小久保敏江役 岸本 加世子

 ものすごく緻密に編みこまれた台本で、現実と回想が複雑に絡み合う本でした。普段3回は読むようにしているんですが、この本は4回読んだかな。読み込んで、監督にいろんな質問をして…難解でしたねえ。

 敏江役は、一言で言うと、せつない役です。家族との縁が薄い人なんですね。ご主人ともわが子との縁も切れて行く…家族を失うって、これ以上哀しいことはないですよね。 そういう境遇で頑張っている人だと思うんです。全編哀しいシーンが多いので、(お芝居が)一本調子にならないように気をつけたつもりです。

高畑さんが演じる藍子も私が演じる敏江も、わが子を亡くした同じ経験を持っています。二人が対峙するクライマックスシーンでは、最後に心が通う。奇しくも同じ痛みを持った2人が対峙しなければならないのが切ないかなと思います。高畑さんとお芝居するのは初めてでしたが、底力を見せ付けられた感じです。素晴らしい役者さんだと思います。

モト冬樹さんは、私も芸能界が長いのでお会いしていない人を探す方が難しいんですが、モトさんとも初めてでした。心が離れてからの夫婦役なので、お互いに幸せな時期があれば良かったのにねえ、と話しました。壊れちゃってから再会しているので、夫婦役という感覚が難しかったですね。

遺品整理人については、こういう職業があるんだ。とこの作品でよく知ることが出来ました。強い思いと使命感がないと出来ない仕事だと思います。私は母を20数年前に亡くしたんですが、家に釜めし弁当の釜だとか、ガラクタがごちゃごちゃあったんです。でも身内だとどうしても捨てられないんですよね。10年、手がつけられませんでした。他人に整理してもらうのは、助かると思います。藍子さんのような方がその人の人生に思いを寄せてくれる、遺されたものからその人の人生を汲み取ってくれるというのは、ありがたいと思いますね。