夜桜ワルツ 

みなさん、京都の桜は楽しめましたか?今年の桜には翻弄されましたね。
例年にない暖冬で「今年の桜は入学式には散ってるね」と誰もが予想していたのに、いよいよ桜が開花する頃になって、咲き始めた桜が風邪をひきそうなほど寒い日が続き、その後は一気に20度を越すお天気続き。しかも一週間以上にわたり、晴天の青空が続きました。
「ちょっと待った」をかけられた桜が一斉に満開を迎え、慌てた方も多いのではないでしょうか。ソメイヨシノがまだなんとか見頃をキープする中、京都で一番遅く咲くといわれる仁和寺の御室桜が満開になり、久しぶりの恵みの雨があがると、もう新緑の季節に変わっていました。
慌しかった花追いの日々の中、今年は夜桜もかなり撮り歩きました。
「清水へ祇園をよぎる桜月夜 こよひ逢ふ人みなうつくしき」
与謝野晶子の歌にもあるように、京都の春に夜桜は欠かせません。そしてまた、京都ブームに乗っかるように、年々、桜のライトアップが増えています。
京都で夜桜といえば、かつては円山公園のしだれ桜でしたが、残念ながら今はもう、かつての美しい姿は見ることができません。樹勢が衰えたのには諸説あるようですが、それでもあえてその姿を見に行く観光客は多く、「可哀相」から始まって、「京都の桜は、ここ数年でどんどん衰えている」とまで力説する方も何人かおられました。
確かに。桜も生物なので、寿命とか体調があって、魅力を失いつつある桜名所もあるにはあります。その代わり、以前は見向きもされなかった桜が成長して、旬を迎えているところもあるんですよ。
個人的な感想としては、桜も紅葉もライトアップ系を盛大にしてしまうと、樹の元気がなくなっていくように思います。植物には人間以上に睡眠時間が必要なのかもしれませんね。

夜桜を撮りだしたおかげで、私も睡眠不足に悩まされました。
夜の帰宅が遅くなるだけでなく、朝一番が貴重な撮影時間になる観光シーズンの京都では、夜明け前の起床が必須です。という訳で、毎日、睡眠時間3〜4時間の日々が続き、最初はお昼時に家に戻って昼寝をしたりもしていたのですが、「どこもかしこも桜満開」になると、なかなか撮影を切り上げる勇気も出ず・・・
もう最後の方はフラフラのクラクラ。地に足つかず雲の上を歩いている感じでしたね。
精魂そそいで撮り貯めた今年の夜桜のラインアップは、
桜守・佐野藤右ェ門邸の桜畑、広沢の池隣の平安郷、宇多野ユースホステル、嵐山・中の島公園、嵐電宇多野〜鳴滝間、岡崎疎水、将軍塚大日堂、妙満寺、水火天満宮、仏光寺、祇園白川界隈、高瀬川沿い、高台寺、清水寺、二条城、大石神社、長岡天満宮(八条ヶ池)、京都府立植物園などなど。

限られた花の盛りに、よくまあこれだけ廻れたと、我ながら満足です。
どこもそれなりにお薦めですが、予想以上に気に入ったのが植物園。宴会で酔っ払ったような騒がしさもなく、行列をつくって桜を見る忙しなさもなく、遠目に桜を眺めたり、木の下で花の天井を見上げたりと、夜の桜を満喫できました。
そうそう、今年は行けませんでしたが、平野神社参道の夜桜も素敵です。
お天気続きだった今年の春は、桜と月のツーショットも楽しめました。
満月を挟んでの数日間は、花の群れから覗く白い月や水面に揺らぐ銀色の月、東山から昇ってくる薄紅色の月など、ため息がでるほど美しい花月夜が味わえました。

西山方面に桜を撮りに行った帰路、ついでにと長岡天満宮八条ヶ池のライトアップへ立ち寄った時、迂闊にも満月に近いということは忘れていました。普通に夜桜を撮影し、そろそろ帰ろうかという時、桜並木が映る池に、ユラユラとほろ酔い加減の小さなお月様が笑っているのを発見。それから延々と、月が高く昇り、池から抜け出すまで撮り続けました。

実は今年、10年近く乗っていた愛車レガシーを買い換える時期が、ちょうど桜満開の頃と重なってしまいました。全国の桜を共に追いかけた相棒です。名残惜しさも募り、いよいよ明日はお別れという前夜、最後の夜桜見物にと将軍塚大日堂へ車を走らせました。ここは公共交通機関がないため、新車がやって来るまで自力では来れません。レガシー最後のご奉公です。
展望台に上り、名物である落日を背に、眼下に広がる桜苑を撮っていると、隣にいた人が、「夕日が沈むより速いスピードで昇ってくるなあ」と呟いています。
「何が?」と聞くまでもありません。
目線を少し上げると、青い東山から、夕照にほんのり染まったまあるい月がどんどん顔を出しています。感激で声をあげそうになりました。いえ、あげていましたね。
その時、展望台には5〜6人の観光客しかいなかったのですが、みなさん、その絵画のような眺めに見入っておられました。「わー」「ほらほら、見て」「素敵ですね」「夕日だけで帰らなくて良かったね」と語り合い、連帯感すら生まれていました。

やがて宵の青が闇色になり、桜の色が残照を失い、オレンジ色の光源だけが照り始め、ようやく撮影を終えた私は、脱力してその場にしばし座り込みました。
実はここには数日前にも来ており、普段なら、そうちょくちょく同じ場所に足を運ぶことはないのですが、「明日からは車がないから、桜の時期にはもう来れない」という強迫観念が、この日、私をここへと引き寄せました。
「レガシーがくれた最後のプレゼントだな・・・」
帰りの坂を走りながら、何度も「ありがと、ありがと」と繰り返していました。

さて、もし桜の季節に京都に来られたら、ぜひ夜のお散歩を楽しんで頂きたい場所があります。ご存知、祇園白川です。確かにすごい人出です。それでもお薦めします。花街に息づく夜桜は、京都ならではの情景です。
その後は、四条木屋町から五条あたりまで、高瀬川沿いをのんびり歩かれては如何でしょう。こちらは近隣でイベント等がなければ、人も少ないと思います。五条通りに出て東山へ目をやると、清水寺から光の道が空へと延びています。
春の夜は人も花も寝る間を惜しんで興じる夢のひと時なのかもしれません。

文・写真:星野 佑佳

■星野 佑佳(ほしの ゆか)
京都市生まれ、在住の女性フォトエッセイスト
00年 海外放浪の撮影旅へ出発、帰国後自然風景を求め、日本全国を旅しながら撮影。
05年頃から、旅のかたわら、地元である京都の風景や歳時記を撮影、現在に至る。
夢は「旅の風景写真や京都の写真を、フォトエッセイ集としてシリーズで出版すること」
ホームページ『京都発 地球のうえ 〜 旅の風景写真&京都の写真集』主催。

写真を担当した一般書に「京都12ヶ月 年中行事の楽しみ方」(ダイヤモンド社)、「京暦365日」(らくたび文庫ワイド版)、「旧暦びより」(コトコト社)、「京の茶の湯遊び」(らくたび文庫)等がある。
また、全国の風景写真を企業カレンダーやポスターに提供している。


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