片山忠雄役 大杉漣

ひとことで言うと、犯人冥利につきる役です。
それぞれの人生の背後に潜む思いが、ただ歩いていたり、たたずんでいるだけのシーンでも、気持ちの流れが見えてくるというか、丁寧にすべての人物の人格が描かれている本だと思いました。僕の演じる片山忠雄はとても魅力的な役で、この役をどうやって演じようか、すごく考えましたね。なぜ、実の兄を殺めてしまったのか、弟の屈折した心の動きを丁寧に演じたいと思いました。兄役がガッツ石松さんなんですが、ガッツさん、やっているうちに本当に「お兄さん」に見えてくるから不思議ですね。

片山忠雄を演じていると、すごく切なくなるんですよ。彼がここまで追い詰められるまでに相談相手はいなかったのかなとか、幸せを手にした時もあっただろうとか。選んだ方法は決して正しくはないけれど、彼に話し相手なりが回りにいたら違っただろうに、って。彼を突き動かすもののリアルさ、人としてのせつなさ、哀しさ、複雑な内面を人のひとつの魅力として考えるなら、行いは正しくはないけど、その気持ちを見てもらえたら。気持ちが人を(いろんな方向に)動かしたりするんですね。芝居というのは人の気持ちを汲み取るもの。それが見ている人につながっていくんじゃないかと思っています。

僕は眼鏡好きで、作品の度にだいたい1本は作ります。今回、2本作ってみたら、両方とも違うな、と。そんな時にスタッフから眼鏡をかけた映画俳優のケビン・コスナーの写真が送られてきて、「これだ」と思いました。さんざん探したあげく、同じようなものが見つからず、手作りのものをオーダーしました。人のよさそうな人が突然、冷たく見える、この眼鏡が気に入っています。

芝居を支えてくれたスタッフワークもすばらしかった。ふたを開けることがない、工具箱の中にも、ちゃんと片山が使っているであろう、ねじや工具がすべて入っている。生ごみの中に、本当に腐ったバナナを入れていただき、本当に臭かったです(笑)。逆に俳優には大事な背景を与えられたようで、どうやってそれと闘うか、向き合った作品でもありました。

ラストの高畑さん演じる谷崎藍子との対決シーンでは、ライブのように10ページくらいのセリフを一気に演じました。この緊張感たるや、どれほどのものか!この緊張感がこのドラマには大切だと思います。芝居はライブですが、4台のカメラを同時に回して、さらにライブ感が高まっているシーンになっていると思います。