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「2ℓのペットボトルでかけられたかのような血だまりを、引きちぎられた髪の束で...」「私は一生生き地獄」遺族の悲痛な叫び 娘は凄惨な暴行でじわじわ死んだ... 遺体の傷は160か所以上 22歳の男に11月13日判決【後編】

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「娘は、原形がわからないほど全身が腫れあがり、大部分の肌の色は赤黒く、数え切れないほどのアザがありました」「2リットルのペットボトルに血を入れられて、かけられたかのような血だまりを、髪の束で拭いて、被告に殺されたくなくて、食べている娘が映っていました。娘の目はうつろでした…」同棲女性(当時18)に執拗に暴行を加え死亡させた上、床に広がった血をすすらせたり、髪の毛で拭き取らせて口に入れさせたりするなど、常軌を逸した強要行為に及んだ男(22)。遺族の40分にも及ぶ意見陳述は、あまりに悲痛だった。

女性の携帯電話からメール 自殺に見せようとしたか「パニック状態でした」

山中元稀被告(22)は今年5月7日夜、同8日夜~9日未明に、大阪府泉佐野市の自宅で、女性(当時18)に対し、全身を多数回殴る蹴る、髪の毛を引きちぎるなどの暴行を加え死亡させたうえ、床の血をすすらせるなどの行為を強いたとして、傷害致死罪と強要罪に問われている。

5月8日夜から、再び凄惨な暴行を受け、衰弱し息絶えていった女性(当時18)。しかし、山中被告がすぐに通報することはなかった。女性の携帯電話で「最低なことしてごめん。もう死ぬ」と自らのアドレスにメールを送信。偽装工作を行った。

山中元稀被告(被告人質問で)
「自分をかばってしまう所があったので…」「パニック状態でした」

最終的には5月9日の夜、自宅を訪れた母親に促される形で通報するも、警察署での取り調べでは「被害女性がペティナイフ(洋包丁)を持って襲ってきた」というウソの証言をした。被告の携帯電話の検索履歴に、「正当防衛」「浮気殺人」「傷害致死」などの言葉が残っていたことも確認されている。

弁護人「(調書にある)“被害女性が左胸にめがけてペティナイフで刺してきた”。これはウソですよね?」
被告 「刺してきたということではないです。ただ、もみ合いの中で刺さったので…。正当防衛や無罪を主張しようとしたわけではなかった」
弁護人「女性の命を奪ったことは、どう思っている?」
被告 「どんな理由があっても、やってもいいことと、やっちゃダメなことがあるのは当たり前ですし、命を奪うことによって、本人だけが被害者ではなく、ご遺族も被害者で… 本当に取り返しのつかないことをしたと思っています」

「あなたにとっての『大事』『大切』って、どういう意味なんですか?」裁判官も詰問

山中被告は被告人質問で、子どもの頃に父親から“立って歩けない”ほどの虐待を受け、児童相談所や一時保護所が対応したこともあったと、生い立ちの一端を明かした。不遇な家庭環境が、異常な犯行へとつながった側面も果たしてあるのか…。

裁判長らも、被告に厳しい質問を投げかけた。

裁判長「浮気したからといって、何をしてもいいわけではないでしょ?悲しみと怒りが止まらなくても、相手が出血したり、傷ついたりしているわけですよね?それは(心に)響きませんでした?」
被告 「自分の怒りをどのような形で伝えるかで、いっぱいいっぱいでした。その手段として暴力(に訴える)しかなかった」

人格を問う鋭利な質問が、被告に突き刺さる。

裁判官「被害女性のことを、家族のように大事だと述べていたが、あなたにとっての『大事』『大切』って、どういう意味なんですか?」
被告 「代わりのないというか… かけがえのないというか…」
裁判官「代わりのない存在が意識を失った状態で、ウソのメールを送るなどの偽装工作をした。心配が行動に現れていないが?」
被告 「いらだちとか、自分の身を守るとか… ただただパニックだった」
裁判官「被害女性のことを対等に見ていなかった、下に見ていたのではないですか?」
被告 「そんなことは…」
裁判官「人の痛みを考えること、人の気持ちを考えることが、苦手だという自覚はありますか?」
被告 「私自身、暴力を受ける痛さは分かっているつもりでいるんですけど、いらだった時に、いらだちが人の痛みを考えられる程度を上回ったのは事実だと思います」

