第70回 桜井雅斗

ホンワカパッパ―隊がターニングポイントでした。


―新喜劇に入られるきっかけは?

小学校の時って、男の子が目立ちたい気持ちってあるじゃないですか。人前で何かするのが楽しいなということを覚えて、人前に出て何かする仕事をやりたいなと思ってて。大学4回生の時に、新喜劇のオーディションを知って、応募したっていう感じです。
(めちゃシンプルですね~)
ほんま言うと、お笑いもしたかったし、大学に入ってお芝居も面白いなということに気づいて、お芝居も見に行くようになって。お笑いとお芝居って両立出来へんのかな、と思った時に、お芝居とお笑いも出来るのは小学校からずっと見てた新喜劇や、なんか募集してないかなと思って、HP見たら、その日が金の卵オーディションの〆切日やったんです。
(え~っ!?)
「これはヤバい!」と、すぐに書類を速達で送って、電話で確認もして。で、応募した感じです。
(大学4回生といえば、就職を考えますよね?)
そうですね。親には大学行っといて申し訳なかったけど、就職するつもりは特になくて。大学に行くのも、何かあった時の保険みたいな感じで、行くように言われて、大学4年間の間にやりたいことを見つけるみたいな感じだったので、ちょうど見つかったみたいな。
(新喜劇に行かれてなかったら、お芝居を?)
たまにそれを考えることがあります…何してたんやろ? と。でも、何か夢を追ってたのかな? たぶん、人前に立つ仕事を何か見つけようとしてたと思います。

―オーディションでは?

まわりがNSCに行っていた人ばっかりで、正直、めちゃめちゃ緊張もし、ビビるというか委縮しましたけど、何か出来るかというと、大きい声であいさつするしかないな、と思ったんで…。
(はははは)
逆に負けて当然やと思ったんで。それぐらいしか、武器がなくて。一発芸とか言われたら困るし。何もないので、もうとにかく大きい声を心がけました。頭はそれでいっぱいでしたね。しかも順番が最後の方で、前の人が一発ギャグとかやっていたので、当たって砕けろ精神でした。それで合格通知が来て、次がお芝居のオーディションで。送られて来た台本を演じるというのが、最終オーディションでしたね。
(手ごたえは?)
1次の面接と一緒で、何がよかったのか、何が悪かったのかもわからない。これまでお芝居とかを見て来たので、ちょっと前に出てしゃべらなあかん、とか。客席にお尻向けたらあかんなとか、そういう基本的な知識だけはあったんで、そこだけ注意して。ただ、がむしゃらでした。
(演技経験もなく、受かってしまうのは、すごいですね!)
今でも「ほんまにラッキーやった!」と思ってます。運がいいんだな、と。運も実力のうちじゃないけど、オーディションを〆切の当日に知るとか、一日ズレてたら無かっただろうし。運が自分の中では大きかったと。

―演技経験もなく、新喜劇入られてどうでしたか?

テレビで見てた新喜劇の裏側ってこんなに大変なんやなって痛感しました。
(例えば?)
見えてる部分って舞台上だけでしたから、よく考えたら音響さんがいるし、照明さんがいるし、舞台監督さんいるし、作家さんいるし…。これまで演者だけしか見てないから、見えてない部分というか、そういうものすごい人の支えで成り立っているんやなというのを痛感しました。当たり前のことに全く気づけてなかったので。
(楽屋周りとかはいかかでした?)
何も知らなかったので、当初はほんとに怒られてました。楽屋では師匠の世話を基本的に一番下の子がやる、というしきたりなので、師匠から「これはこうやで」と直接、教えられることが多かったです。
(一番、何を怒られてました?)
僕はほんとに、大学生から入ってしまったので、縦社会というものを学んでなくて、何ていうか、先輩を敬うというか、基本的なところが…。1つ上、2つ上の先輩に、「おはようございます!」って、しっかり頭下げるのも、「あ、おはようございます」みたいな軽い感じでしたから。そこを、めちゃくちゃ怒られましたね。その時は、NSCに入っといた方がよかったんかな? と思いました。NSCだったら、芸人の縦社会のことは学ぶやろし。無知の状態で入ったので、めちゃくちゃ苦労しました。
(いきなり飛び込まれたから…)
でも、僕らの代は未経験者の人が多かったんです。10人中NSCは2人だけでした。
(あ、そういう代なんですね)
そうですね。コレ、言っていいかどうかわかりませんけど(苦笑)、ほんまに「アカン代やな」ってよう言われました。結局、ボンボン辞めていきましたし。
(今、何人ですか?)
今、岡田直子さんと2人です。芸歴では先輩になるんですけど。
(岡田さんはNSCだし、逆に、桜井さんが残ってるのがスゴイです)
いえいえいえいえ~しがみついてるだけ、かもしれないですけど。頑張りたいなという気持ちで。これは自分の責任や、先輩に怒られないように、ちゃんと自分が変わらなあかんな、と思って。

―初舞台まではどのくらい?

