京都ベジタブル


今年の京都の夏は、たまに夕立が降るくらいで連日お天気、ずーっと猛暑が続いています。こんな年でも、お店に行けばみずみずしい野菜を手に入れることができるのは、現代ならではの贅沢かもしれません。
京都の行事には野菜にまつわるものがけっこうあります。
秋、収穫の季節に行われるずいき祭(北野天満宮)や高盛御供(北白川天神宮)、赤山禅院のへちま加持、冬の大根焚き(千本釈迦堂、了徳寺)をはじめ、七草粥(城南宮や上賀茂神社)など、秋から冬にかけての行事が多いようですが、夏野菜の活躍も見逃せません。

夏野菜の代表選手、キュウリといえば、京都の七月を彩る祇園祭のシンボルマーク。
祇園祭は八坂神社のお祭なのですが、この八坂さんの紋・五つ木瓜が「輪切りにしたきゅうりの切り口」に似ているんです。だから、京都では「祇園祭の間(7月)は、きゅうりを食べたらあかん」といわれ、「きゅうり断ち」する人も。もっとも、「縦に切って、食べたらええやん」という一休さんのようなトンチをきかせる人もいるようです。
ところで、きゅうりといえば、みなさん、「きゅうり封じ」って聞いたことありますか?
その昔、弘法大師がキュウリの中に病を封じ込め、それを土に埋めたり、川に流すことによって、病魔を退散させたことに由来して、一年で一番暑いといわれる土用の丑に、西賀茂の神光院、御室の五智山蓮華寺や鳴滝三宝寺で行われている疫病除けの祈祷行事です。
キュウリ封じの基本は、ご祈祷してもらったキュウリで体の悪い所をさすった後、土の中に埋めるのですが、「人や動物に踏まれない場所」でないといけないため、最近ではお寺に戻して埋めてもらう方が多いようです。これは助かります。
私は以前、あまり深く考えずにキュウリを持ち帰り、ここなら大丈夫と家の壁際に埋めたのですが、その後に飼い始めた猫がそこを踏んでいない・・・とは断言できません(汗)。

キュウリ封じは、お寺によって多少やり方が違うようです。ご祈祷料も1500円(神光院)、1000円(五智山蓮華寺)、500円(三宝寺)と見事に三段階。
最初に訪れた神光院では、キュウリを名前や年齢などを書いた半紙で包み、紅白の水引でキュッと結んでご祈祷してもらいます。ご祈祷後のキュウリは持ってかえって土に埋めるか、境内のキュウリ塚に納めます。この日も朝8時前という早朝にも関わらず、キュウリ塚にはすでにキュウリが積み上げられていました。