「思い出もあるので…」携帯電話に残る被害女性の画像や動画の削除を“拒否”

被告自身の携帯電話の所有権をめぐり、法廷が“紛糾”する一幕もあった。

携帯電話には、性的な内容も含む被害女性の動画や画像が残っていて、検察官や遺族は、被告に所有権を放棄するよう求めた。しかし被告は拒否。動画や画像を削除するかも、明言を避けた。

検察官「あなたの携帯電話には、性的な内容のものも入っていますよね。これらを消すと明言しないんですか?」
被告 「消すことはできます」
検察官「消しますか?」
被告 「消すことはできます。不必要なものは私のほうで処分しますし…」
検察官「あなたの携帯電話に被害女性の動画や写真が残っていることが、どれだけ遺族をいらだたせるか分かりますか?」

裁判官「それらを処分することで、遺族の心が癒されるとは考えないですか?」
被告 「物に罪はないので…」
裁判官「性的に限らず、被害女性に関する一切のデータを消去すると約束できますか?『はい』か『いいえ』です」
被告 「………(沈黙)思い出もあるので、映っているもの全てを消去できるかと言われると、できないです」

「思い出」という言葉を持ち出した山中被告。本当に真摯に反省し、遺族の悲しみに思いを馳せているのか、疑問符がついた場面だった。

「引きちぎられた髪の束で…」「娘の目はうつろでした…」遺族が悲痛な陳述

論告求刑を前に、女性の母親が痛切な意見陳述を行った。

亡くなった女性の母親(意見陳述)
「娘は、少ないお小遣いで私の誕生日にマグカップをプレゼントしてくれるなど、いつも明るくて、楽しくて、かわいくて、私のパワーの源であり、生きがいでした」

「忘れもしません。5月10日、警察署から娘が亡くなったと連絡がありました。遺体の娘は、原形がわからないほど全身が腫れあがっていて、大部分の肌の色は赤黒く、数え切れないほどのアザがありました。皮膚に穴も空いていました。後で、被告がエアガンで撃ったと知りました」

「実況見分で被告が娘を『こいつ』と呼んでいたと聞きました。そんな被告が、娘に愛情を持って接していたわけがありません」

「被告の携帯電話の動画を見ました。2リットルのペットボトルに血を入れられて、かけられたかのような血だまりを、被告に引きちぎられた髪の束で拭いて、被告に殺されたくなくて、食べている娘が映っていました。娘の目はうつろでした…」

「ハンカチで顔を覆いましたが、現実を見ようと思い、すべて見ました…」

「いまも娘の携帯電話を解約していません。寂しいのです。返事がないと分かっていても、『今日こんなことがあったよ』とLINEを送っています」

「裁判官と裁判員のみなさん。過去の傷害致死の事例と比べて、『これぐらいの判決だろう』と判断しないでください」

「娘は暴力を受けて血だまりをなめていた時、『生きたい』と思っていたはずです」

「娘は何時間もかけて、じわじわ苦しみ、亡くなりました。私は死ぬまで一生、生き地獄です。苦しいです。私たち家族が納得する、重い刑にしてください」

意見陳述は40分間に及んだ。時に涙をこらえながらも、落ち着いた口調で思いを吐き出し、公正な判決を求めた。

被告「一定期間の服役を覚悟できている」

検察官は「暴力の恐怖で被害女性を支配しようと思い犯行に及んだ。あまりに安易な意思決定だ」「屈辱的な行為を強要した犯行には、残虐性・異常性が指摘できる」「女性の異変に気付いた後も放置し、撮影した動画の削除や偽メールの送信など、自らの保身に終始した」と糾弾。懲役13年を求刑した。

一方、弁護人は「まったく理由なく理不尽な暴力を振るった事案とは異なり、激情から突発的に及んだ犯行で計画性はない」「虚偽の申告があったとしても、自ら通報していて、自首が成立する」として、懲役5年が妥当と主張した。

山中元稀被告の最終陳述__

「このたびは、被害女性の尊い命を奪ってしまったことは、本当に取り返しのつかないことだと思っています。一定期間の服役を覚悟できています。私の言葉に重みはないかもしれませんが、今後再犯しないために、服役中に自分の問題点に向き合い、つぐないたい」

判決は11月13日、大阪地裁堺支部で言い渡される。

(MBS司法担当 松本陸)

2023年11月11日(土)現在の情報です

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