ラッキーだったのが、僕ら2009年9月末くらいに入って、そこから発声練習とかあったんですが、12月に全座長が揃う公演(2010年「よしもと新喜劇お正月だよ!全員集合」)で、お披露目みたいな感じで出させてもらったんです。
(その後、ご自身で印象に残った役は?)
モヒカンで出たことかな。それこそ、ヒロ兄さんや、内場さんがやられてるようなアホぼんじゃないけど、「ボクはね~社長で~お金持ちで~」と、お金に物いわすみたいな。当時、ツーブロック(トップが長め、サイドやえり足が短めのヘアデザイン)でメチャ刈り上げてたので、髪を立たせて、スーツ着て。1年目か2年目で、何も出来ることがなかったから、とにかく苦労した1週間でした。苦労と言ったら言い方悪いですけど。もちろん、めちゃめちゃ経験させてもらって。今の僕やと逆にやらせてもらえないような役でした。

―入団から8年になると思いますが、転機とかありました?

大学時代軽音楽部でサックスが吹けるということで、新喜劇のメンバーで「ホンワカパッパ―隊」という楽器隊を組んだのは大きなターニングポイントかなと思います。
(ホンワカパッパ―隊って、いつ出来たんですか?)
実はけっこう前で、吉本100周年の年(2012年)です。100周年の時に、劇場で今、オープニングでやってる爆笑族っていうものが出来て、ホンワカパッパ―隊が出来て…。
(爆笑族?)
以前は前説があったんですけど、その代わりにオープニングアクトとして10分間、今日だったら、ちゃらんぽらんの富好さんがリーダーとなって、ほかの若手と一緒に、注意事項説明したり、グッズ売ってますとか、誕生日のお客さんにプレゼントあげたり。そこでホンワカパッパ―隊をやらせてもらうことになって。新喜劇の先輩方、金の卵の1個目の吉田裕さん、松浦真也さん、森田展義さんとかと楽器隊組んで。それをやってると、先輩との距離も近くなったんで、そのお陰でコミュニケーションが取りやすくというか、取れるようになりました。

―お世話になった先輩とかは?

入った1年目の時に金の卵ライブをやっていて、その時にすっちー座長が一緒にやってくださって、一番僕のアホやった時期もよく知ってくださってるんです。だからこそ、「ほんまに初めのこと考えたら、よう頑張ってる」って言われるくらい(笑) すっちーさんにはお世話になりました。あと、吉田裕さんも金の卵ライブにもよう出てくれはったし、ホンワカパッパ―隊でも一緒やったし。裕さん、優しいんで…。
(優しいですね~)
僕にも、どないかして話しかけようとしてくださってたんで。申し訳ないな~僕なんかに、って思ってました。お陰さまで、徐々に…。
(簡単に言うと、浮いてた訳ですね?)
そうです! ほんまにインタビューの記事にしてもらうのも恥ずかしくて、して欲しくないくらいなんですけど。浮いてるんや、って気づいた時には遅かったんで。
(ある意味、自分のスタイルを持ち続けた…)
いやいや、いやいや、ただただ、無知なだけです。ただただ何も知らなかっただけなんで。それで1、2年目の時に頭打って、学んだわけです。
(今や、新喜劇のイケメン代表だと思いますが)
いや、それもすっちーさんが、そういう風に扱ってくださるんで。

―先輩から言われたことで印象に残っているのは?

一番舞台に出させてもらっているのは、辻本さんなんです。辻本さんも僕のこと、アホやと思いながらも、「芸人とは…」じゃないけど、「こうすべきやで」というのは、おっしゃってくださってたんで。前向いて喋るだの、しっかり声出すだの、そういう基本的なことって舞台一緒に立っている人間に教えてもらうことなんで、そういった意味では辻本座長が一番教えてくださったかなと。もちろん、川畑さんの週に出させてもらったら、川畑さんに教えてもらったり。内場さんの週も小籔さんの週もそうですけど。座長さんみんな優しいというか。教えてくださるんで、それが糧になって。いろんな座長の考え方があるんで。どれが正解なんやろ? と思うこともありますが、そういう時は近い先輩が、自分がいいと思ったものを選択すべき、やってみて、自分がいいと思うことをやるべきというのを教えられました。

―この先、どういう役柄でやっていきたいと思われていますか?

やっぱり、座長がくださる役は、やっていきたいですね。今、二枚目で扱ってくださるんでしたら、そこを極めたいというか。「新喜劇で二枚目と言えば…」という時、一番目に名前上がればいいなと思いますし。ツッコミ上手になって、ゆくゆくは廻しとかも出来ればいいなと思ってます。やっぱり、お芝居も好きやし、お笑いも好き。どちらも極めるのは難しいかもしれないですけど、二枚目の役やったら、桜井やろ、廻しも出来るから廻しでも使ってみよか、そういう感じで使ってもらえたら一番うれしいですね。
(ボケではないですよね)
そうですね。ボケは似合わないというか…。
(笑いは取りたいと?)
徐々にわかってきたじゃないですが、お芝居の役やけど、ポッと言った一言が、ウケるんや、と。そう思ってたら、師匠方や先輩方が、「あの言い方はもっとこうした方がいいよ」とアドバイスしてくださり、もっとウケたりする。もちろん、気持ちいいですし。そういう時、余計に先輩方は偉大やなって思いますね。自分の中で思っていた言い方とは違う言い方でウケた時は、ほんとにそう思います。

―印象に残っている役は?

