京都 町家 徒然散歩


かつて応仁の乱に山名宗全が陣をかまえたことから発した西陣。織物の町として栄えたこの町も、着物離れ・職人の高齢化などから少しずつ過疎化が進んでいました。そんな中、1995年に"ネットワーク西陣"という組織が発足しました。空き町家や空き工場の有効活用を促進する事が目的のグループでした。その活動をきっかけに、多くのアーティスト達が職住一体の機能(LIVE & WORK)を持った町家に興味を示し入居を始めました。その数は130件以上にも至り、彼らの作品展が開催されました。その活動はやがてニューヨーク州ピークスキル市との交流に発展し、現在は住民レベルでの国際交流にまで至っています。
その活動の火付け役となったのが、佐野充照さんと、その相棒のフリーカメラマン小針剛さんでした。
佐野充照さんに、それらの活動を通して入居したアーティストの活動やエピソード、町の風景などを織り交ぜて、お話を聞いていきたいと思います。

 第9回『マンション計画を覆した』



設計事務所として使われている町家
コンピュータや机が設置されている

建具も自分たちで修理する
千本格子にべんがらを塗っている。

お店の内部

私たちネットワーク西陣の関係で、初めて飲食関係のお店がオープンしたのは、1996年9月9日であった。

ここは長い間、空家で放置されていた妙蓮寺前の町家だった。ちょうど私たちの活動が展開されはじめた95年の暮れに、ここにマンション計画が持ち上がったのである。まだ、設計図段階であり、町内に発表されたわけではなかったのだが、情報をキャッチした私たちは、すぐに大家さんと連絡して、交渉をはじめたのである。

交渉の方法は、マンション反対論ではなく、景観論争でもなかったこと。それが、大家さん側が交渉のテーブルに着いてくれた大きな要因であるし、こっちの意見を聞いてみようと言う気持ちにさせたのである。

京都は、大学の町なので、学生が多いというのがおおかたの見方で、学生マンションが次々建設されているが、中古マンション市場はとても厳しいのが現実だ。ワンルームマンションは新築の場合は、満室になるが、4年後に学生が出ていった後、中古マンションになる。建設費の消却にかかる年月まで学生の借り手市場であるはずがない。空き部屋の前にはごみが放置され、スラム化した中古マンションは枚挙にいとまがない。

とても建設に注ぎ込んだ資金を回収して、利益がでる状態ではない。建設会社と融資をする銀行だけが儲かる構造になっている。
それよりも、今月から収入のある道を選びませんか?というのがうたい文句であり、現実的な提案であったのである。

さて、現状貸しという、大家さんにとっては、非常に楽な条件を示すことによって、今まで不動産物件になりえなかった物件が、不動産としての価値を持ったのである。現状貸しということは、大家さんは、どこも修理しなくていいということであり、修理に注ぎ込む当初資金がいらないばかりでなく、敷金礼金というばかにならない借り手側の当初負担も減らすことができるのである。
なおかつ、大家さんにとって、ぼろぼろであるという認識の町家を好んで借りてくれる人がいるというのは、不思議な出来事であったらしく、おまけに自分で直すというのだから、これは画期的な賃貸借関係であったのである。

なによりも今まで放置していた空き町家が突然、金の卵を生み出したようなものである。

大家さんも
「大黒柱さえ切るようなことしてくれなかったら、何してもいいです」
と寛大だし、借り手側も自分で創造できる空間の魅力にはまり込み、

「完成した時よりも改装している間のほうが楽しかった」
と感想をもらすほどである。

改装後の空家に招待された大家さんは、
「こんなきれいになるんだったら、自分が住めばよかった」
「変われば変わるものですね」

と一様に感歎の驚きとため息をもらしている。

この町家は輸入雑貨と無国籍料理のお店になった。しかし、6年後、奥さんの強い希望で、やがて農村部に移り住み、今は、お店ではなく、普通の賃貸物件になっているが、外観や、基本構造はそのままに継承されている。

このような賃貸形式が普及していくことによって、京都の町家ブームが起こってきたのである。

今まで、ぼろい木造建築だと思っていた長屋や路地裏町家が、お店などに変身を遂げる課程は、とても興味深いものがある。


記:佐野充照

■佐野充照(さの じゅうしょう)
法華宗僧侶。本門法華宗妙蓮寺塔頭円常院住職。
住職の仕事をするかたわら、「町家倶楽部ネットワーク」の代表としても京都の町家
を活用していく取り組みをおこなっている。

人と人、人とモノ、人とまちを結ぶ仲人「町家倶楽部ネットワーク」
http://www.machiya.or.jp


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