周囲に心を開かず、自暴自棄に見える末期の肝臓がん患者・土屋尚雄。病院からたびたび姿を消してはナースたちを心配させる、彼の行動にはある理由があったのです。普段は「強面キャラでグイグイ行く役が多い」という遠藤さんに、今回の土屋尚雄役への思いをお伺いしました。
―このドラマのオファーが来る前にモデルの田村恵子さんのドキュメンタリーをご覧になっていたとか。
ホスピスのドキュメンタリーということで、心に残っていました。この役が決まってDVDを見たのが、それだったんです。内容を全部覚えていて、不思議な縁だと思いました。
―よほど印象に残った番組だったかと思います。印象的だったところは?
娘さんの結婚式に列席する希望を持つ患者さんが、それが叶わないものの、病院でウエディング姿の娘さんと記念写真を撮った時の笑顔ですね。それと、ホスピスナースが患者さんの話を、聞いて、聞いて、聞いてあげる姿。一切を受け止めて聞き続けるのは大変だと思います。そこに感動しましたね。DVDでとても印象に残っていたので、田村さんに初めてお会いした時に、思わず、「お久しぶりです」と言ってしまいました(笑)。
―土屋について、また実際に演じられていかがでしたか?
土屋は家族もなく、天涯孤独な男。亡くした妻の面影を最後に追おうとする。そういう男に残されているのは心の中の感動しかない。それしか持っていけない。そこをゴールにして演じました。土屋がかつて暮らしていた場所ということで淡路島の洲本にロケに行ったのですが、その時は土屋の気持ちから、シーンの順番を逆にする提案をさせてもらいました。監督が臨機応変に対応してくれて、柔軟さを感じました。土屋は末期がんの病人なので、演じていて「心が疲れた」と感じました。役ですらそうなので、本当の病気の人は想像できないくらい、大変だと思います。心の葛藤は生半可なものではないと思う。出来ればその気持ちに近づけたいと思って内にこもるエネルギーを使うので、凄く疲れましたね。
―土屋と遠藤さん、似ているところはありますか?
おくびょうなところ、かな? 土屋もおくびょうで自分の思い出となかなか向き合えない。僕も恥ずかしがりやなんで…。舞台が苦手です。人に見られるのが。人前で芝居するのが恥ずかしい方なんです。台本を毎日反復するのは、きっとおくびょうだから。自信がないんですよ。でも、だから努力する。芝居というのは、どっか嘘をついている。嘘から先につらぬけた芝居はなかなか出来ないんです。目指しているけど。ものを創作したいという気持ちはあって、そこには、代えがたい喜びと達成感がある。だからやっているんですが、でも精神的にはよくない。精神的に安定するのは、バイトでやっていた単純作業の方ですね(笑)。
―真矢さんとは初共演ですね。他の出演者の方とは?
真矢さんは優しいし、ユニークだし、人柄が素晴らしい。僕の中で女優さんベスト3に入っています。役に対して真摯に取り組んていらっしゃるし、ものすごい勉強家だと思いました。岸本さんは「飲み仲間」。とはいうものの1回しか行ったことはないんですが(笑)。1つ違いですが、同い年だと思い込まれています。本仮屋さんとは映画で2回ほどご一緒していますね。
―このドラマを通じて改めて考えられたことがあればお願いします。
普段、死を考えることは、「暗いこと」だと思って避けている。決してそうではなく、若かろうが、年を取っていようが、死ぬことは誰にも確実に起こる。それなら、死から考えて、残りの人生をどれだけ充実した生き方をするかを考えるのがいいと思うんです。でも、現実にはなかなかそうは出来ないでしょうけれど。感謝と感動で死を迎えられたら、理想だとは思いますね。俺はどちらかといえば「人は生まれ変わる」と思っている方で、死は次の生への出発だと思える。死は避けるものではなく、万人に訪れるもの。死を考えることで、新しい生き方を考えるきっかけになれば。まだまだやれることがいっぱいあると思うんです。そして生きていることに感謝したいですね。