月の都 

澄みわたる夜空に月が美しい季節になりました。
皆さんは「十五夜お月様〜」と聞いて、何を思い浮かべますか?
ススキ? お月見だんご? かぐや姫?
私は白いうさぎを連想します。まあるいお月様を見てうさぎが跳ねるという童謡がありましたね。小さい頃、よく口ずさんだものですが、なぜかちょっぴり寂しく感じるメロディーが心に残っています。
うさぎといえば、お月様の模様は、よく「うさぎの餅つき」に例えられますが、幼い頃はなかなかそうは見えず、「あ、なるほど」と思えるようになったのは、かなり大きくなってから。みなさんは如何でしたか? それよりも、望遠レンズではじめてお月様をアップで見た時、学校で習った月のでこぼこ、クレーターがちゃんとあったのには感動。ぞくりとしました。
季節の風情を愛でる言葉「雪月花」のひとつでもある月に、不思議な魅力を感じる方は多いのではないでしょうか。
特に美しい月が眺められるという旧暦の8月15日(今の暦では9月中〜10月初)の「中秋の名月」に、日本中のあちこちで観月会が催されるのも、その証なのかもしれません。
普段は「ふと気がつくと満月だった」という無粋な私も、この日はお月見巡りで大忙し。
数年がかりで主だった京都のお月見行事をまわることが出来ました。今回はその中からいくつかをご紹介したいと思います。
京都の観月行事で有名なのが、大覚寺の「観月の夕べ」と下鴨神社の「名月管絃祭」です。どちらも大変な人出ですが、雅やかさといい華やかさといい、人気があるのも納得。
「京都に来たからには、都っぽい十五夜を楽しみたい」という方にピッタリです。私も「一生で一度しか、京都の中秋の名月に来れないわ」・・・という知人がいたら、やっぱりこの二つをお薦めします。

大覚寺では中秋の名月の頃、三日間にわたり、王朝時代を彷彿とさせる龍頭船、鷁首船に乗ってお抹茶とお菓子を頂きながら大沢の池を一周することができます。舟から空の月を見上げるのではなく、水面の月を愛でるのが都流。一度は体験しておきたいお月見です。ただ、乗船券は早々に売り切れてしまうことが多いので、お早めにどうぞ。
もし、間に合わなくても大丈夫。他にも池や月を眺められるお茶席があります。それに池畔を歩きながら、雅船が浮かぶ姿や池に映りこんだ多宝塔を眺めるのも絵になります。
下鴨神社では、十二単衣の姫君の平安貴族舞や舞楽が楽しめます。
かがり火とススキの穂がゆれる中、雅楽器の音色が心地よく夜空に響き渡り、抜群に雅やかな雰囲気を醸し出しています。
京都の行事をまわっていると、舞楽を鑑賞する機会は多いのですが、大抵は1〜2演目だけ。この日は演目が多く、他ではなかなか見ることのない舞楽も奉納されるので見逃せません。ただ、こちらもかなり混雑するので、近くで鑑賞したい方は、早めに行かれたほうがいいですね。参道では、神社周辺の名産品を集めた「かがり火市」も催されています。
さて、もし何年もかけて、京都の中秋の名月を楽しめるのなら・・・とっておきの場所があります。今年初めて訪れて、魅了された「広沢の池・観月会」です。
大覚寺から徒歩10数分ほどの場所ですが、驚くほど静かにお月見ができます。
ここでは、広沢の池に和舟を浮かべ、それに乗って池に映る月を愛でるのですが、広くて暗い池の真ん中で月明かりを味わう「粋」さは、「これぞ月見の真髄!」と実感できます。
広沢の池沿いの車道を走る車の軌跡が、遠く離れてしまった俗世を眺めているようで、またなんとも・・・このまま月世界に連れて行かれそうな心細ささえ感じます。
池畔の遍照寺ではお琴の演奏やお茶席なども催されているので、舟から降りたら、ここでしっかりと現世に戻りましょう。
上賀茂神社でも「賀茂観月祭」が行われ、舞楽の奉納やミニライブが楽しめます。広い芝生から比較的ゆったりと鑑賞できるのが嬉しいですね。先着順でお月見団子のお接待もありますよ。 まだ青さの残る空にゆっくりと現れた大きな月は、今年一番の美しさでした。
意外と穴場なのが、平野神社の「名月祭」と八坂神社の「祇園社観月祭」
平野神社では、舞楽や日本舞踊をはじめ、様々な伝統芸能が奉納されます。
お接待の甘酒を頂きながら、気軽に楽しみたい方にお薦めです。

八坂神社では舞台の周りにずらりと並ぶオレンジ色の提灯が、夜の美しさを際立たせています。その中で奉納される舞楽やミニコンサート、そして東山から昇ってくる月が、詩的な美しさを作り出します。
その他、神泉苑でも「観月会」があり、龍頭船に乗ることができます。

ところで、ほとんどの観月行事は「中秋の名月」に行われるのですが、白峯神社の「観月会」だけは、一ヶ月遅れの陰暦9月15日の満月の前後に行われます。
もしかして、「後の月見」とよばれる十三夜の月見にあたるのかな?と想像するのですが、日が離れているせいか、ついうっかりと行きそびれてしまいがち。でも十五夜の満月だけ見るのは「片見月」といって無粋らしいので、ぜひ行っておきたいお月見です。こちらも提灯の並ぶ舞殿で、コンサートなどが行われています。
他にも、秋には月を愛でながらお茶会を楽しむ行事として、高台寺の「秋の夜の観月茶会」や宇治黄檗山・萬福寺の「秋の夕べ」(旧・月見の夕べ)があります。
どちらも取材で訪問したのですが、特に高台寺では、お茶室に飾られていたお月見だんごが、私の思い描く「理想のお月見だんご」そのものだったので、嬉しくて踊るような気持ちになったほどです。茶道具もさすがに趣向をこらしたものが多く、おなつめに蒔絵でウサギや秋の草が描かれていたのが印象的でした。

全日本煎茶道連盟が主催する「秋の夕べ」では、萬福寺の広い境内のあちこちに様々な流派の煎茶道のお茶席が設けられます。チケットは3枚つづりなので、気になるお茶席を3ヶ所選んでお茶を頂けます。小さな茶器に最後の一滴まで丁寧に注がれたお煎茶の味は、家ではなかなか味わえないもの。
作法に自信がなくても大丈夫。どちらのお茶会も気軽に楽しめます。ぜひ一度体験してみては如何でしょう?ひと味ちがう秋の月夜を過ごせるかもしれませんよ。

文・写真:星野 佑佳

■星野 佑佳(ほしの ゆか)
京都市生まれ、在住の女性カメラマン。エッセイニスト。
2000年、海外放浪の撮影旅に出、帰国後自然風景や旅風景を求め、日本全国を旅しながら撮影。桜を追いかけて全国を旅する女性カメラマンとして、TBS系のTV番組に出演。2005年頃から再び、地元である京都の風景や行事を中心に撮影、現在に至る。

 2007年度クラレ社の企業カレンダー(B3サイズ14枚)
 JR北海道 2007年春の海峡物語キャンペーンポスター(2007年4月著)      ほか

夢は「今までの旅で撮影した写真をフォトエッセイ集としてシリーズで出版すること」


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