目には青葉、夏が近づく八十八夜 


♪ 夏も近づく八十八夜〜 野にも山にも若葉が茂る〜♪ (※)

みなさんも口ずさんだことがあるのではないでしょうか。童謡「茶摘み」のフレーズです。
歌に登場する「八十八夜」は、立春(2月3日)から数えて88日目の5月2日(閏年は5月1日)。
ちょうど新茶が一番美味しい時期で、そのうえ、この日に摘まれたお茶を飲むと、一年間を無病息災で過ごせるのだそうです。
「八十八夜」という言葉の響きに惹かれ、以前、京都・宇治で催されている「八十八夜の茶摘み」の見学に行ってきました。
実は茶畑を間近で見るのすら初めて。遠目に見る茶畑の深い緑色や缶に入った煎茶葉の細くてツンツンしたイメージから、硬くて頑丈な葉っぱを鋏でガシガシ刈り取る光景を想像していたのですが、実際のお茶の葉はずっと柔らかでみずみずしく、女性の手でやさしく茎を傷つけないように摘みとられていました。
「これ、食べてごらん」と渡された摘みたての葉っぱを齧ってみると、ほのかにお茶の香りがする美味しい野菜でした。ビタミンCが一杯で美容にも効きそうです。
早速お土産に一掴みほどビニール袋に入れて頂き、夕食のサラダにサッと茹でたお茶の葉を加えてみました。種明かしをするまで、誰もお茶の葉だと気付きませんでしたね。

茶摘みがはじまる4月下旬〜5月は、若葉茂る季節でもあります。
この時期の植物の生命力は目をみはるもので、たった数日のうちに木枝は緑の衣を纏いフサフサと、土がむき出しだった地面はあっというまに雑草で覆い尽されてしまいます。
芽吹いたばかりの緑も、毎日どんどん変化していきます。
青葉=緑色と一括りにしがちですが、自然の彩る「緑色」は驚くほど多種多様。
少しくすんだ萌黄色から、柔らかい黄緑色、そして目に鮮やかな新緑へ・・・と思ったら、緑はいつのまにか濃く重い色に変わっていきます。
春一瞬の新緑の美しさは秋の紅葉に負けないほど素晴らしく、特に小雨にしっとり濡れた新緑の魅力は絶品だと思うのですが、それ程もてはやされないのは、見頃期間がとても短く、多くの人が一番いい時を見そびれているからかもしれません。 見逃しても、「緑」は「緑」なので、紅葉のように、「まだ青い」とか「もう散ってしまった」などと違い、旬の区別がつきにくいのも厄介なところ。新緑シーズンは桜が散る頃から始まっています。新聞から花見情報が消えたら、さあ、次のお楽しみは新緑の京都です。
私が毎年行きたくなる新緑の名所は、糺の森がある下鴨神社、ならの小川が流れる上賀茂神社です。境内自由なので気軽に行けるというのもありますが、緑に包まれて青葉の香りを吸い込み、小川のせせらぎを聞くと、「癒されてるわ〜」と心からうっとり。
5月上旬なら、上賀茂神社から歩いて10分足らずの大田神社にも、ぜひ立ち寄ってください。境内の大田の沢には、なんと天然記念物に指定されている杜若の群生あり、例年葵祭の前儀式が行われる頃に美しい花を咲かせます。


紅葉の名所は、そのまま新緑の名所にもなります。
「丸一日、どっぷり緑に浸りたい」という方は、嵐山界隈がいいかもしれません。渡月橋から竹の道、野宮神社、常寂光寺、二尊院、祇王寺と続く緑の回廊を、のんびり歩いて散策できます。
ついでといってはなんですが、野宮神社で縁結びもお願いしちゃいましょうか。
ここの絵馬は十二単衣のお姫様が描かれていて、とっても可愛いんです。良縁だけでなく、その先の子宝安産願いの絵馬もあって、アフターフォローもバッチリです。
また、苔が素晴らしい祇王寺は、雨の日が最高。運がよければ雨宿りする白猫のマロちゃんにも出会えるかもしれません。

雨の嵐山嵯峨方面へ行かれたら、ユニークな石仏さんが大勢おられる愛宕念仏寺まで足を延ばしては如何でしょう。ギターを弾いている石仏さん、犬を抱いている石仏さん、カメラを持った石仏さんやバルタン星人風の石仏さんまでおられます。お天気が良すぎると、せっかくの石仏さんの輪郭が白飛びしてしまいます。光の柔らかい曇りや小雨の日がお薦めです。
じゃあ、お天気の日はどこにいけばいいの?
青空が広がる五月晴には、空ごと味わえる景色が最高です。例えば清水寺や南禅寺三門から見下ろす眺めは、まさに「絶景かな」
坂道が大変ですが、透かし青葉がきれいな蹴上げの日向大神宮もいいですね。

上記の東山エリアに行かれたら、近くにある花街もちらりと覗いてみてください。
この季節は、舞妓さんデビューの挨拶まわり「店だし」が多いので、ひょっとしたら新人舞妓さんの初々しい姿に出会えるかもしれません。


祇園の花街に近い建仁寺の潮音庭は、大好きなお庭のひとつです。四方をぐるりと渡り廊下で囲まれたお庭は、額縁風に眺めてもどこか開放感があって魅力的です。お庭の真ん中にある石組は、四方どこから見ても正面に見えるよう工夫されているんですって。

そうそう、冒頭でお茶の話題に触れましたが、建仁寺を開山した栄西禅師は、日本の茶祖と言われる方です。中国(宋)から茶種を持ち帰り、お茶の栽培を奨励され、それまでは上流階級でしか嗜まれていなかった喫茶を、広く一般に普及されたそうです。
今、私達が八十八夜の美味しい新茶を味わえるのも、栄西禅師のおかげかもしれませんね。

※ 童謡『茶摘み』(ちゃつみ) 文部省唱歌。作詞作曲ともに不詳。
  夏も近づく八十八夜
  野にも山にも若葉が茂る
  あれに見えるは茶摘みぢやないか
  あかねだすきにすげの笠

文・写真:星野 佑佳

■星野 佑佳(ほしの ゆか)
京都市生まれ、在住の女性フォトエッセイスト
00年 海外放浪の撮影旅へ出発、帰国後自然風景を求め、日本全国を旅しながら撮影。
05年頃から、旅のかたわら、地元である京都の風景や歳時記を撮影、現在に至る。
夢は「旅の風景写真や京都の写真を、フォトエッセイ集としてシリーズで出版すること」
ホームページ『京都発 地球のうえ 〜 旅の風景写真&京都の写真集』主催。

写真を担当した一般書に「京都12ヶ月 年中行事の楽しみ方」(ダイヤモンド社)、「京暦365日」(らくたび文庫ワイド版)、「旧暦びより」(コトコト社)、「京の茶の湯遊び」(らくたび文庫)等がある。
また、全国の風景写真を企業カレンダーやポスターに提供している。


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