五智山蓮華寺では名前などを書いた細紙を貼ったキュウリを木箱に入れてご祈祷してもらいます。
ご祈祷で、3週間拝みこんだ護符を、独鈷でキュウリに埋め込み、これを持ち帰って、3日間、体の悪いところや痛いところを撫でた後、土の中に埋めるか、お寺に戻します。
昔は墨でキュウリに文字を書いたそうで、墨の跡が残る木箱は魔法の道具のようです。
鳴滝の三宝寺では、お坊さんが封じ紙付きの爪楊枝で参拝者の眉間を軽く突いた後、これをキュウリに刺します。私は撮影した3ヶ所の中で、一番リーズナブルな三宝寺のキュウリ封じを体験してみたのですが、眉間をつかれた瞬間は、ドキッとするというか、ハッとするというか、気のせいかもしれませんが、体がリセットされた感じがしました。
ここではきゅうり封じと同席で、あじさい祈祷や焙烙灸(ほうろく灸)も行われています。そう、三宝寺は、キュウリ封じよりも、暑気払いや頭痛封じの「焙烙灸」の方が有名ですね。最近では頭部の魔を封じることから、学力向上、受験の合格祈願に訪れる人も増えているのだとか。
「焙烙灸」についても、ちょっとだけ触れておきましょうか。
焙烙・・・と聞くと、節分の壬生寺で厄除けに奉納する「焙烙」を思い出します。この焙烙は、「焙烙割り」として春に催される壬生狂言で割られます。
三宝寺の焙烙は、濃い目の肌色といい、大きさ(直径約40cm)といい、壬生寺の焙烙とそっくりです。
節分の壬生寺では、焙烙の表(凹んだ方)に名前や年齢を書いて奉納しますが、三宝寺の焙烙灸の場合は、裏側におまじないの印が描かれています。この焙烙を頭にかぶせるようにのせて、印の上で艾(もぐさ)を三つ燃やします。艾の大きさは・・・そうですね。お刺身とかざるそばについているワサビほどの大きさがあるですが、焙烙のお皿が厚いせいか、熱さはほとんどわかりません。小さなお子さんも平気な顔で参加しています。(なんと子供用のミニ焙烙もあります)。むしろ艾からモクモクと立ち昇る煙の方が「効いてる」感じかな(笑)。祈祷後には美味しいおはぎのお接待もあります。
妙雲院の焙烙はもうちょっと小さめで色も白。こちらは凹んだ方に、祈祷で赤く呪文の一字を書いてから、頭にのせ、艾を一つ燃やします。
頭頂部の髪が少なめだと、うっすらと赤い文字が移ってしまうのが、かえって効きそうな感じがします。赤文字は拭けば簡単にとれますのでご安心を。
野菜系で毎夏ニュースで紹介されるのが、夏のかぼちゃ供養。
南瓜って、ハローウィンとか冬至で食するとか、秋冬のイメージがありますよね。
実際、12月には矢田寺のかぼちゃ供養、不思議不動院の南瓜大師供養と、南瓜のシーズンらしい行事が続きます。
でも、なんと真夏にも、かぼちゃ供養があるんです。
夏のかぼちゃ供養は、中風封じ(現代でいうと夏バテ予防や健康祈願でしょうか)を祈願して、銀閣寺の近くにある安楽寺で、「鹿ケ谷かぼちゃ」の煮物を食する京都の夏の風物詩。この南瓜、瓢箪のような形をしているちょっと珍しい南瓜で、約36品種ある京都府内の伝統野菜、いわゆる京野菜の一つでもあります。
当日、山門前の露店で、鹿ケ谷南瓜をはじめ、賀茂茄子や賀茂トマト、柊野ささげなどの新鮮な京野菜を手に入れることができます。ちなみに南瓜のお値段は、普通サイズで1000円、ビックサイズは1500円でした。南瓜にしてはお高めですが、そこは天下の鹿ケ谷南瓜。人気商品だけに、のんびりしていると売切れてしまいますのでお早めに。
さて、本堂で手を合わせた後、南瓜の待つ書院へ向います。
書院は朝早くから南瓜目当ての参拝客で大盛況、あふれんばかりの参拝客はもちろん、何社もの報道陣が入り乱れ、南瓜をほおばる子供にインタビューしています。
私はなんとか縁側に場所を確保。桔梗の咲くお庭を眺めながら、鹿ケ谷南瓜を頂きました。お味は、西洋南瓜を食べ慣れた私には予想外のみずみずしいあっさり系でした。

その他、夏に活躍する野菜といえば、お盆にお供えする「精霊馬」でしょうか。このお供物は京都に限らないそうですが、例えが絶妙なのでご紹介。
京都のお盆は8月上旬の迎え鐘で、故人の霊をあの世からこの世にお迎えして、しばらく滞在してもらい、16日・五山送り火で、再びあの世に戻ってもらうことになっています。迎え鐘の時期、家のお仏壇に「早くこの世に帰ってきてください」という願いをこめて、爪楊枝や折った割り箸を4本の足に見立ててキュウリに付けた「きゅうり馬」をお供えします。
16日には、「名残惜しいので、ゆっくりとあの世に戻ってください。お供物も持っていって下さい。」と、キュウリの代わりに茄子で牛を表した「茄子牛」をお供えします。
きゅうり馬も茄子馬も、なんだかユーモラスで可愛いですよね。
他にもお供物には、蓮の花やささげ豆、オレンジ色のホオズキなど、綺麗な色が並びます。
夏の行事は案外絵になるので、毎年こりもせず暑気除けやお盆関連の行事を撮影に行くのですが、家族連れの小さい子供さんが一生懸命に手を合わせている姿をみると、こうやって昔ながらの風習が受け継がれていくんだなあと頼もしく感じます。夏は京都の家族的な一面が垣間見られる季節なのかもしれません。

文・写真:星野 佑佳

■星野 佑佳(ほしの ゆか)
京都市生まれ、在住の女性カメラマン。エッセイニスト。
2000年、海外放浪の撮影旅に出、帰国後自然風景や旅風景を求め、日本全国を旅しながら撮影。桜を追いかけて全国を旅する女性カメラマンとして、TBS系のTV番組に出演。2005年頃から再び、地元である京都の風景や行事を中心に撮影、現在に至る。

 2007年度クラレ社の企業カレンダー(B3サイズ14枚)
 JR北海道 2007年春の海峡物語キャンペーンポスター(2007年4月著)      ほか

夢は「今までの旅で撮影した写真をフォトエッセイ集としてシリーズで出版すること」


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