西では言葉に精通していたため「音+音」「訓+訓」の組み合わせを重視していた。

ルーツは薩摩汁

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 次に「豚汁」料理のルーツについてフードライターの澁川祐子さんに話しを聞くと、「ルーツは鹿児島。元々はさつま汁がルーツではないか?」。(薩摩汁:骨付きの鶏肉を使う以外は豚汁とほぼ同じ作り方。鹿児島の歴史ある郷土料理)
さらに、「豚肉は日本の中でも割と遅くに普及した肉だけれど、鹿児島は琉球(沖縄)と交流があったので江戸時代の初期頃からすでに入っていた」。つまり、身近にあった「豚肉」を鶏肉の代わりにアレンジした「薩摩汁」が、明治時代の豚肉普及と共に全国に広まり、「薩摩汁」とは違う読み方が必要になり「豚汁」にしたのではないかと解説した。しかし、この時「豚汁」の読み方は?
「大正10年の東京の朝日新聞に豚に汁と書いて、ふりがなで『ぶたじる』と書いていました」と澁川さん。この発言によって全国的に「ぶた汁」と最初は読んでいたのではないかと推察。

「とん汁」のウラには「とんかつ」の大ヒット!

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「豚汁」...最初は「ぶた汁」と読んでいたのが、なぜ全国で「とん汁」という読み方が優勢になったのか。
フードライターの澁川さんによると「考えられることとしては、とんかつ」。明治時代、東京で考案された「とんかつ(豚肉のカツレツ)」。関東では浸透していた「とん肉」の「とん」を合わせて「とんかつ」という名前で販売すると全国で大ヒット。「とんかつの大ヒットにより『とん』に引っ張られて『とん汁』となったのでは?」と話した澁川さん。
かつて、「ぶた汁」と読んでいた関西。「ぶた汁」のなごりはないのか?調査すると...昔ながらの食堂では「ぶた汁」。画面では、とても感じのいい"昭和のお母さん"という雰囲気の年配店員が「はーい。ぶた汁お願いしまーす」と言っていた。この最後のVTRを見ていると「ぶた汁」という読み方は、"懐かしの言葉""昔の言葉"という印象が残った。これからは、「昭和歌謡」を愛する福島アナには「ぶた汁」と言い続けてほしい。

「コトノハ図鑑」(MBS 毎週日 あさ5時45分放送)は、MBSのアナウンサーが「コトノハ図鑑」の編集者として様々な分野の"言葉(コトノハ)"の世界を取材。「アナウンサーが言葉を学ぶこと」を通して、視聴者にも発見を届ける。"コトノハ"を深く知れば、『人生が少し豊かになる』をコンセプトに知的好奇心をくすぐる番組。

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