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あなたは気付ける?『アプリで声変え投資話』恋心につけ込み被害総額20億円以上か..."暗号資産詐欺"のカラクリ

2021年11月24日(水)放送

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今年11月、大阪府警は詐欺容疑で6人の男を逮捕した。マッチングアプリで知り合った男性に投資話を持ち掛けて、総額20億円以上を騙し取ったとみられている。男らは“ある方法”を使ってマッチングアプリ内で女性を装い、恋心につけ込んで投資を募っていた。その手口に迫る。

“マッチングアプリ”で出会った女性からの『投資話』

愛知県内に住む46歳のAさん。おととし、マッチングアプリで1人の女性と出会ったという。

(暗号資産投資詐欺被害者のAさん)
「最初はマッチングアプリで普通に出会いを求めていたんですけど。それプラス投資にもいろいろ興味があったんで。自分から声をかけにいったような感じ」
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交際相手を探していたAさんの目に止まった女性。名前は「ちか」。容姿端麗で、手作りだろうかクッキーを顔に近づけ微笑んでいた。「ちか」の年収は1500万円以上で、投資で利益を得ていたという。やりとりはすぐに始まった。
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【「ちか」から送られてきたメッセージ】
「ちかだよー!改めてよろしくお願いします」
「最初は私と同じ通貨から初めてみたらー?」
「その方が利益に繋がりやすいと思うし」

「ちか」が話す通貨は“暗号資産”。すぐに投資話を持ち掛けてきた。
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暗号資産とは、ネット上で取引される財産的な価値を持つ電子データで、かつて『仮想通貨』とも呼ばれていた。交換業者を通じて購入や換金が可能で、物を買ったり、サービスの支払いに利用できたりする。暗号資産は「ビットコイン」が有名だが、世界で1万種類はあるとされていて、保有する多くの人が投資目的で購入しているとされる。

300万円を投資…その後連絡が途絶える

「ちか」が購入を持ち掛けてきたのは、「ArkCash(アークキャッシュ)」と呼ばれる暗号資産だった。
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【「ちか」から送られてきたメッセージ】
「アークキャッシュに関しては最安値から始めるわけだから、下がるリスクが低い分、将来のためになると思うよ」
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(暗号資産投資詐欺被害者のAさん)
「とにかく今ビットコイン以来の期待できる通貨だよって。怪しいと思って手を出さないのは普通の人、成功する人は買うよね、私みたいになれるよ、みたいな」
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Aさんは、当初は50万円ほどを投資しようと思っていたが、連絡を取り合ううちに乗せられていったという。

【「ちか」とのメッセージのやり取り】
 (ちか)「どうせやるならもっと目指さなきゃー!笑 逆に少ない資金だと負けるリスクが高くなっちゃうよ!」
(Aさん)「ちかちゃん疑う訳ではないけど、安心欲しいから、ちかちゃんの2000万入れたとこ見せてもらえない?」
 (ちか)「いいよー!」
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送られてきた画像には「アークキャッシュ」に2000万円が投じられたことが記されていた。Aさんは「ちか」を信じて300万円を投資したという。
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その後、毎日やりとりしていたLINEのメッセージは少なくなり、3か月後、何度連絡しても繋がらなくなったという。

(暗号資産投資詐欺被害者のAさん)
「うわ、やられたって思ったのと、警察とか金融庁とか消費者センターとかにいろいろ問い合わせや相談をしたんですけど、投資は自己責任ということで、なんにもかけあってもらえなかった」

2年後…詐欺容疑で会社社長ら逮捕

しかし、Aさんの被害から2年後、事件は動いた。

(記者リポート)
「山田容疑者を乗せた車が大阪府警を出て大阪地検に向かいます」

11月8日、東京のインターネット関連会社社長・山田大紀容疑者(26)らが、詐欺容疑で大阪府警に逮捕された。独自に開発したとされる暗号資産「アークキャッシュ」などを「将来値上がりする。自分も投資している」と嘘をつき、4000万円相当の別の暗号資産をだまし取ったとみられている。

