今年は新型コロナウイルスの影響で海を満喫することは難しい状況でしたが、MBS取材班がこれまで何度も“警鐘を鳴らしてきた問題”が刑事事件に発展する事態になりました。それが『水上バイク』です。沖合で楽しむだけならいいのですが、海水浴客に近づいてきて水をかけたり、過去には接触したりすることもありました。そして今回、命に関わる問題が起きました。
もし接触したら…危険な暴走水上バイク
人の迷惑を顧みず暴走する水上バイク。取材班はこれまで2003年から9回にわたって水上バイクの問題を取り上げてきました。遊泳客に水をかける行為や、遊泳客と接触してけがをさせる事故など、問題が起きるたびに警鐘を鳴らしてきました。
しかし今年7月、兵庫県明石市の林崎・松江海岸で人の命を奪いかねない問題が起きました。
7月31日に撮影された映像には、マリンレジャーを楽しむ人のすぐ近くを猛スピードで走り抜ける水上バイクが映っています。
砂浜近くでしぶきをあげる様子も確認できます。
【撮影者の声】
「危なすぎやろ。バカじゃないマジで。やばすぎやろ。きょうはひどい」
さらに映像をよく見ると、シュノーケリングをする人が海の中へ潜って、その15秒後、潜っているすぐ近くを水上バイクが走り抜けていきました。もし接触したらと考えると極めて危険な行為です。
取材班が動画を撮影した男性に話を聞きました。
(動画を撮影した男性)
「水上バイクが大暴れしていたので、その日は異様な雰囲気でしたね。エンジン音が大きいですね。ぶわーという感じで。(遊泳者との)余裕はゼロって感じですね。いつぶつかってもおかしくない」
水上バイクについて海水浴客は…。
(海水浴客)「もし子どもが泳いでいる上を走って当たったらけがでは済まないですよね」
(海水浴客)「危険だから子どもを水着に着替えさせて海に入れたことはないんですよ。砂浜だったら大丈夫かなと、沖の方までは行かせたことはないです」
動画を撮影した男性からの通報などを受けて、海岸では海上保安庁・警察・明石市などが合同でパトロールを行い、海を監視するカメラも設置されました。
明石市長“怒り”刑事告発
そして今回の問題で最も怒りを露わにしたのがこの人でした。
(明石市 泉房穂市長 8月10日)
「明石市からすれば『危険な行為をおやめください』という形でメッセージを発していたにもかかわらず、その後に危ない行為がなされたことについては看過できない」
明石市の泉房穂市長は、今回の水上バイクの暴走行為は「殺人未遂罪などにあたる」として刑事告発しました。
明石市はこれまで「海域などでの危険な行為を禁止」とする兵庫県の条例に則って注意喚起してきました。しかし禁止エリアを設けるなどの措置は取られていません。
「航行の自由」で規制することが難しい現状
その要因となっているのが『航行の自由』です。海上では「自由航行」が基本となっていて、水上バイクだけに速度制限を設けることや、暴走行為に罰則を科すことは難しいのが実情です。
改めて規制することはできないのか、兵庫県警に尋ねました。
【兵庫県警の回答より一部抜粋】
「場所、天候、プレジャーボートの大きさ等の個々具体的な状況をもって総合的に判断するため、一律に『速度』や『距離』を定めることはできない」
その一方で、水上バイクに対して「自主規制」を設けているのが、日本三景・天橋立がある京都府宮津市です。10年以上前から水上バイクの騒音などが問題となっていて、狭い水路への進入を禁止して、海岸100m以内では徐行するようにルールを定めています。しかし、こうした自主ルールを設けている地域はほとんどありません。
鳥居をくぐる「水上バイク」「SUP」「船」
滋賀・高島市の琵琶湖にある白鬚神社を今年8月に取材班が訪れました。
迷惑をかけずに走行するだけなら問題はありませんが、琵琶湖にある鳥居の下を水上バイクがくぐっていきます。ここでは長年、神聖な鳥居の下を水上バイクがくぐっていくことが問題となっています。3年前には柱の一部が損傷しているのが見つかり、水上バイクがぶつかったとみられています。神社側はこうした行為をやめるように呼び掛けていますが、なぜ水上バイクは鳥居をくぐるのか?
(記者)「鳥居をくぐっていましたが、なぜくぐったんですか?」
(水上バイクに乗る人)「なんか人気だからです」
(記者)「神社としてはくぐらないでほしいと言っているんですけれども」
(水上バイクに乗る人)「そうなんですか」
(記者)「ご存知ですか?」
(水上バイクに乗る人)「すみません、知らなかったです。ごめんなさい」
その後も様子をうかがっていると、SUPやカヌーを楽しむ人たちが鳥居をくぐったり…
小型の船が鳥居の下をくぐったり…
幅ギリギリの大きな船も通過していきました。神社側はバリケードの設置も検討していますが、景観を損なうことから、あくまで自主規制を望んでいます。
行政の“指導の指針”求める声も
水上バイクを管理するマリーナ側はどのような指導を行っているのでしょうか?
(イワキプランニング 岩城竜一社長)
「危ない行動があれば、お客さんを介して店に連絡が来て、そういったお客さんに対してはその都度注意に伺う」
琵琶湖でマリーナを運営する岩城さんによりますと、管理している水上バイクについては注意喚起しているものの、管理していない水上バイクもあるといいます。
(イワキプランニング 岩城竜一社長)
「公共の場所で下ろされている方とか、店を介さずに購入された方に関しては、我々業界側だけではなかなか手の届かないところがあるんじゃないかなと思います。できれば行政に入っていただいて、規制を設ける前の段階で、指導の指針のようなものを見せてもらえたらいいのではないかなと」
これまで何度も取り上げてきた危険な水上バイクの実態。誰もが安心して海を楽しめるルールとは何なのか?取材班は今後も検証していきます。
(9月13日放送 MBSテレビ「よんチャンTV」内『憤マン!』より)