監督自身による一話ごとの解説です。,ネタバレする可能性があります。ご注意ください。
この週のあらすじ
第1話

ちょっと専門的すぎるかも知れませんが、ドラマで最も大切なのは脚本なので、まずは脚本のお話から始めましょう。
どんなドラマでも初回の脚本には作者の様々な工夫が盛りこまれているものです。ドラマがゆっくりと立ち上った「ピュア・ラブ」に対して「II」ではいきなり初回で木里子が陽春に会いにいこうとします。
はなればなれの二人が会うということは、ドラマの切り札だけに、1話にもってくるということは普通は考えられない事です。
ストーリーとかかわってくるので詳しくは説明しかねますが、この第1話のエピソードがあることで第2話から4話までの話がふくらみ、なおかつこれが第5話のラストシーンの伏線となってドラマが大いに盛り上がるという仕掛けになっているのです。
第2話

この回では、禅宗の専門道場(修行の場)での雲水の生活がかなり細く描写されているので、是非注目して下さい。
人間は本来「深い」ものに引かれる本能があると思うのですが、日常とかけはなれた雲水たちの厳しく自分を律する姿も魅力の1つだと思います。
それから戸ノ山さつきのドラマ上の役割が「T」よりもいっそうはっきりしてきた事により、彼女の存在が忍とならんで大きくふくらんできました。楠見薫の演技に大いに笑って下さい。
第3話

この回のハイライトは何といっても宗達老師が「地獄、極楽はあるのか?あるとしたらどんな所か?」という質問に答えるシーンなのですが、ここでは「II」で初めて登場した麻生周作の後輩医師、佐竹亨(とおる)に注目してみましょう。
彼と彼の幼い子供・佐竹基生(もとい)−相変らず擬った宮内流の名前ですね−、彼らの存在が障害の多い陽春への思いをつらぬいていけるのか迷っている木里子に大きな影響を与えることになるのです。
「純粋だが先の見通しのつかない恋」と「平凡だが結婚を前提としたおだやかな幸せ」の二者択一が陽春VS佐竹の形で描かれます。
皆さんなら、どちらを選ばれますか?
第4話

僧堂での陽春の修行の1つとして「托鉢(たくはつ)」が描かれます。これは3人1組で「ホォーッ」という呼び声をあげながら家々をまわってお金や米の施しをうけていくもので、実際にごらんになった方もいると思いますが、皆さんの中にはこれ程質素な食生活を続けているにも拘らず、恰幅のよい雲水がいることを疑問に思っている方もあると思います。
これは雲水が信者の方々から食事のもてなし(点心という)をうける事も多く、その時、断わることが出来ないのは勿論、米1粒も残せないので本人の意に反してふっくらとした雲水が出来てしまうこともあるというわけなのです。
それをさけるため、僧堂の中には、雲水への点心を老師の責任において断わっておられる所もあるそうです。
第5話

前半の山場ともいえるシーンが最後にありますが、私は1話〜10話の脚本をうけとった時、他のすべてのシーンをひとまず置いておいて、このシーンから演出プラン(脚本に書かれた内容をどのように映像化し、俳優を動かすか)を練り始めました。
10人のドラマディレクターが競作すれば10通りの芝居が出来るであろうこの様なシーンこそドラマの醍醐味と言えると思います。