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田丸 一男アナウンサーのブログ

田丸一男のことばエッセイ

「首長」は「くびちょう」か「しゅちょう」か

更新:2011年4月26日
統一地方選挙のニュースや震災報道で「くびちょう」ということば、耳にしました。都道府県知事、市町村長など行政のトップのことですが、政治や新聞の用語では「くびちょう」が一般的らしいですが、アナウンサーがこうアナウンスするのはいかがなものでしょうか?

★政界人が頻繁に口にする「くびちょう」

首長は自治体の長で、知事、市長、区長、町長、村長のことです。「しゅちょう」と読むのが正しいのですが、自治体関係者や政界人、新聞業界、評論家の方々の多くは「くびちょう」と当たり前のように使っています。私は若い頃、この言葉を知らずに「くみちょう=組長」と勘違いしていたのを覚えています。「くびちょう」を辞典で調べると「首帳:戦場で討ち取った敵の首とこれを討ち取った者の氏名を記した帳簿」とあります。

放送で「しゅちょう」という表現を使うのは好ましくありません。なぜなら「しゅちょう」と音で聞いてもすぐにこの言葉が浮かぶとは限らないからです。「市長」「主張」「首相」などと音が似ていますよね。混同を避けるためには「くびちょう」のほうが適切と言えますし、口語表現として捕らえるべきかも知れません。だからといって、「UAE=アラブ首長国連合」はアラブ「くびちょう」国連合とはいいませんよね。無理にこの表現を使わなくても、放送では「(自治体の)トップ」と言い換えれば済む話です。

「グルメ」は人のことか食べ物のことか?

更新:2011年4月19日
「あなたのグルメは?」「北海道グルメ」。よく見かける気がしますが、この表現に違和感はありませんか?社内の用語連絡会でも議題になりました。放送でも最近、本来の意味を越えた使われ方をしている気がします。「グルメ」とはもともとは「美食家=人」のことでしたが、最近は「食べ物」そのものに拡大解釈されています。番組タイトルやアナウンサーの表現、気になるんですが・・・

★語源はフランス語 「美食家」のこと

「グルメ」を辞典で調べると語源はフランス語のGourmetで、「美食家」とか、「美味しく高価な食材を使った料理を好んで食べる人」、「食に造詣が深い人」とあります。私自身は「食通」「美食家」といった「人のこと」だと認識しているのですが、解釈が違う使われ方が主流になってきています。「あなたのグルメは?」は「あなたの好きな食べ物は?」の意味で使われていますし、「北海道グルメ」は「北海道のうまいもの」と、いずれも「食べもの」そのものを指しているんですね。

★「B級グルメ」「ご当地グルメ」

さらに「B級グルメ」「ご当地グルメ」も食べ物そのものを指しています。そもそもB級グルメとは何なのかの定義も曖昧ですが、食通がうなるような美食がA級ならば、B級は大衆的な安い料理、愛好家たちが評価をするけれど、一般受けはしにくいようなもののことでしょうか。ラーメンや焼きそば、ホルモンなどを愛好し、一家言(いっかげん:独特の意見や主張)を持つ人のことでしたが、今では食べ物そのものに拡大解釈されています。例えば「ご当地グルメ王・決定戦」というイベントが各地で開催されていますが、いずれも食通の一番を決めるのでなく「食べ物そのもの」を選ぶ大会です。

★「セレブ」の本来の意味は「著名人」「有名人」

こうした拡大解釈の例として「セレブ」があります。もともとは「celeburity(セレブリティ)」の略で「著名人」や「有名人」のことでしたが、日本では拡大解釈されて、単にお金持ちになることや、ブランド品を身につけることになっています。こうなるともう和製ことばとも言えるかもしれません。

「避難指示」「避難勧告」の違いは?

更新:2011年4月11日
視聴者の方々からの意見や要望を受け付ける視聴者センターに、東日本大震災の報道で頻繁に出てくる「避難指示」「避難勧告」の違いについて数件のお問い合わせがありました。これらの意味を正確に理解しておくことはとても重要なことです。

★「避難勧告」より「避難指示」が緊急度がより高い

東日本大震災では大津波警報が出された沿岸住民に対し、政府は「避難指示」を出しました。また福島第一原子力発電所事故では半径20キロ圏内を「避難指示区域」として立ち入り禁止とし、また30キロ圏内の住民には「屋内退避指示」が出ました。災害対策基本法や水防法、地すべり等防止法、警察官職務執行法、自衛隊法では次のように規定されています。
◆「避難勧告」は居住者に立ち退きを「勧め促す」もの。ただし避難を強制するものではありません。
◆「避難指示」は被害の危険が切迫しているときに発せられるもので「避難勧告」よりも拘束力が強いもの。でも強制力はありません。
人の生命、身体を災害から保護し、その拡大を防止する事が必要な時に出されるものです。ただ、NHKの昨年の調査では、この意味の差を理解出来ている人は全体の半分に満たないそうです。その意味では、緊迫した災害時には「より分かりやすく丁寧に」、適宜、ことばの言い添えや説明をすべきかと思います。

