京都 町家 徒然散歩


かつて応仁の乱に山名宗全が陣をかまえたことから発した西陣。織物の町として栄えたこの町も、着物離れ・職人の高齢化などから少しずつ過疎化が進んでいました。そんな中、1995年に"ネットワーク西陣"という組織が発足しました。空き町家や空き工場の有効活用を促進する事が目的のグループでした。その活動をきっかけに、多くのアーティスト達が職住一体の機能(LIVE & WORK)を持った町家に興味を示し入居を始めました。その数は130件以上にも至り、彼らの作品展が開催されました。その活動はやがてニューヨーク州ピークスキル市との交流に発展し、現在は住民レベルでの国際交流にまで至っています。
その活動の火付け役となったのが、佐野充照さんと、その相棒のフリーカメラマン小針剛さんでした。
佐野充照さんに、それらの活動を通して入居したアーティストの活動やエピソード、町の風景などを織り交ぜて、お話を聞いていきたいと思います。

 第2回『きっかけは布袋(ほてい)さん』


私の町家の活動についてお話をする場合、最初にどうしても説明しておかなければならない重要なポイントがある。これをはずせば、何故私が町家に関わるようになったかがわからないからだ。これからの2話は、その動機について語ってみたいと思う。
京都の古い町家の台所には、『おくどさん』と呼ばれる薪で焚く調理場があった。その『おくどさん』の上に、愛宕山などの火の用心のお札と共に祀られているのが土人形の布袋さん(※1)だ。この布袋さんは、七福神(布袋尊・毘沙門天・大黒天・弁財天・福禄寿・寿老人・恵比寿)の一人として崇められている。その中でも、布袋尊は独立して京都を中心に台所の神様として祀られるようになった。火伏せの神様である荒神様のお使いとも言われている。
小さいのから大きいのまでだいたい七体祀ってあるのが普通で、毎年増やしてゆく。家に不幸があったら今までの布袋さんを全部寺社に奉納したり滝壺に沈めたりして、改めて最初から祀りなおす習慣のあるところもある。
これらは、江戸時代後期から広く信仰されていたのだが、今ではもうこの習慣も廃れてしまって祀る人も少なくなってしまった。それどころか、台所がシステムキッチンに改装されるようになって、逆に「邪魔」な存在になってきたのだ。

1994年春、近所のおばあさんが亡くなってしばらく空き家になっていた家からカンカン、トントンと大工仕事の音がしていた。
亡くなったおばあさんの親戚が引っ越してくるそうで、改築しているらしい。大工さんと話をしていると、真っ黒に煤けた大きな布袋さんの土人形を指さして「これねえ、どうしたらいいものか。ほかす(捨てる)わけにもいかず、困ってるんですわ」と相談された。

さっそく持って帰って悦に入っていたのだが、なんと、次の日に大工さんがなんともいえないようなすまなさそうな顔して「すんません。あれ、ほかすんとちゃう(捨てるのとちがう)かったらしいです」とやってきた。

それからというもの、布袋さんにとりつかれたように恋しくなり、骨董店や縁日の露天商を回っては、買いあさる毎日が続いた。色の剥げた煤で真っ黒で油がべっとりついた埃だらけの布袋さんを見るとわくわくしてしまう。尋常ではない。正気の沙汰ではない。しかし、コレクターというものはこんなものだ。

骨董屋の間では、『布袋さんを高く買う坊主がいる』ということで、有名になってしまったほどだ。
そうこうするうちに、あれよあれよという間に布袋さんが100体を突破。置き場所に困るという事態に。

その中に『鍾馗さん』(しょうきさん※1)が混入していたのだ。
この『鍾馗さん』こそ、私の興味を町家そのものに引きつけた張本人である。
記:佐野充照

※1 鍾馗(しょうき)さん
京都では様々なものに「さん」をつけて呼ぶ。京都の古い街並みを歩いていると、玄関の屋根あたりに瓦人形をおいてあるのを見かける。これには様々なバリエーションがある。これを京都では鍾馗さんとよぶ。
そもそも鍾馗とは唐の玄宗皇帝の夢に登場した神で、病や魔を払うなどの霊験があるとされる。

※土人形の布袋
現在では、京都市伏見区深草の丹嘉という伏見人形のお店で作られている。

■佐野充照(さの じゅうしょう)
法華宗僧侶。本門法華宗妙蓮寺塔頭円常院住職。
住職の仕事をするかたわら、「町家倶楽部ネットワーク」の代表としても京都の町家
を活用していく取り組みをおこなっている。

人と人、人とモノ、人とまちを結ぶ仲人「町家倶楽部ネットワーク」
http://www.machiya.or.jp


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