新型コロナウイルスによる一日の死者数は500人を超え、過去最多を更新しました。日本で感染者が確認されてから3年が経過し、ワクチン接種も進みましたが、死者数は増えています。今後のワクチン接種について大阪公立大学大学院・城戸康年教授は「ワクチンは3回接種していれば十分で、4回目以降はあきらかなメリットはわからないというのが現状」と話します。高齢者についても「4回5回接種しても死者が激減したという証拠は得られていない」と解説しました。
(2023年1月16日放送 MBSテレビ「よんチャンTV」より)

―――新型コロナの新規感染者数、スタートは2020年1月15日から、第1波、第2波、第3波はグラフでもう見えないぐらい小さな波です。第4波前にワクチンの接種開始。「接種を受けましょう」という社会の流れが生まれます。夏に第5波があって、東京オリンピックも開催されました。2022年は第6~7波、現在は第8波と呼ばれています。感染症が専門の城戸康年教授は、この3年をどう振り返りますか。

はい。簡単にまとめれば2020年は、薬も検査もおぼつかなかった年で、行動制限もやむなしの時代だった。2021年はほとんどワクチンの年。2022年はオミクロン株の年で、ありふれた感染症の時代になったと思います。医学的に振り返ると、これまで人類が経験してきた感染症が辿った道と大きくは変わらない。変わったのは、「ワクチンが思ったより早く出てきたことと、ワクチンが思ったよりも早く効かなくなったこと」。日本社会に限れば、この3年間で大きく変わったのに、社会システムはあまり大きく変えられてないというのが率直な意見です。

少なくともワクチンが行き渡った時点では、もう封じ込めは不可能であると思うので、そのうち免疫が一定数行き届けば、「ウイルスは必ずそれから逃げる」。つまりオミクロン株のようなものが出てくるのは当時から想定されていました。方向性として「弱毒化」も想定されるので、こういう世界になるんではないかなと以前から思っていた。

―――ただ、全国で確認された死者数は、1月14日で過去最多の503人と発表されました。コロナの病床使用率も、34都道府県で5割を超えています。城戸教授は、「保険制度、医療体制がコロナを特別視せずに対応できるか」が、これからの鍵じゃないかと見ています。

大前提として、残念ながらこれからも感染の波はあり、それによって残念ながら亡くなってしまう人の波も続くと思います。日本は国民皆保険制度により、誰でも病院にアクセスできます。しかしそれは、「いつも同程度の人が病院に行く」ということで成り立っていた世界なんですが、急激に感染の波が増えたときに、みんなが病院に押し寄せると、それはもう受け入れられる体制ではなくなったんです。

その代わり、医療というのは病院で特別なものだったんですけれど、例えば検査が薬局で可能になったという時代に少々変わってきました。医療を解放してきたわけですが、次にインフルエンザなり、コロナの陽性になったときに、薬はどこからもらえるんだということが次の問題になってきますから、それが自己完結できるような仕組みにならないと、常に病院が足らないということに繋がると思います。そういう体制を作りましょうというのが一つです。

―――ポイントは「コロナに感染することを特別視せずに許容できるか」と。

はい。一つ目は、日本の医療のシステムをどうするかという問題。二つ目は我々市民の問題です。過去はみんなが怖がって、自分が感染するのが嫌、近くの人が感染するのも嫌、知らない人から感染を受けるのも嫌という世界だったわけです。しかし、世界で広がって止まらない以上、どこかで、感染する可能性もあったねということを許容しなければならない社会が来ると思います。既に多くの人の考え方は変わってきていると思いますが、それが「社会で受け入れられるかどうか」というのが鍵です。

―――どうやって社会で受け止めていくか、豊田真由子さんのお考えは。

(法や制度は)ウイルスや感染症がどれぐらい危険か、その分類によってどれぐらい厳しい措置を取れるかを緻密に決めていて、それは人権や自由を大きく制限することになるので、「危険性が高い感染症だから、人権侵害を許容しましょう」という仕組みになっています。その危険性が変わっているならば、国民の権利を守るという観点から、変えていかなきゃいけないと思う。
ただ、水際対策ができなくなるということや、ワクチンの公費負担をどう考えるかってところもありますから、基本的な考え方は、「この感染症はどういう感染症かっていう事実」と、それに対して「国民がどこまで犠牲も含めて受け入れて共存することを覚悟するか」っていう、まさに心構えと体制の両アプローチかと思います。

―――城戸教授は。

コロナ前は誰でもクリニックで受診できたのに、「発熱外来」になって受診できなくなりました。身近な感染症なら、感染の診断と治療を自分ができる範囲内でやろうというのが私はできる最大限の今の体制かなと考えます。


―――「2類相当を5類に」という春に向けた議論の方向性はいかがでしょう。

それはもう最低限度の条件で、それを変えたからといって変わるわけではないですが、変えなければ、危ない感染症という扱いは変わらなく、制限をしましょうという方向がベースなので、変えるのは大前提かなと思います。

―――いっぽう、ワクチン接種について城戸教授は「3回接種していれば今のところ十分」というお考えですか。

これまで得られている医学のデータから見れば、2回までは大きなメリットがあった。3回は場合によって、例えば高齢者の方などにメリットがあった。しかし4回目以降は、明らかなメリットというのはわからない。というのが今の状態だと思います。一方、抗体がずっと続かないことも間違いないので、4~5回接種した人もいると思いますが、今の頻度で、本当に受けていいのかっていうのは様々な意見がありますし、メリットは明確じゃありません。その代わり、例えば2024年や25年にもう一度受けた方が良い場合が来ることももちろん想定されます。

―――高齢者の方は、打っておいた方がいいのでしょうか。

高齢者も様々な方がいますから、全員が4回5回頻回に接種したところで、本当に亡くなる方が激減するかというと、そういう証拠は得られてないと思う。新規陽性者数というのを数え続ける限り、第何波と起きます。それは感染症を見ているからです。今、第8波相当と言われていますが、見かけ上第7波より山は低いですよね、これは世の中の人が、積極的に検査を受けなくなったからです。この傾向が続くと、新規陽性者数と死者数がリンクしなくなっちゃう。その時点で第何波かわからなくなります。だけどその代わり、しばらく死者の山が続きます。

―――もう一つ、「濃厚接触者の待機期間に実効性あるのか」という点は。

これまでは、とにかく封じ込めるべき感染症だったので、濃厚接触者という単なる危険性がある人でさえ私権制限を行っていたんです。それを許容しなければならないというのが最初だったんですけど、今ありふれた時代になって、果たして、感染者でもない人たちの私権制限をするのはいかがなものか、というか、そこに値するような病気なのかというのは考えなければいけないし、既に変わっていると考えます。

―――現在の濃厚接触者の待機期間は、基本は5日間で、検査陰性であれば3日間で解除ということですが、今後どうしていくのかも、考えるときが来ているのかもしれません。