実在のホスピスナース田村恵子さんをモデルとした、田辺礼子を演じた真矢みきさん。事前に田村さんと会って話を聞き、実際にホスピスの研修も受けられて、演じることに、「とてもプレッシャーがあった」と、役作りにずい分と悩まれたそうです。ご本人曰く「産みの苦しみ」の中から、次第に田辺礼子になりきった真矢さんにお話をお伺いしました。
―まず、このホスピスナース役のオファーが来た時のお話をお聞かせください。
最初のオファーは2年前にお伺いしました。これまで何かとシングルマザーやキャリアの役が多かった私にホスピスナース役。普通はキャスティングされないと思ったんです。その理由を探して、モデルの田村さんがいらっしゃる淀川キリスト教病院へお邪魔して、実際に田村さんにお会いしてお仕事を見せていただきました。田村さんを一目見た時、笑顔が形状記憶されていて、すごく素敵な方だと思いました。
―半日、ホスピス研修という形で、モデルの田村さんの指導で患者の方々と過ごされたんですね。
患者さんは、世間のどなたよりも、「生きてる」ことに喜びを持っていらして、1秒1秒を過ごされている方ばかりでした。陽だまりのような場所でした。無欲の、人間の欲が全部そがれたすごみがあって、魂の美しいところだけが際立っているような。その世界観にとてもプレシャーを感じました。
―ホスピス研修で印象に残っていることはありますか?
実際に4人の方にお会いできました。なかでも、60歳前後の男性の患者さんから、関西弁で「俺な、無理したからこうなってんけど、あんたも頑張りすぎて無理したらアカンで」と言われて、がんにならないための予防の話をほんとうに一生懸命教えてくださったのが、一番印象に残っています。私が研修に行った月曜日には、カンファレンスでろうそくの灯をともして、1週間の間に旅立たれた方の名前を読み上げるのですが、毎日どなたかの名前が読み上げられて…そのことにも衝撃を受けました。
―役作りにはずいぶん、悩まれたようですが。
私の父はがんで他界したのですが、その時は化学治療を選択しました。どちらがいい、悪いというのではなく、選択という自由があると思います。ホスピスは想像よりも心のケアの大切さを感じました。「人生まるごとケアする」ような、繊細で丁寧なお仕事に感銘を受けましたし、実在の人をどう演じるか、ホスピスをどう表現するのか。ドラマなのでリアリティばかりを追い続けると、また違ってしまうので、そこで試行錯誤しながら「産みの苦しみ」をしていました。
―実際に収録が始まってみていかがでしたか?
実話があってドラマ化されているので、決して嘘はつかない、嘘にはならないようにと思いながら、あっという間の2週間でした。変なごまかしは利かない現場でした。ホスピスナースのように人のセリフを聞こう、聞こうとしているうちに終わった感じです。だんだん、私も欲をそぎ落とされて、こう映りたいとか、こうしようとか思わなかったですね。服装とか、何にも欲がなくなって。持ってきた服もほとんど着なかったくらいです。最後の3日間は役作りが要らなかったです。「本番って何?いつでもどうぞ」っていうくらい。収録が終わってみて、「私、本当にホスピス病棟にいたんだなあ」と思いました。
―次第に田辺礼子になりきっていかれたんですね。
初日、2日目くらいまでは焦りました。明るく、前向きにもがいて4日目。まず、非常に笑顔が増えました。共演の石田ひかりさんから「真矢さんって静かな方なんですね」と言われたんですが、事務所の社長から「信じられないわ!?」って(笑)。これが本当(の自分)じゃないくらい、役にどっぷりつかりました。オンとオフの切り替えがなくなって、患者さんの容態が悪化する夢を見たりもしました。
―それほど心を込めて演じられた田辺礼子役、このドラマをご覧になる方へのメッセージをお願いします。
ドラマを通じて、いろんな人の思いや希望が芽生えて、人生がきらきらと輝いて見えるホスピスという世界があるんだというのが、もっともっと浸透したらいいと思いますね。ひとりひとりが支えあうという絆が強まったらいいなと思います。