すっちーさんの週で、西川忠志さんの代役を、2公演だけやらせてもらったことがあるんです。金に物を言わせて土地買収に来た若手社長役でした。大先輩の代役じゃないですか。その時にほめられたのが、自分の中ですごく大きかったですね。今でもメッチャうれしい出来事のひとつで。
(どんなところを?)
金持ちのいやらしさというか(笑) 上から物言う態度とか。忠志さんに近づけるようなお芝居が出来たのは、自分の中でうれしかったですね。それは、ほめていただけました。
(ほかには?)
緊張したことでいうと、爆笑族でやっていたホンワカパッパ―隊を本公演で、3人編成でやることがあって。金原さんがトロンボーン、松浦さんがギターですが、2人は伴奏とかベース音で、サックスの僕がメロディーなんです。しかも幕開いたらすぐ演奏し始めないといけない。松浦さんと金原さんてむちゃくちゃ上手いんですが、僕は、ちょっと出来るレベルの人間なのに、メロディーやから間違えたらあかんし。セリフやったら間違えて笑いになったり、言いなおしたり出来る部分あるじゃないですか。サックスは間違えたら終わり。しかも、一番音がデカいから、むちゃくちゃ目立つし。今はクリスマス時期に毎年やらせていただいてるんですけど、その初年度で、とにかく、心臓に負担のかかるおそろしい1週間でしたね。もちろん、舞台上で演奏するという度胸は身についたんで、良かったとは思いましたけど。

―桜井さんはこれまでの新喜劇にないタイプの気がしますが、憧れの先輩は?

それやったら、一番うれしいんですけどね(笑) ないタイプで上がって行けるんやったら。諸先輩方、目標というか憧れではあるんですけど。ほんまにおっしゃる通り、あの先輩になるんやというよりは、自分にしか出来ないことを見つけれたらなと思います。
(何かご自身の武器は?)
え~武器、ですか?…別にずっと何もないですよね。こんなん言うたらあかんな、怒られる…。あき恵姉さんがおっしゃってくださったことですけど、「常にニュートラルでいなさい」と。ボケの役を与えられる時はもちろん、ボケの役としてやらなあかんし、ツッコミの役やったら、ツッコミ、お芝居の役やったら、お芝居。常にニュートラルでいて、万能に。あき恵姉さんもそう。女子高生の役もやれば、おばあちゃんもやるし、お母さんもやるし、恋人もやる。あき恵姉さんはすごい先輩なのに、よく話しかけてくださったんで、「ニュートラルでいなさい」というのは、いまだにやっぱり、響いてますね。だから、こうなりたいというよりは、何が来ても対応できるようになれたらいいなと。出来てるわけじゃないですけど。

―桜井さんにとって、新喜劇の魅力とは?

魅力ですか? 最初に感じた全体の力というか、座員全員で45分間笑かし続ける力、それを支え続けてる制作陣、スタッフ陣の力って、いまだにすごいなって思います。そこに自分が携われている、こんな光栄なことないな、っていうか。こんな毎日、休みのない、常設の小屋なんてないですから。そこに出させてもらって。舞台がなくても地方公演に行ったりする、こんなに全国から求められる劇団ってなかなか珍しいし。そこに携われているということが一番幸せというか、続けたいなという部分ですね。何より、めちゃくちゃアホやった自分を育ててくれた場所なんで。何もできなかったし、僕がいることで何か返せればいいなと。すごい先の目標になりますけど。

―趣味とかハマっているものは?

僕はずっとけん玉やってますね。地元の友だちの影響ですね。
(確か信濃さんもそんな趣味が…)
信濃さん、コマです。 舞台上でやらせてもらったこともありますし。ま、趣味が仕事につながればいいな、という。YouTubeとかで発信してるんで、お陰さまで、「けん玉の人」という知名度も高くなって来てるんで。
(いつごろから?)
2年くらい前かな? 今はめちゃくちゃやってる訳じゃないですけど、けん玉で出来たコミュニティの人で集まって遊ぶみたいな。
(けん玉コミュニティ?)
実はローカルチームを組んでて。周りは全員一般の人ばっかりですけど。
(全国大会出たりするんですか?)
チームの子は出たりします。僕は1回見に行っただけで、去年も今年も仕事で行けなかったんですが。
(どこが面白いんですか?)
技が出来た時の快感ですね。最初、それこそ僕も全然面白いと思わなかったんですけど。1個技が出来ると仲間がみんな「すごいやん!」と言うてくれるので。出来ないことが出来るようになるというのが、うれしい。あとは音の快感とか。音が気持ちいいとか、ですね(笑) 友達で集まった時は、けん玉しますし。ミニゲームみたいなのもありますけど、それこそ、コミュニケーションツールのひとつなんです。集まって、飲みながら、「けん玉しようぜ!」とか。
(はははは~)
けん玉ひとつあるだけで、集まる理由になるじゃないですか。イベントもありますし。小さい規模の大会もやってます。

2017年9月11日談