京都 町家 徒然散歩


かつて応仁の乱に山名宗全が陣をかまえたことから発した西陣。織物の町として栄えたこの町も、着物離れ・職人の高齢化などから少しずつ過疎化が進んでいました。そんな中、1995年に"ネットワーク西陣"という組織が発足しました。空き町家や空き工場の有効活用を促進する事が目的のグループでした。その活動をきっかけに、多くのアーティスト達が職住一体の機能(LIVE & WORK)を持った町家に興味を示し入居を始めました。その数は130件以上にも至り、彼らの作品展が開催されました。その活動はやがてニューヨーク州ピークスキル市との交流に発展し、現在は住民レベルでの国際交流にまで至っています。
その活動の火付け役となったのが、佐野充照さんと、その相棒のフリーカメラマン小針剛さんでした。
佐野充照さんに、それらの活動を通して入居したアーティストの活動やエピソード、町の風景などを織り交ぜて、お話を聞いていきたいと思います。

 第12回『万葉粥の宴』



津軽三味線

横笛

タブラとシタール
妙蓮寺の手作り市・フリーマーケット「西陣楽市楽座桃山文化村」が3回目を迎えるころ、赤米のおはぎを販売しているI氏と話す機会を持った。

「赤米を使った催しができないだろうか?」

漠然とそんな着想を抱いたので、購入できるものかどうか、赤米について語れる専門家はいるのかどうか、そういう話をしたところ、赤米の販売を快く引き受けてくれ、同時に赤米に詳しい大学教授を紹介してくれたのである。

今から思えば、無謀な企画であったが、毎月アジア各地の民族音楽をライブで聴いて、赤米や古代米について専門家の話を拝聴し、その上、赤米を主としたお膳をいただくという催しを練り、着々と構想を固めていったのである。

講義は、赤米の専門家である京都文教短期大学安本義正教授にお願いし、毎月第3土曜日に2年間もお世話になった。

4月から開催するという計画で、3月には試食会を行った。

赤米と白米をブレンドした「お粥」・赤米と餅米をブレンドした「おこわ(赤飯)」・「菜っ葉とじゃこの和え物」・「梅干しと沢庵を添えた一品」・「お茶」・私が作った手製の「箸置き」・そして「塗りのお箸」これらを江戸時代のお膳に盛って提供するのだ。私が焼いた陶器製の箸置きは、お持ち帰り御自由!

コンサートは、筑前琵琶や中国箏、ウードや北インド音楽から津軽三味線やマリンバなど通算36回、3年半にわたって恒例行事として行ったのである。

最後の1年間は、安本教授に代わって、縄文食研究家の杜岡遥さんにお願いした。

苦労話をすると、毎月のライブ演奏者を探すこと、依頼することが大変であったし、参加者を募ることも大変であったし、当日の準備や後かたづけも大変であった。

1つのお膳に器だけで5つ。40膳。それを洗ってかたづけるだけでも大変な作業である。それらを暑い夏も寒い冬もほとんど休みなく3年半も続けたのである。おまけにお膳やお椀は江戸後期の伝来ものである。

赤字を出さないようにする反面、参加者が気軽に来てもらえるように、参加費を安く設定することにも工夫した。

ミュージシャンは1人でも4人でも2万円。講師は、1回1万円。だいたい1回開催して支出は約4万円。参加費は1人2000円に抑えたので、20人の参加者があってようやくとんとんになる勘定だ。少ない時には約10人、多い時には40人前後、最終的に黒字だったのは奇跡的といえるだろう。

食材の買い付けから料理まで、ほとんど私たちネットワーク西陣のメンバーと妙蓮寺の寺役さんといわれる留守番さんや門番さんや墓守りさんたちで行った。人件費を支払うと完全な赤字である。しかし、ボランティアでみんなが協力してくれたおかげで、成り立っていたのである。

民間が催しものをする場合、こういう大変な努力がある。それなのに行政が公的資金を使って、同じようなことを行おうとする例が、各地にあるのは、どうかと思う。

広報には、市民新聞や町内ポスター掲示板を使うことができ、おまけに無料。あるいは、ポスター代、チラシ代は、公的印刷費から出費される。出演者へのギャランティーも公的資金から出る。収支のことを度外視して行える行政が同じ土俵に参入すると、民間は太刀打ちできなくなるのは当然である。

万葉粥の宴の場合は、そういうことがなかったが、行政には、行政のやるべきことがあるだろうに、と思うのは、わたしだけではないだろう。

これだけの苦労をしながら続けて来た背景には、私が個人的に民族音楽の企画が好きであったことと、聴くことが無上の楽しみであったことである。その上、いろんな参加者やミュージシャンと知り合える。

そして最大の後援者は、妙蓮寺。会場を無料提供してくれていたのだ。

そこは一種の情報交換の場となり、西陣での空き町家とアーティストの話から、楽市楽座、妙蓮寺での会場貸し、宿坊など多岐にわたる話題が提供されたのである。

ここで演奏したミュージシャンが西陣の魅力にとりつかれ、自らの足で歩いて空き家を探し、ついには私の口利きで入居してしまったこともある。

記:佐野充照

■佐野充照(さの じゅうしょう)
法華宗僧侶。本門法華宗妙蓮寺塔頭円常院住職。
住職の仕事をするかたわら、「町家倶楽部ネットワーク」の代表としても京都の町家
を活用していく取り組みをおこなっている。

人と人、人とモノ、人とまちを結ぶ仲人「町家倶楽部ネットワーク」
http://www.machiya.or.jp


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