京都 町家 徒然散歩


かつて応仁の乱に山名宗全が陣をかまえたことから発した西陣。織物の町として栄えたこの町も、着物離れ・職人の高齢化などから少しずつ過疎化が進んでいました。そんな中、1995年に"ネットワーク西陣"という組織が発足しました。空き町家や空き工場の有効活用を促進する事が目的のグループでした。その活動をきっかけに、多くのアーティスト達が職住一体の機能(LIVE & WORK)を持った町家に興味を示し入居を始めました。その数は130件以上にも至り、彼らの作品展が開催されました。その活動はやがてニューヨーク州ピークスキル市との交流に発展し、現在は住民レベルでの国際交流にまで至っています。
その活動の火付け役となったのが、佐野充照さんと、その相棒のフリーカメラマン小針剛さんでした。
佐野充照さんに、それらの活動を通して入居したアーティストの活動やエピソード、町の風景などを織り交ぜて、お話を聞いていきたいと思います。

 第4回『空家が放置されている理由』


鍾馗さん探し調査で新たにわかったことは、非常に空き家が多く、崩れかけで放置された家や工場跡がいくらでもあるということであった。
私は、鍾馗さんの数よりも崩れかけた土塀や蔦の這った土蔵、伝統的家屋の点在する西陣の町の風景のほうに興味をひかれた。

最初のころは、空き家の町家を覗きこむものだから、消防署員に放火魔と間違われたり、不審者に勘違いされたりもした。たばこ片手に町家の破れた障子から中を覗くところを想像してもらったらわかると思うが、誰が見ても立派な不審者である。
黄色いバンダナをまるでターバンのように頭に巻き付け、首には数珠を改造したネックレスをぶらさげ、エスニック調の服装に身を包んでいた私の後ろで、せき払いしながら消防署員が見つめている……これが事実だからおかしい。

──こんな路地奥に隠れ家のようなところがほしい。

なんとなくそう思った私は、友人の小針剛に話を持ちかけた。
小針剛(後に西陣町家倶楽部の第一号の入居者となった)によると、私は「空き家いっぱいあるで」と移住をそそのかした張本人だそうである。
それほど西陣には空き家がいっぱいあった。

[空家が放置されている理由]



まず第一は、西陣織りという産業にかかわりがある。
この産業は、現在でも日本の伝統地場産業としては、最大かもしれない。
織り元は、多くの職人を抱え、その職人は、職住一体の家に住み、裏の土間に織機を置いて仕事をしていた。すなわち、大きな工場で織るのではなくて、出先で織るという形態をとっていた。他の明治以後に発展した織物産地が、大きな煉瓦の工場を建設し、現在、それらの再利用に頭を悩ますという事態は、西陣では、ほとんど起こらなかった。
織り元は、職人の住居を確保し、小さな工場を点々と持つような形をとった。着物離れに従って、その住民であった職人が西陣で不必要になってきたのである。
そうすると、必然的に空き家になるが、織り元としては、元々、織元が買って、職人に住まわせた住居であり、賃貸住宅で儲けようと思っていたのではないので、空いても新たに賃貸するという発想がなかったのである。
それよりも西陣織りに要する膨大な紋紙(織り方の指令を出す、紙でできた長いパターン紙)を保存する倉庫として活用した。そのため、空き家は紋紙で埋まり、ついには、放置され、雨漏りが始まり、朽ちて行くという運命にあった。

第二は、賃貸住宅として戦前からあるものは、賃貸借契約がきちんとなされていなくて、たとえばであるが、月々の家賃が現在でも5000円以下であったりする。それを値上げすると言えば反対される、出てほしいと言えば、立ち退き料を請求されるという痛い目に遭う。それに懲りた家主は、二度と貸したがらない。それを聞いた近所の人もトラブルを恐れて貸したがらない。

第三は、相続税などの税金の問題である。
人が入居している住宅だと、相続税や財産分与が発生したとき、すぐに処分できない。土地を兄弟姉妹で2等分や3等分したりするにも、大変だし、ウナギの寝床と言われるほど、奥行きが長くて、間口が狭いので、等分できないのが現状である。そういう時に備えて、いつでも現金に換えられる様に、空き家のままにしておく。それが、一番ベストの活用法だと考えている。

人が住むため住宅なのに、おかしなことだが、空家で放置することが、最大の活用とは、皮肉な現状である。
記:佐野充照

■佐野充照(さの じゅうしょう)
法華宗僧侶。本門法華宗妙蓮寺塔頭円常院住職。
住職の仕事をするかたわら、「町家倶楽部ネットワーク」の代表としても京都の町家
を活用していく取り組みをおこなっている。

人と人、人とモノ、人とまちを結ぶ仲人「町家倶楽部ネットワーク」
http://www.machiya.or.jp


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