桜咲くまで日記 :#5 大垣一穂
全9週のちょうど真ん中、折り返し点の5週目。
3、4週の登坂監督からバトンを引き継ぎ、再び戻って来ました。広島出身の大垣です。

当たり前のことですが、登場人物のキャラクターは台本上の展開とともに変化し成長するものなので、2週分の間を空けて現場に復帰すると、その変わり様に想像以上に驚かされることがよくあります。今回もまさにその例で、若林家の菜穂子と孝文は1、2週とはまるで別人。二人に何があったの?と思わせるほど。母親に対して優等生を装い、運命の再会後父親を渇愛していた菜穂子は心を閉ざし、逆に自室に閉じこもり家族と会話さえ交わさなかった孝文は兄として妹を見つめ始め、父親に本心を打ち明ける。もちろん台本を読んでストーリーの流れや各キャラクターの人間関係の推移のつながりを確認し計算しながら演出プランを練って行くのですが、沢尻エリカちゃん、小松拓也くん本人自身も、キャラクターと一緒に確実に演技に深みを増し上手くなっているので、一層そう感じられるのでしょう。例えば菜穂子の眼の力。無言の芝居での表情と瞳はしっかりと一点を見据え、突き刺すような魅力を感じます。また孝文が本来持っている性格の柔らかさも全身からにじみ出て来ました。昼ドラのペースや雰囲気に慣れて来た二人、これからも注目して下さい。

そして5週目で大活躍する登場人物の一人が居酒屋「風林火山」の店主、西本昭一。彼の人柄の温かさや優しさが前面に押し出され、涙あり笑いあり、熱きハートが全開バリバリです。印象的な花札のシーン、夕やけこやけのシーンは、きっと昭一ファンを倍増させること間違いないでしょう。何故、彼は未婚なのか?男の優しさは罪?……
かつての若林家のふるさと、山梨県の韮崎とつながりを持つ甲州料理店「風林火山」ですが、実は撮影前に参考にさせていただいた実在のお店が都内にあります。そのお店はまさに私たちのイメージ通りで、無論、店名は異なりますが、ドラマの中で仁や菜穂子が何度も口にしている“ほうとう”を初め、おざら、煮貝や馬刺しと言った郷土料理も大変おいしく、また山梨名産のお酒やワイン、店内の装飾品等とても勉強になりました。武田信玄が陣中食にしたとも言われる“ほうとう”、味付けは各家庭によって種々様々だってこと皆さん知っていましたか?驚いたことにこのお店が開店したのは昭和41年。偶然にも私が産まれた年からずっと店長さんは“ほうとう”を作り続けているんですねぇ。ご協力、本当にありがとうございました。

5週目のもうひとつの見どころが、「おばあちゃん騒動記2?ハナ家出編?」です。若林家から手紙も残さずに突然消えてしまったハナさん。大阪の仁の兄夫婦も巻き込んで大きな波紋を投げかけます。しかしこの事件をきっかけにして家族の気持ちがひとつの同じ方向へと向かいはじめ、冷たい氷の固まりが溶けるようにゆっくりと心が打ち解けはじめていきます。またハナさん自身は家出先ですったもんだしながらも周囲の人々の心をしっかりと掴んでいくのです。若林家のキーパーソン、ハナから目が離せません。

家族とは何でしょうか?
一つ屋根の下で生活する人々? 血のつながり? 戸籍上の人間関係?
では、最悪の状況で離婚したにも関わらず同じ目標を持って再び暮らし始めた元夫婦は?6年以上も連絡が途切れていたのに一時的に暮らす祖母と孫は?また各々が別々に暮らし始めたら?
決して簡単に答えが出せるとは思っていません。いや、総てを満たす答えは無いに等しいでしょう。しかしこのドラマを通じて、皆さんが皆さんの家族と重ね合わせながらそれぞれの想いで観ていただければ幸いです。


次週の6週からは、満を持してドラマ30の常連監督、竹園監督の登場です。美事なリレーションを視聴者の皆さんと共に楽しみにしています。
お見逃しなきよう…