容疑者らは『ボイスチェンジャーアプリ』を使用

捜査関係者によると、山田容疑者らはマッチングアプリを悪用し、女性を装って電話をかけていたという。そこで使われていたのは「ボイスチェンジャーアプリ」だ。山田容疑者らはこのアプリを使って女性の声に変えてやり取りしていたというのだ。
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試しに男性記者がアプリを使ってみた。

(男性記者)
「私の声を女性の声色に変えてみたいと思います。あーあー、あいうえお」

単純に声を吹き込むだけでは何も変化はしない。しかし“M→W”というボタンを押すと、男性記者の声が女性のような声に変わった。

(男性記者)
「私は花子といいます。よかったら今度一緒に食事しません?」
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さらに、調整を加えてみると、男性記者の声が完全に女性の声に変わった。

(男性記者)
「男性の声が女性の声に変わりました。私は男性です」
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山田容疑者らが「りほ」という女性を名乗り、被害者の1人に電話を掛けた実際の音声が残っている。

【実際のやり取りの音声】
 (りほ)「もしもーし、聞こえる?」
(被害者)「聞こえます、聞こえますか?」
 (りほ)「聞こえます。はじめまして、●君であっている?よろしくね。なんか電話でははじめましてだけど緊張してる?」
(被害者)「たしかに、りほさんはどうですか?」
 (りほ)「私は大丈夫かな。LINEとかもしてたし。今は投資一本で生活しているよ。学生の頃からお兄ちゃんの口座を使ってトレード自体はしていたから、(トレーダー業は)もう10年くらいかな」
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「りほ」と名乗る相手の声は、限りなく女性の声に近かった。これが男性の声だと気づけるだろうか。山田容疑者らは、こうした手口で約1500人から総額20億円以上を集めていたとみられている。

逮捕前の容疑者が語った手口の一端

さらに取材班は、逮捕前の山田容疑者が関係者に対して手口の一端を語った音声を入手した。

(山田大紀容疑者)
「僕が預かって運用してあげてただけですけど、投資家ですけどっていう話なんで。性別を変えただけだと思います。女の方が売りやすいよねっていう。めちゃめちゃ悪い言い方すると“現代版のオレオレ詐欺”的な感じなのかもしれないですけど」

山田容疑者は、男性よりも女性を装ったほうが警戒されずに投資話に乗ってくる、と話した。
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(山田大紀容疑者)
「たぶんマックス月2000万くらい売ったんですよね、1人で。ぶっちゃけ、ちゃんとしているかしていないかで分けると、ちゃんとしていない寄りです。500億とか集めても何も(罪に)ならないじゃないですか。(法律が)追いついてないから。たぶん警察ですら全部分かってないんじゃないですか?」
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警察は、山田容疑者らの認否を明らかにしていないが、そもそも「アークキャッシュ」という暗号資産自体に市場価値はなく、詐欺に使われた、まさに“仮装の通貨”だったとみられている。

暗号資産の交換業者「何も分かっていないのに買う人が多い」

今、国内では31の事業者が仮想通貨の取引所として、財務局の許可を得ている。その1つ「サクラエクスチェンジビットコイン」が取材に応じてくれた。山本仁実代表は、架空の暗号資産を使った詐欺被害が相次いでいる、と話す。

(サクラエクスチェンジビットコイン 山本仁実代表)
「こちらが“暗号資産交換業”として登録を受けていることの証明書になります」
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(サクラエクスチェンジビットコイン 山本仁実代表)
「購入するときには、まず人の話を鵜呑みにしないということが重要で、自分の自己責任で投資するということが大事かなと思います。すごそうな人に勧められたからとか、肩書がすごい人がお勧めしてくれたからということで、自分では何も分かっていないのに買ってしまうという人がすごく多い印象です」

ビットコインなどの高騰で注目が集まる暗号資産。金融庁は『利用する際は登録を受けている事業者かどうか必ず確認を』と呼びかけている。

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