物語の舞台は、戦後間もない東京――。
街は復興のエネルギーに満ちていた。貧しい大学生の吉岡努は、ある日、雑誌の文通欄で知り合ったクリーニング工場の女子工員、森田ミツとデートをする。大学生とのデートに胸をときめかせるミツ。しかし、吉岡は、ただやるせない気持ちのはけ口が欲しいだけだった。ミツと一夜を共にした吉岡は、その後下宿を引き払い、姿をくらませる。そんなことを知らないミツは、吉岡と会う日に着ていくことを夢見て、カーディガンを買うために残業に励んでいた。
やっと手にした給料袋を握りしめて店に出かけるミツだったが、酒と博打に溺れる工員の田口が生活費のことで女房と言い争う場面を偶然に目撃してしまう。目をそらし通り過ぎようとするミツの心に、女房に背負われている赤ん坊の泣き声が突き刺さる。結局ミツは、残業で稼いだ金を田口の女房に差し出してしまうのだった。
一方、大学を卒業し、小さな会社に就職した吉岡は、社長の姪である三浦マリ子に思いを寄せるようになる。社員たちが帰った夕暮れのオフィスで話したのをきっかけに、吉岡とマリ子は急速に親しくなっていく。マリ子と映画に行く約束を取り付けた吉岡は、幸せな気分にひたりながら雨の街を眺めていた。そんな時、急にミツの面影がよぎり戸惑う吉岡。同じ頃、大学病院の窓から吉岡と同じ鈍(にび)色の空を見つめているミツの姿があった。手首にできたアザを検査してもらったミツは、医師からハンセン病という宣告を受ける。富士山の麓にある復活病院。それは世間からうとまれ、死を待つだけのハンセン病患者たちが集められる病院だった。
「さいなら、吉岡さん。」
吉岡への思いを断ち切るように、ミツは竹林に囲まれた復活病院の門をくぐっていった。 |