★法的拘束力の強い「警戒区域」への指定も

「避難指示」や「避難勧告」が出た際、実際に、避難所に避難する人の割合が少ないことが問題視されています。東日本大震災で、高知県の須崎(すさき)市では四国で最も高い2メートル60センチの津波を観測しましたが、高知県内の避難対象者のうち実際に避難した人は5.9%にとどまり、津波への意識が低いことが高知県の調査でわかったんです。個人の危機意識の差によるのだと思いますが、現在、「避難指示」も「避難勧告」もいずれも強制力はなく、罰則もありません。避難するかどうかは最終的には住民自身が決めるべきだとの考えからです。ただ、今回の福島原発事故では従わない住民が少なくないことから、政府は法的拘束力の強い、「警戒区域」を設定しようとしています。警戒区域に指定されると、強制力のある「退去命令」や「立ち入り措置」を出すことが可能になります。

『青空の下』は「した」か「もと」か?

更新:2011年4月6日
しばらく休んでいました、私のコーナー。新年度からタイトル、内容を一新して更新します。実は、私、今年からアナウンサー室の「用語委員」を仰せつかっています。月に一度、関係部署の委員が集って、放送された用語の「誤った使い方」をアナウンスや字幕について検証し、冊子にまとめて社内で共有しています。このコーナーでも放送の用語、表現で感じた疑問を報告します。一回目は『青空の下』は「した」か「もと」か?です。

★「法の下の平等」「灯台下暗し」は「もと」

3月上旬、「徳島の鳴門わかめの収穫」の話題で「寒空の下(した)」というアナウンスがありました。「下」の読みは、「した」なのか「もと」なのか?
この言葉を考える上で、まず思い浮かんだのは「法の下の平等」という憲法の表現。これは「法の『もと』」です。これを「法の『した』」と読めば間違いで「灯台下暗し」という諺も「もと」ですよね。こんな慣用から私には「青空の下」も「組織の管理の下」も同じように「した」ではなく「もと」と読むほうがしっくりくるのです。

★「影響・支配・条件が及ぶ範囲」は「もと」

辞典で調べてみました。
広辞苑で「もと」(下・許)を調べると、(1)物の下(した)、またはそのあたり。(2)影響が及ぶ範囲。とあり、例として「両親の〜で育つ」「一定の条件の〜で成立する」「警察の監視の〜にある」と記載されています。
また時事通信社の「最新用字用語ブック」で「もと」を調べると「上に広がるものに隠れる範囲。影響・支配・条件の及ぶ範囲。支配下、手段」とあります。

つまり「下(もと)」は何かの影響を受ける場合、この読み方をするようです。確かに「法の下の平等」にしても、「組織の管理の下」にしても、いずれも「法律」や「組織」の影響を受けていますよ。今回気になった「寒空」や「青空」にしても「条件」にあたります。一方、「棚の下」「机の下」など物理的な場所を表す時には「した」と読むのです。時事通信社の用語辞典には「下(もと)」と読む用例がたくさん掲載されています。「医師の許可の下に外出する」「一撃の下に倒す」「一言の下にはねつける」「一定の条件の下に成立する」「彼の下で働く」「幸運の星の下に生まれる」「正義の名の下に戦う」「先生の指導の下に研究する」「灯台下暗し」「自白の下にさらす」「旗の下に集る」「法の下に平等」「勇将の下に弱卒なし」「両親の下で育つ」「ろうそくの灯りの下で読書」。こう考えると、物理的に下でなければほとんどは「もと」と読むようですね。



プロフィール

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名前:田丸 一男
生年月日:1960年9月11日
入社年:1991年
出身都道府県:大阪府
出身大学:関西学院大学
趣味:ワインとイタリアン、クラシック音楽鑑賞、日本美術と印象派絵画
何でもひとこと:寝起きの良さが強み、朝一番からしっかり声が出せます。ナレーションにはこだわりがあって、硬派から軟派までOK。
もう9年、チェロ演奏が趣味。クラシック音楽が頭に常に流れていますし、庭の草むしりをしながらモーツァルトを口ずさみます。アイロン掛けや料理など家事が好きで、妻からは重宝がられていると思います。

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